記憶
「泣くな」
〈!〉
「お前の持っている俺の記憶は、まだ途中だ」
〈え?〉
「最後まで奪ってみろ」
銀河は、手を差し出した。
無形型宇宙生命体は、彼の手のひらに自分の手を当てた。
……ヒュン。
記憶がコピーされる。
そして、
銀河は、微笑む。
『遥、もう泣くな。俺たち、チームじゃないか』
最後の記憶が無形型宇宙生命体の彼の中で再生された。それを見て、彼は黙ってしまう。
〈そう思っているのかな。僕の事、弟だと……?〉
〈……〉
沈黙は続く。
〈……〉
――さてと、これから、どうするか。
沈黙の中、銀河は考えている。
――今まで遥か上空にあった〈かくれが〉だけど、いつまでも見つからないとも言えないし。
〈どうかしたのですか?〉
無形型宇宙生命体の彼は、銀河に尋ねた。銀河の気配の変化を察知した。
数分後。
〈じゃ、ステルス機能つける事、出来るよ〉
「え!?」
遥は、少し瞳を輝かす。追われている事を知った無形型宇宙生命体の彼は、自身の出身惑星の技術を応用させようとしていた。
《あなたのステルス機能と私の惑星のステルス機能は、同じ原理でしょうか?》
黄砂は、手を差し出す。彼の技術に興味を持ったようだ。
〈いいですよ〉
彼は、手を黄砂の手に当てる。
……ヒュ。
《……同じですね》
彼らは、少し微笑み合う。
――説明しろよ。
銀河は、それを少し困惑して見ていた。
《お名前を伺ってもよろしいでしょうか?》
黄砂は、目の前の無形型宇宙生命体の彼に尋ねた。すると。
〈素浦といいます〉
彼は、そう答えると、立体映像で文字を映した。
――漢字?
遥が不思議に思った。
〈アーサーとナサが〈当て字〉というものを作ってくれました〉
――当て字なのか。
銀河は、一番後ろで聞いていた。
〈!〉
《どうかしましたか?》
黄砂が尋ねる。
〈何か来る〉
無形型宇宙生命体の彼は、映し出された映像を見上げる。
〈6機……〉
立体映像には、音速で近づいて来る6機の航空マシンが映し出されていた。すると。
轟音が響いた。かくれがが攻撃された。素浦は、動じずに立体映像を見上げたまま、動かない。
〈……破壊されている〉
彼は、そうつぶやく。赤色灯とアナウンスが緊急避難を警告している中。銀河は、遥の右手を掴むと、走り出す。
「逃げるぞ」
黄砂もそのあとを追う。でも、遥は振り返る。
――素浦が、まだ残っているのに!!
彼の姿が小さくなっていく。そんな事を気にしている遥を銀河は、少し気にかけた。そして、足を止めた。
《え!?》
黄砂は慌てる。
「この〈かくれが〉の強度じゃ耐えられない!! 一緒に来い!!」
銀河が叫ぶ。彼は、振り向く。
〈……ここが、僕の〈住処〉だ〉
「いいから来い!! 〈三つ目〉を見つけろ!!」
銀河は、彼に駆け寄る。
「それに〈一つ目〉は、まだ失ってない」
――故郷の惑星。
彼の身体の一部を掴み、走る。緊急事態用のアナウンスがカウントダウンを始める。残りわずかだった。
轟音が再び響く。
――もうすぐ、出口。
――見えた!!
皆は出口を抜け、航空マシンにたどり着く。
「このマシンに乗……」
遥が言葉の途中で、話を止めた。
《?》
「このマシン、2人用……」
銀河が遥の後方で、素浦と共にこける。
「黄砂は、俺が後方で抱えるとして……」
銀河は、素浦の方を見る。
〈僕は大丈夫。そのまま飛び降りるから〉
「え!?」
〈でも、推進は出来ないから、航空マシンの後方の翼には、しがみつくけど……〉
「……そう」
銀河は驚きで、しばし固まる。
皆は、轟音と共に落下していく。
〈――――――――――〉
素浦は、降下していく航空マシンに必死にしがみつく。
すると、先ほどの轟音の主が目視できた。
――あれは。
「空賊」
轟音の中、何かがこちらへ向かってくる。
「遥!! 追跡ミサイルが来た!!」
「確認済み」
遥は、機体を回転させて、追跡ミサイルを避けていく。が、しかし、多勢に無勢、追跡ミサイルの餌食になった。
「パラシュートの準備はいいか!! 地面に叩きつけられるぞ!!」
《え!?》
銀河は黄砂に言い放つ。それと同時に機体が急降下し始めた。
《何でーーー!?》
轟音が大地に響き渡った。1機の航空マシンが追跡ミサイルにより墜落した。
ヒュュュ……。
何かが空から落ちてくる。そして。
ドゴッ……。
遥、銀河、そして無形型宇宙生命体の素浦を頭上に抱えて、黄砂が地面に着地を果たす。小さな2本の脚が地面に食い込んだ。
「黄砂、ありがとう」
――まさか、パラシュートまで開かないとは。
銀河は、生還に少し鼓動を速くしていた。
――逃げる手段がなくなった。ここからどうするか。
銀河は、相手の機体を見上げる。
「遥、走って逃げるぞ」
「え? うん」
その声に、黄砂も素浦も振り向いて、後を追いかけて行く。
《わっ》
「何」
停止ネットだった。
「ただの資金集めの為だったが、まさか、変わった機械が一緒に捕まっているとはな」
「あぁ、まったくだ」
空賊のリーダーらしき人物が近づきながら、すぐ側の仲間と話していた。
――機械?
――こいつら、この二人が宇宙生命体だと、まだ気付いていないようだ。
銀河は、相手の顔をじっと見た。
《機……》
「言うな!!」
銀河は、黄砂の声を遮るように、彼を背後へ隠した。
「遥、何も話さない方がいい」
「え?」
遥は、きょとんとしていた。まだ、そこまで気づいていないようだった。
「何を黙れと言っているかは、知らないが……。お前らは、これから俺たちの人質だ。警察から逃げるための盾になってもらうよ?」
《何》
「捕まえろ」
〈え〉
「変な飛行物体を攻撃してまで、捕まえたかいがあったかもな。機械もロープで縛れ」
「はい」
「人質はこの二人でいい」
「OK。分かった」
仲間は、四人をロープで縛った。
「うぜぇんだよ!! 離せ!!」
銀河が暴れる。しかし。
「痛っ」
傷口が痛んだ。
「けが人は、安静にしてろよ」
空賊のリーダーは、少し面倒くさそうにして、その言葉を吐き捨てた。
彼は、香椎ミア(カシイ ミア)。空賊のリーダーだ。金色に近い淡いオレンジ色の髪色と虹彩をしている。服装は、カッターシャツにネクタイなのだが、ラフに着こなしていた。周りの仲間たちもそういう雰囲気で、制服の者もいた。
「おい。お前ら、行くぞ」
「はい」
すぐ横の仲間、江夏が返事をした。すると、それと同時に、彼は片手を地面につき、倒れ込んだ。
香椎ミアが振り返る。すると、黄砂と素浦が暴れていた。
――何なんだ!?
「ミア……」
江夏が苦しみながら、必死に立ち上がろうとしていた。
「ちっ」
それを見て、香椎ミアは彼に肩を貸すと、仲間たちを引き連れて、立ち去ろうとした。
〈遥!!〉
素浦は、おとりで暴れまわる黄砂の側から離れ、遥の方へ助けに行く。それに気づいた香椎ミアは、叫ぶ。
「人質は一人だ!! 行くぞ!!」
他の仲間たちは香椎ミアの命令に各自返事をして、航空マシンへ乗り込んでいく。
「銀河!?」
銀河が連れて行かれる。次の瞬間。
ゴォォォ……。
轟音が一気に小さくなっていく。航空マシンの群れは、飛び去っていった。
――銀河!!