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JET AGE ~大航空時代~  作者: 津辻真咲
2/15

深緑の部品


「おじいちゃん!!」

 遥が修理工場の祖父のもとへ駆け寄って来た。

「どうした? 遥」

「あの、頼み事があって」

困った顔をする。

「そんなに困った事なのか?」

 祖父は、作業用の手袋を外した。

「うん。この子を助けて欲しいの」

「この子? どこにいるんだ?」

彼は、辺りを見渡す。しかし、人影はない。

「この子なんだけど……」

遥は、両手のひらに乗っけた宇宙生命体を見せる。その宇宙生命体の彼は、手のひらの上でテレパシーで挨拶をした。

「……」

――ぬいぐるみ、じゃない?

――何か、聞こえたような。

 祖父の空隙は、しばしの時間固まって考え込んだ。

――これは、何だ?

「この子は、宇宙生命体なの」

「何!?」

 祖父は、黄色いぬいぐるみから遥へと、視線を移す。

「昨日のレーザー円盤型貨物便が墜落した場所の砂丘にいたんだ」

「……」

いつも一緒に仕事をしていて信用できる銀河の言葉に、戸惑った。

――彼まで、嘘をつくとは思えない。が、しかし。

「昨日の突風の部品といい、宇宙生命体といい、一体どうなってる?」

《突風の部品!?》

「な、何!? また変な所から声が聞こえる!?」

 祖父は再び動揺する。

「どうしたの?」

 遥は、宇宙生命体の彼に尋ねた。

《その突風の部品、エメラルド色ではありませんか!?》

「え!? 何で知ってるの!?」

《その部品は、私たちの開発したスペース・シャトルエンジンの動力源なんです》

――動力源?

 祖父は、声の発生源に気づく。

――まさか。

――しかし、昨日の突風は、今の人類には少し無理があるような。

《その部品は、今、どこにありますか?》

「私が持ってるよ?」

遥は胸ポケットからその部品を取り出す。

《良かった。これがあれば、もといた惑星系まで戻れます》

「はい」

遥は、彼に部品を差し出す。

《これはもう少し、あなたが持っていて下さい》

「え?」

《ポケットに隠しておいてほしいのです》

「そうだね。分かった」

 そう言うと、遥かは再びそれをポケットへしまった。すると。

「その子は、どうやって帰るんだ? 遥」

 遥の祖父が現状を把握したようだった。

「えーっと、それは……」

 遥が言葉に困っていると、当の本人、宇宙生命体の彼が彼女の方へくるりと振り向いた。

《お願いがあります》

「何?」

《私と共に来た〈コール〉を探してください。私には、この惑星で知り合いはいません》

《なので、お願いします》

――黄流コール

「うん、分かった。協力する」

 遥は、笑顔で快諾した。




 黒色のプロペラ翼が地面に影を落として進む。

「目標まで、残り500メートル」

ヘリコプターの狙撃手は銃を構える。

――3.2.1.0…

けたたましい連続した音と共に修理工場の天井に穴が開いていく。

その音に、四人は壊れた天井の隙間から上空を見た。

――ヘリから撃ってきている。

「遥、白兄鷹君、ここは危ない。早く逃げなさい!!」

「おじいちゃんは!?」

 遥は戸惑ってしまった。

「早く!! 航空マシンで逃げるんだ!!」

――でも。

「行くぞ!!」

 銀河が遥の手を掴み、走り出す。そして、遥を航空マシンの操縦席へ押し込む。

「操縦しろよ!!」

「え!?」

「俺は出来ないんだよ!!」

銀河は、黄色い彼を抱えて遥の航空マシンに乗り込んだ。

すると、遥がエンジンをかけた。

エンジンは、銃弾飛び交う中、うなる。そして、三人の乗った航空マシンは、修理工場から飛び去った。

――無事でいてくれ、遥。

 祖父は、飛び去る航空マシンを確認すると、修理中だった航空機の片翼の陰に隠れ、被弾を避けた。




――ヘリは、最高時速300キロメートル。こっちは通常でも、それ以上。逃げ切れるはず。


「もう大丈夫だよね?」

「あぁ、そうだな。ここまで音速で来れば、もう追手も見失っているだろう」

《安心しました》

「あれって、どこのヘリなのかな?」

「さぁ……」

 銀河は、頬杖をして窓の外を眺めながら答えた。

「でも、俺たちを殺害しようとしているのなら、きっと標章やマークなどのペイントはされてないだろうな」

「……そっか」

 遥は、少し苦笑を隠した。後ろの座席にいる二人には見えてはいないのだが。

「ところで、このエメラルド色の部品は一体?」

《あ、そうでした。説明いたします》

宇宙生命体の彼は、少し宙に浮かんで、銀河の方を見た。

《私たち宇宙生命体は、その部品を〈風弦ふうげん〉と呼んでおります》

――風弦。

「そうだったんだ」

 銀河は黙っていた。


「あの、宇宙生命体さん」

《何でしょう?》

 宇宙生命体の彼は、操縦中の遥の方を見る。しかし、見えるのは彼女の後頭部だけだった。

「お名前は、何ですか?」

《〈コーサ〉といいます》

「黄色い砂?」

「それはないだろ」

 銀河は話の軌道修正をしようとする。

《それで構いませんよ?》

――え。

 銀河は、不意を突かれた。

「本当!?」

 一方、遥は、表情を明るくした。

《えぇ》

「えーっと、それで。私は、空競遥あおい はるかといいます」

彼女は笑顔で自己紹介をした。操縦をしていたので、その笑顔は彼、黄砂コーサには、見えていなかったのだが。

「俺は、白兄鷹銀河しらじょう ぎんが。よろしく」

彼の方は、黄砂の頬を少しつついて微笑んだ。

《こちらこそ、よろしくお願いします》

《でも、つつかないで。そこは肝臓です》

――肝臓? 銀河なにやってるんだろう?

 遥は、操縦しながら考えていた。

《ところで、遥さんの左目は義眼ですか?》

「うん。そーだよー」

彼女は笑顔で答えた。義眼も含めて、虹彩はオレンジ色をしており、髪は淡い茶色だった。今、着ているレーサーの制服は、彼女の場合、虹彩と同じオレンジ色と、黒色で構成されていた。オレンジ色の半袖に、黒色の肩章、ネクタイ、スカートと半袖の袖口。そして、マフラーは淡いクリーム色だった。

「……」

 銀河は、黙って聞いていた。遥と黄砂の後姿を見て。

《それでは、銀河さんの左目の黄金の三日月は何ですか?》

――何!?

 彼は、焦った。自分自身の話題になっていたからだ。

彼の虹彩は、髪色と同じく淡い銀色だ。一方、彼の作業着は灰色で、作業着の下には、白い半袖のカッターシャツを着ている。ネクタイは黒色で、かなり緩めたそれは、胸の半ばまで下したファスナーの内側に入れている。

「銀河のは、生まれつきだよ」

 遥が勝手に話を進める。

――って、何を勝手に!!

《生まれつき、ですか?》

「うん。銀河は、生まれつき左目の虹彩だけ光が当たると黄金の三日月型に光るの」

《きれいですね》

――ったく。

――ま、隠している訳ではないけど。

 銀河は、視線をそらせて窓の外を見た。

 ……。

――この音。

 銀河は異変に気づき、微かに聞こえた音に耳を澄ませる。しかし、次の瞬間。


《一体、何の音ですか!?》

 その音は、一瞬にして轟音と化した。

――エンジン音だ。

 銀河は、後方を確認した。すると。

「50機ぐらいは、いるな」

「え!? 50!?」

 遥も驚いた。

――空賊くうぞくだな。

《あれは、なぜ、私たちを追っているのですか?》

「相手の航空マシンを破壊して、その金属部品を奪うんだ。ただの遊ぶ金欲しさに」

《!?》

「しかも、その航空マシンを破壊する方法として、装置を改造して、航空マシンを地面に叩きつけている」

《そんな事出来るんですか!?》

黄砂は思わず、銀河に顔を近づけすぎて額がぶつかった。

「あぁ」

 銀河は、気にしてはいなかった。


「銀河、大変な事が!!」

「どうした?」

 遥の緊迫した様子に銀河は、操縦席の遥を覗き込む。

「ごめん。燃料がもうない」

「何!?」

 予想外の出来事が、焦りに拍車をかける。

――こんな時に!!

 ……。

――ん?

 遥は、右前方に何かを見つけた。

「あ」

「どうしたんだ?」

「銀河、つかまってて!!」

「え?」

 そう言うと、遥は操縦桿をきる。

 機体が右へ傾きながら、急降下して行く。

――ちょっ!? 何やってんだよ!?

 銀河は、黄砂の足を掴む。しかし、その甲斐なく、宇宙生命体の彼は窓に顔をぶつけていた。

――大丈夫。あと少し。

 遥は、機体の急降下を止めない。

「何してんだよ!!」

銀河が叫ぶ。

「高層ビル群」

「はぁ!?」

「大丈夫だから」

 遥は、高層ビル群へ突入しようとしていた。

「おい、一般の人たちがいるんだぞ!!」

「お願い、信じて!!」

 遥は一瞬、振り向いた。その時、義眼の瞳が見えた。

――そうだよな。

 それを見て、銀河は昔を思い出した。

「分かった。絶対、振り切れ」

「ありがと!!」

 遥はそう言うと、迷路のように入り組んだ、狭い高層ビル群へ突入して行った。


――スクランブル・ウェイじゃないみたい。

 機体は、建物の隙間を抜けていく。


 スクランブル・ウェイとは、都市の中に航空マシンの通る道が指定されてなく、都市内を自由に航空できるシステムである。


――ビルとビルの間隔がだんだん狭くなってきているな。

 銀河は、揺れる機内から外を確認していた。


――ちょっ!! 危なっ!!

 銀河は片目を思わずつむる。エンジンの轟音でビルの強化ガラスが振動して行く。

――割れてないだろうな。

 銀河は、少し心配になり後方に目をやりながら、黄砂の足を掴んでいる。

《なーーー!!》

《飛ばされるーーー!!》

 黄砂の方は、掴まれている斐なく、Gにより足が少し伸びて窓に顔がぶつかったままだった。


 あちこちから轟音が聞こえて来ている。音が反響していた。

――振り切れただろうか?

――この先は、確か。

「遥、上昇しろ!! この先は〈高速風路〉だ!!」

「分かってる。でも、今、上昇しても意味ないよ!! 上空に先回りされてるかもしれないのに」

《高速風路!?》

 黄砂は、二人の方を見る。


高速風路とは、進行方向へ暴風が吹いており、航空マシンは風の抵抗を受けて高速で前進する事の出来る航空道路ラインである。そのほとんどが、大型トラックなどの運搬系専用のラインで、航空マシンは皆、SONIC BOOM翼という固定翼で飛行している。


《そんな技術が……》

 黄砂は驚いていた。

「つかまってて!! 突っ切るよ!!」

 遥が操縦桿をきろうとしていた。

「黄砂、そのまま張り付いていた方がいい」

《え?》

 振り返る彼をよそに、銀河は彼を窓に固定するように押さえた。

《うー》

 その瞬間、機体が左へ飛ばされる。高速風路へ突入したのだ。遥は、目視だけで操縦し始める。 

 機体は、突入時に暴風で、右の固定翼が上になるように傾いていた。それにより、固定翼の両方に右(傾いた機体にとっては、真下)からの暴風をうけるかたちとなっていた。しかし、そのまま対向風路に突入してしまうと、機体は前方が左、後方が右からの暴風を受け、二つに分解されてしまう。よって、遥はそれを回避する為、操縦桿をきる。

 すると、機体は反転し、そのまま反対の高速風路へ突入した。

《そんな、人類って、何……》

 黄砂はGで少し潰れていた。

 ヒュ……。

《!!》

 黄砂は、暴風が止んでいる事に気が付いた。高速風路を突っ切る事に成功したのだ。

《無事だった……》

「まだ、つかまってて!!」

《え?》

 遥の声に黄砂は、きょとんとした。しかし、前方の景色に驚いた。

「停止ネットだ」



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