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JET AGE ~大航空時代~  作者: 津辻真咲
8/15

空賊 ~空の不良(ライダー)~


「銀河!!」

 遥は、空賊の航空マシンが飛び去った遠くの空を見つめていた。

〈遥〉

――え?

 彼女は、自身の名を呼ぶ声に振り返った。すると、素浦がロープをすり抜けていた。彼は、無形型宇宙生命体。よって、自身の身体を自由自在に変化させることができるのだった。

〈急いであとを追……〉

 ……。

 二人がじっと、素浦の方を凝視していた。

《あの、私のロープもほどいてもらえませんか? そうしないとみんなであとを追えないので》

 黄砂がぽつりとつぶやくように、頼んだ。

〈そうだった〉

それを聞くと、彼は急いで二人のロープをほどいた。

〈どうしようかな〉

「……」

 遥と素浦の二人は、遠くの空を見ていた。

《大丈夫です》

 黄砂が二人に言った。

 すると、遥は素浦と共に彼の方へ振り向いた。

《幸いにも風弦は、私たちが持っています。それを使って、着陸をさせればいいんです》

《でも、空賊のように地面に叩きつけるのではなく、最初は普通に着陸させて、二度と〈離陸〉が出来ないように風弦で押さえつけておくのです》

 遥の表情が明るくなる。

――銀河を助けられる。

〈では、早く行こう〉

 素浦が黄砂の体を引っ張り、急かす。

《少し、落ち着いて……。ここからでも操作できますし、風弦は、遥さんのポケットの中です。彼の近くではありません》

〈え……〉

《大丈夫ですよ》

彼はそう言うと、瞳を閉じた。




 一直線に尾を引くひこうき雲。青い世界に境界線が出来たかのように美しくのびていた。辺りは轟音。そして、地面に近づくにつれ、音は空気のゆらぎにかすれていく。

 そんな図形のような世界の中で、一瞬にして精密さが崩れた。

「!?」

 急に機体が傾いた。そして、そのまま急降下を始めた。

「おい、どうした?」

「すみません。原因不明です」

 機体は、落下の速度を上げる。地面が次第に見えてくる。しかし、点灯するのは、警報装置だけだ。その他の原因を知らせる緊急のものは、全く反応していなかった。

ゴォォォ……。

地面が近づく。

――原因は、一体!?

 焦る操縦士と、香椎ミアの後ろの座席で、縛られた銀河がそれを黙って見ていた。

――遥たちだな。




瞳を開き、再び覚醒する。

黄砂の虹彩が何段階かに分けて、拡大縮小を繰り返していた。




「原因を調べろ。急げ!!」

「はい」

 落下原因は、不明。決して見つからない、風弦により操られているというのだから。

 地面がもう迫っている。仲間の機体は、はるか頭上へと移動してしまったかのようだ。香椎ミアと銀河、そして、その操縦士だけが乗った機体だけが急降下をしている。仲間たちは、気づいているのだが、時間が足りていなかった。

「おい、原因は分かったのか?」

「まだです」

――ちっ、どうなっている!?

「早く、上昇させろ!! 死ぬぞ!!」

 香椎ミアが叫ぶ。

「ミア!! もう無理だ。脱出しよう!!」

 仲間の操縦士は、諦めていた。

 すると、その時。

 機体の急降下が停止した。

 機体は、数秒間、地上50メートル付近で停止すると、その後、秒速数メートルでゆっくりと降下し始めた。

「江夏!!」

 香椎ミアが叫ぶ。

「すみません。分かりません!!」

――てめぇ、何をした!!

 香椎ミアは、銀河の方へ視線をやる。自身でも半信半疑だったが、原因の一つは銀河に関係しているということに気づいていた。

 ヒュ……。

 地面の砂が優しく舞う。機体はとうとう地面へと着陸した。

「江夏、離陸は可能か?」

「不可能です。全て正常ですが、浮上出来ません」

「……」

――まさか、本当にこいつが?

 香椎ミアは、後部座席の銀河を見た。




《今、機体の再浮上を阻止しています》

「行こう」

〈うん〉

 遥と素浦の二人は、銀河のもとへ向かおうとする。

《大丈夫です》

 遥は黄砂の声に足を止めて、振り返る。

《風弦を使って、こちらへ引き寄せます》

「え!?」

〈引き寄せる?〉

 素浦は、きょとんとしていた。

……ァァァアアアガガガガガガ!!

耳をすませていると、遠くから轟音が聞こえてきた。

――機体が、引きずられている!!

 素浦は、遥の右肩に乗り、身を乗り出す。

 機体は、風弦によるエネルギーの影響を受け、尾翼を先頭に三人のもとへスライドして来ていた。そのため、地面と擦れ、胴体部分が激しく損傷していた。

「銀河!!」

 遥は、彼の名を呼んで、その機体に駆け寄って行く。

――遥。

 彼は、走って来る遥に気づいた。しかし。

 ……カチャ。

 何か、後方で金属の音がした。

香椎ミアが、銀河の後頭部に銃を突きつけていた。

――銀河!!

 遥も黄砂も、素浦も気づいた。

「俺らのマシンに何をした?」

 彼は、自らが突きつけている銃の延長線上にある銀河の後頭部を凝視している。

「お前らの目的は、俺たちのマシンの部品だろ?」

 銀河は、振り返らずに聞き返した。

「あぁ。だが、マシンをここまで破壊されたら、黙ってはいられない」

「……」

 沈黙が流れる。

「答えろ。なぜ、浮上せず、その後、後方へと引きずられたのか」

「……」

 香椎ミアは、銃の延長線上から視線を逸らした。

――あの2体の機械、一体。

 香椎ミアは、遥の周りで浮遊している二人を見ていた。それに気づいた二人は、遥の後ろへ隠れた。

《気づかれたら、大変ですね》

〈確かに、そうかも〉

 彼ら、二人は、必死にごまかそうとしていた。

「ちっ」

 香椎ミアが舌打ちをした。それと同時に銃口を銀河から外した。

「話したくないならいい。が、お前、エンジニアだろ?」

 彼は、銀河の服装を見て言う。

「直せ。俺らのマシン」

 銃身を軽く右肩に乗せて、銀河の目を見た。

「……」

 しばらく、二人は、睨み合っていた。二人とも、苛立っているようだ。




「マシンの修理、私がする」

遥は沈黙を破り、右手を上げた。銀河をかばいたかった、その一心で。

「……」

 香椎ミアは、彼女を見た。眉間のしわは、変化しない。

「そうしてもらおうか。このままでは、飛び立てない」

 彼はそう言うと、銀河から視線を逸らし、遥を見た。

――銀河。

 一方、遥は銀河の方を見た。

「遥。お前は、黄砂たちといろ。俺が修理する」

「え?」

「怪我ぐらい平気だ」

 銀河は、ポケットから作業用の手袋を取り出しながら、話す。

「それから……」

 彼は、遥から香椎ミアへ視線を移す。

「修理したら、病院まで連れていけ」

「あ?」

 香椎ミアは、不機嫌そうに声を出す。

「怪我してるんだ。止血が完璧じゃない」

 手袋の装着の時、銀河は左肩を痛みでかばった。香椎ミアは、それを見ていた。

「……仕方ねぇか」




1時間後。夏至前の太陽が大空の頂点へ差しかかる。そんな頃。

「以上だ」

 銀河は、作業用手袋を脱ぎ、軽くはたいた。

「もう、いいだろ。乗せていけ」

彼は少し疲れ気味で香椎ミアたちを見た。

「あぁ、後ろ2席空いている」

 彼は、修理されたばかりの自身のマシンへ向かい、指をさして示した。

 遥が黄砂を。そして、銀河の膝上に素浦が乗った。




 数分後。日光よりも早く着いた病院は、午前の部が終わりかけていた。

「ありがとな」

 銀河は、あっさりと御礼を言うと、マシンから飛び降りる。

――痛ぇ!!

 彼は、飛び降りた後に気づいた。左太ももの怪我を忘れていた事に。

「ありがとう!!」

一方、遥は病院の入口の方へ歩きながら、飛び立とうとしているマシンへ片手を振る。

「じゃ」

 香椎ミアは、軽く右手を振り返す。それを見送ったあと、すぐ四人は、病院へ入っていった。

 自動ドアが開く。

 すると、ちょうど待合室にいた看護師の女性と目が合った。彼女は、視線を下げる。そして、銀河の大量出血に気づいた。

「え、え!? どうしましたか!?」

 この病院は外科なのだが、小さな開業医のクリニックだった。

「レーザーに被弾しました」

 銀河が一言で説明する。

「分かりました。さ、こちらへ」

彼女は、救急外来の診察室へ案内した。

再び、自動ドアが開く。今度は、緊急治療室の自動ドア。

「付添いの方は、ここでお待ちください」

 看護師の女性に説明され、遥と二人は、黙って従った。

 そして、目の前の自動ドアは、素早く閉じた。

「……」

〈遥?〉

 素浦は、彼女の足元から見上げる。不安そうな遥を。



 10年前。秋口。

 その日は、遥の人生で2回目の航空レースの日だった。

 太陽は、少し南回帰線へと傾きかけていた。そんな日差しの中、遥ともう一人、銀河が立ち尽くしていた。

「遥が無事で良かった」

幼い銀河は、笑顔でそう言った。

頬には涙のあとが……、それが、太陽に照らされていた。



――そういえば、私。レースでクラッシュしても、大丈夫だったような気が。

 遥は、下を向いて記憶を思い出しながら、考え込んでいた。

――銀河。

――レースで優勝してから、いつもスポットライトが当たっていた私の事、サポートしてくれていたんだな。

――気づくの遅すぎ……。


 遥の目の前の自動ドアが開いた。

「待たせたな。10分で〈完治〉したから」

 銀河は、申し訳なさそうに目を逸らせながら説明した。

「うん」

 遥も、記憶を思い出しているうちに、申し訳なくなっていた。

《私たちの医療よりもすごいかも》

 黄砂は感心する。彼はいつのまにか素浦の上に乗っていた。


「遥、行こう」

「うん」

遥は、笑顔を見せた。

 黄砂と素浦は、二人のあとを追って行く。

――でも。

 遥は、銀河の後ろで表情を曇らせる。

――レーサーと整備士だからといって、ずっと一緒にいられるのかな?

――大丈夫。チームだもん。

 そう思ったけど、銀河の背中が逆光で見えなかった。


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