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JET AGE ~大航空時代~  作者: 津辻真咲
9/15

航空警察


「廃材置き場へ行こう」

「え?」

 立ち止まる銀河に、遥も足を止める。

「俺が一から作る」

「本当?」

 遥は、回り込んで銀河の顔を覗き込む。すると。

「俺がただただ整備士やってると思ったのか?」

 銀河は、横目で彼女を見た。

「うー……、うん」

 遥は、満面の〈照れ笑い〉。それを見て、銀河は呆れた。

《……》

〈……〉

二人は、それを見て、黙っていた。

「行くぞ」

「うん」

 遥は、銀河のあとをついて行った。




廃材置き場。無人のゲートを通過すると、緑がかった透明な仕切りがそびえ立っていた。そこからは、大量の廃材が見えている。雨ざらしになっていない分、酸化鉄などへは変化していないようだった。ただただ、使用されて、一旦、この土地へ収納されているというような感じである。

その廃材を四人は、見上げる。

「ここのパス・カードは、持っているの?」

「あぁ」

 太陽光が、銀河の持っているカードで全反射する。その光が再び空へと進んでいた。

 銀河は、パス・カードを機械へかざす。

 Clearの文字と共に、自動ドアが開く。そして、そのそびえ立っている廃材置き場のエレベーターが降りて来た。四人は、乗り込み、最上階へ。そこから、使えそうな廃材を探した。

銀河以外の三人は、適当に廃材をあさる。専門職ではないので、見分けがつかない。一方、銀河は……。

――これと、これ。まだ使えるな。

 必死にあさっていた。

――修理道具はあるから、あとは修理して再利用として……。

――ネジは……。

ネジを取ろうと、手を伸ばす。しかし、複数こぼしてしまった。

――しまった。

 しかし。

 そのネジたちは、転がり、ある一本の金属棒へとくっ付いた。

――まさか、磁石!?

 どうやら、落雷が原因のようだった。

 金属は、落雷など、強力な電気を流されると、磁石のように磁力を帯びる事があるのだ。

ガタガタガタガタ……。

銀河は、そこの周辺の廃材をあさる。

――銅線もある。

「コイル?」

 遥が後ろから、銀河の左肩ごしに、手元を覗き込んできた。

「あぁ」

「へぇー」

「遥」

「ん?」

「組み立てるの手伝え」

「うん、分かった」

 遥は、笑顔で答えた。




 夏至前の太陽の下、銀河はマシンを組み立てる。遥と二人は、それをじっと見ていた。

――銀河に頼りっぱなしのような気が……。

 遥は、黄砂をかかえて、しゃがみこみ、少し落ち込んでいた。手伝ってみたものの、役に立てなかったようだ。

《どうしました?》

 彼が話しかける。

「……ううん。なんでもない」

《……》

〈……〉

 遥がそう答えると、黄砂とすぐ近くの素浦も黙ってしまった。

 すると、こちらへネジが転がって来た。

〈あ。僕が持っていくよ〉

 素浦は、そう言うと、ネジを掴み、ふわふわと浮遊しながら銀河のもとへ運んでいった。

《幼なじみですか?》

「え?」

《彼とは》

「うん」

《そうですか》

「?」

《……チーム》

「え!?」

《素浦が教えてくれました。〈かくれが〉の時の記憶のコピー》

「え!?」

《だから、ここは銀河さんの得意分野なので、任せましょう》

「……、うん」

 遥は、彼の言葉が嬉しかった。


 すると……。

〈遥!!〉

 素浦が遥と黄砂の二人を呼ぶ。どうやら、マシンが完成したようだ。

 その航空マシンは、白い固定翼のマシンだった。

――これは、どうすれば?

 遥が操縦席を確認する。

「以前のものとそっくり!! 似せてくれたの?」

「あぁ」

「ありがとう」

 遥は、笑顔になった。




 ……ォォォ……。

 何かの気配に銀河は、遠くの空を見た。

――銀河?

 遥もその方向を見る。すると。

……ゴォォォ……。

――航空警察。

《どうかしましたか?》

 黄砂は、少し慌て気味に、遥へ尋ねた。

「遥。離陸の準備をしてくれ」

「え、うん。分かった。急ぐ」

 彼女はそう言うと、マシンに乗り込み、エンジンをかけた。

〈2機〉

 素浦は、その航空警察が向かってくる空を少し眺めていた。

「急ぐぞ。素浦」

 銀河が彼を鷲掴む。

〈あー〉

 そのせいで、素浦は少し伸びて、空中を引っ張られていく。

〈……〉

――こちらには、気づいてないようだけど。

 素浦は引っ張られながら、そっとその2機を見ていた。しかし、だんだんその2機が近づいて来ているのは確かだ。

……ゴォォォ……

 エンジンがかかり、マシンは轟音で向こう2機の音をかき消す。そして、その轟音と共に空へと飛び立っていく。

『あの航空マシン、未登録のようです』

『確かに。カーソルを合わせても、ID番号が出てこない』

『追跡します』

『了解』

 2機は通信を切り、彼らの追跡を始めた。

『こちら航空警察110。応答後、即着陸態勢に入りなさい』

 航空警察の片方が通信機器を通して、静止を求めて来た。

――気づかれた!!

 銀河と二人は、後ろへ視線を送る。

――どうやって振り切れば?

 遥は速度を上げる。マシンはみるみる速度を上げ、音速へと近づいていく。

「黄砂」

《何でしょうか?》

「このマシンに、風弦は適応できるか?」

 銀河が尋ねる。

《えぇ。一応、マシン全般大丈夫です》

「どうして?」

遥が会話に入ってきた。

「後ろ」

 銀河は一言。

「?」

遥は後方を確認する。すると。

――え!? 何で!?

後方には、続々と航空機が集まって来ていた。

――厄介だ。

 銀河は、後方を見ていた。

「遥」

「何?」

 彼女は、振り返らずに尋ねる。

「住宅街は避けよう」

「うん」

――ここから、日本アルプス山脈伝いに鳥取砂丘へ抜ければ……。

「山脈沿い、もつか?」

「大丈夫」

 遥は、振り向かなかったが、微笑んだ。

「分かった」

――まぁ、いざとなれば、風弦。……頼りすぎか。




数分後。二人の宇宙生命体は後ろを見ている。

《ずっと、ついて来ますね》

〈どうしましょう〉

「一度見つかったら、絶対に振りきれないよ?」

 遥が伝える。

《そうですか》

〈へぇー〉

――検挙率、99%。

 銀河は後方を睨む。

「確か、偏西風が強まっているはず」

「え? どういう事?」

 遥が聞き返す。

「鳥取の火山が一週間前から噴火してるだろ。火山灰が関西地方まで伸びている。だから、今年の関西エア・レースが中止になったぐらいだ」

「そういえば、ニュースで……」

 ……。

「突っ切るの!?」

 しばしの沈黙のあと、驚いた様子で遥が一瞬、振り返る。

「あぁ」

「エンジン壊れる!!」

 銀河の返事に、遥は頬を膨らませて反対した。

「後ろの航空警察もついて来ないだろ。壊れるし、墜落する可能性もあるし」

 銀河は、腕組みをしていた。

「だったら、こっちも墜落するよ!!」

「黄砂」

《何でしょう?》

「……」

《あ、いいですよ》

銀河の目配せに、彼は笑顔で返事をした。

「悪いな」

《いえいえ》

 黄砂は、目元がほぼ一直線になるほど、和みながら答えた。




辺りがだんだん薄暗くなってきた。火山灰がだんだん濃くなってきたのだ。

――警報は、きっとここの地域にまで出ているはず。

 遥は、ガラス越しに目をこらす。

「旋回して下さい。旋回して下さい」

警報と共に、機器がうなる。

――そろそろ、もたないかも。

 遥は次第に焦りを抱いていた。通信機器からは、大音量で航空警察の着陸要請も聞こえてくる。

『今すぐ、旋回して戻りなさい。危険です。早く!!』

「無視しろ」

 銀河が、後部座席から身を乗り出してきた。

「え、本当にいいの!?」

遥は慌てる。航空警察は次々と旋回して退避していく。

――どうしようか……。

――エンジン音が変化している。

――私にも分かるのだから、銀河もきっと分かっている。エンジンの限界。




視界がかなり悪い。

――きっと、ここは火山灰の煙の中だろう。

――危険すぎる。

しかし、銀河には、これしか方法が思いつかなかった。あの時のように。

自分の製作した機体が大破しようとも。


エンジンから異常な轟音が鳴り響いている。まだ視界は開けない。

――もう、もたない。


 銀河は、昔を思い出す。

――10年前。あの時、君は泣きながら謝っていた。

『ごめんね……』

――まだ、変わっていない。あの頃からの立場。

――俺のいない世界を知らずにいてくれればいいのに。


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