表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
JET AGE ~大航空時代~  作者: 津辻真咲
10/15

鳥取砂丘


警告音が鳴った。とうとう右のエンジンが火山灰の影響で停止した。

機体が傾く。

――まだだ。ここじゃない。

鳥取砂丘までは、あと少し。濃い火山灰で方向感覚が鈍る。

――鳥取砂丘へ……大丈夫、きっともつ。

遥は、機首を下げて失速しないようにした。

残り10キロ。もう少し。

残り5キロ。

残り4キロで、視界が開けた。火山灰の下まで降りてきた。

「あ!!」

遥が思わず声を上げる。滑るような曲線の砂丘が見えた。

「着いたみたいだな」

 銀河は、窓から外を見渡す。機体は、着陸態勢に入る。

この機体は、以前のものと同じくエンジンを傾けて着陸する。よって、右エンジンが停止している今は、胴体着陸だ。しかも、廃材置き場で製作したので、タイヤがない。

「衝撃まで、5.4.3…」

アナウンスが消えた。

「え!? 何で!?」

「電源が落ちたな……。仕方ないか、火山灰だ」

 銀河が冷静に言う。

――電気系統までやられた!!

 遥は、ショックを隠せないでいた。

《では、私が……》

――え?

着陸寸前、下から強い風が吹いた。正体は、風弦だった。それにより、機体は横転、大破せずに済んだ。




「暑いな」

あれから1時間。今は午後2時だ。最高気温を観測している頃だろう。四人は不時着した鳥取砂丘で今後の行先を決めていた。

そんな中、銀河は機体の修理・整備をしている。しかし、未だに右エンジンの調子が悪い。火山灰が冷えて、はらはらと落ちてはいるが、まだまだらしい。

「ところで、お前はそれで何をしているんだ?」

「ん?」

銀河の問いに、遥はおろそかに答える。彼女は携帯電話が祖先の情報端末で位置情報を見ていた。ここには、何があるのだろうかを調べている。

「この先に、鳥取高速風路第1号線が通っているみたい」

 彼女は、情報端末のディスプレイを銀河へ見せた。

「それで?」

銀河はそう言うと、右エンジンから顔を出す。作業服も顔も肌も灰だらけである。

「電車を使えば、夕方には着くよ?」

「夕方?」

彼は再び、エンジンを見始める。そして、灰を落としていく。

「2時間後の4時」

一方、宇宙生命体の二人は、ふわふわ浮いている。

「仕方ない、そうするか」

再び顔を出す時、彼はエンジンの淵にこめかみをぶつけていた。しかし、そのまま、なかったように続ける。

「運搬専用の高速風路で逃げるのか?」

「それでもいいかな? と思って」

「そうするか」

銀河は、灰だらけの作業用の手袋をはたくと、片方ずつ両ポケットへ入れた。そして、三人と共に歩き出す。最寄りの駅へ。




高層ビルたちが後方へと流れていく。そんな各駅停車の窓を、遥は一人、眺めていた。黄砂と素浦は膝の上。きっと、かわいいぬいぐるみに見えているに違いない。隣の通路側の席には、銀河が作業帽を顔に乗せて、寝ている。

――銀河。疲れてるんだろうな。

遥は抱えていた黄砂に顔を伏せる。彼はくすぐったいのを我慢しているのか、必死にうごめいていた。

「バレるだろ」

隣の彼が遥の頭に作業帽を乗せた。遥はそれを受けて顔を上げた。

「次の駅だ」

「うん」

四人は鳥取高速風路第1号線のICでマシンをレンタルし、そのまま高速風路へ乗るらしい。

電車の車内アナウンスが流れる。すると、銀河は作業帽を深くかぶると颯爽と立ち上がる。

「行くぞ」

そして、遥の右手を引いた。

「え、あ……」

遥は銀河の早足について行く。その彼は駅の流れを追い抜いて行く。その後を、素浦が必死について行く。途中からは、黄砂の足にしがみつく。黄砂の方は遥に左手でかかえられている。

駅からは、東口から出た。もうすぐ夏至。まだ昼みたいに感じる。夕暮れなんてまだまだだったろう。目の前には、バスターミナルとタクシー乗り場。どれもスカイ・カー使用の……。

この時代まで来れば、地方格差はほぼなく、全国で乗り物は上空を飛ぶ。もしくは宙に浮いている。

銀河は、バスターミナルを右側から回り込んで、少し離れた駅前のエア・マシンのレンタル店へと向かう。

――高速風路用マシンは、あるだろうか?

遥は疑問に思う。

でも、銀河はまっすぐに向かう。ときたま、右手で作業帽のつばを触り、太陽を見上げている。

――まだ、暑い。

陸時代のアスファルトがそのまま使われている。乗り物が全て宙に浮くようになってから、あまり地面は痛まなくなったのだ。

すると、涼しい風が一瞬流れてきた。

レンタル店に着いたみたいだ。

「いらっしゃいませ」

立体映像が出現する。この立体映像はタッチパネルである。

店内管理員の簡易人工知能である、彼は続ける。

「ご希望の様式をお選び下さい」

画面が変化した。

ここは、どうやらセルフサービスだった。その分人件費が削られているから安価だ。

銀河は、作業を続けている。

――右手握られたままなんだけどな。暑くないのかな?

 遥は、隣の彼の方を向けずに、左手の黄砂の様子を確認している。すると、左腕にいた黄砂がうごめき、ずり落ちそうになった。黄砂も素浦に右足を掴まれていて、大変だったのだ。

《おーちーるー……》

 黄砂は、ばたつく。それを見て、遥は膝を曲げるが落ちそうだ。すると、銀河が手を放した。でも、黄砂は地面にぶつかった。

「大丈夫?」

遥は、すぐに、落ちた彼を抱きかかえた。

「浮けなかった?」

《自分自身と彼の体重では……、ちょっと》

「だよね……」

そんなこんなで、銀河はキーを受け取っていた。

「行くぞ」

「うん」

三人は銀河について行った。マシン置き場は右のドアからだった。

「番号は?」

「A - 91」

 遥の問いに、銀河は一言で答えた。

「へぇー。今日は、かなりの貸し出し中だね。平日なのに」

「今日は、祝日」

 ……。

「あ、そうだった」

銀河は、足を止めた。91番が目の前だ。

翼は高速風路用に開発された、SONIC BOOM翼だ。翼の形が音速の壁に見えるからだ。

「操縦出来るよな?」

「うん」

遥は少し微笑む。


早速、四人はマシンへ乗り込む。

遥は後方を確認すると、搭乗口でもあるコックピットの上部を封鎖する。

「準備は?」

最終確認。

「大丈夫だ」

遥はその声を聞き取ると、エンジンをかけて、開いて行く目の前のシャッターを見つめていた。

高速風路のICが遠くに見えた。そこまでは白い外壁に囲まれた誘導線路を伝っていく仕組みだ。ジェットエンジンではなく、ゆっくりと進んで行くイオンエンジンが静かにうなる。すると、だんだんと暴風による轟音が微かに聞こえてきた。

「高速風路第1号線への使用を許可します」

 アナウンスが聞こえた。

「あ」

 すると、遥はある事を思い出した。

「チャージしたよ」

 銀河が、後部座席から声をかけてくれた。

「ありがとう。ちなみに……」

「京浜工業地帯交錯高速風路までだ」

「そんなに?」

 遥は、少し視線を後ろへ。

「……」

 彼は、少し黙る。

「?」

「夏の……」

「あ、うん!! おじいちゃんに言っておく」

遥は、笑顔で言った。




高速風路への合流地点の白いゲートが開いた。暴風が流れていく。それを遥は、ほぼ平行に高速風路の本線へと侵入していく。

「3.2.1.0…」

 と、アナウンス。

それと同時にGがかかった。

ゲートの内側に設置されている、本線へ安全に侵入させる為の加速を可能にする四段階の空気圧がSONIC BOOM翼へ向かって加圧される。機体は高速風路の最高速度までに達し、彼女らは高速風路に乗る事ができた。


「……」

機内はしばし静かだった。誰も会話をしていない。そんな時間が少し続いた。遥は、機体の操縦に集中していた。SONIC BOOM翼は、久しぶりだった。銀河は、一つ後ろの席で眠っている。怪我の治療の影響だろうか、睡魔に襲われているらしい。一方、黄砂と素浦は外を見ている。高速風路には、高速道路のような防音壁がない。よって、外の景色がよく見える。

今回、乗っている高速風路は都市の中を突っ切っているルートなので自然は見えないが、高層ビル群など様々な建築物が後方へ流れていくのが見えた。




1時間後、午後5時。

一向に太陽は沈まない。

もうすぐ、京浜工業地帯交錯高速風路。

だんだん後ろへ流れゆく景色も、次第に高層の建物である割合が高くなっていった。

「そろそろか……」

銀河がいつの間にか、目を覚ましていた。

「そうだね」

遥は相槌を打つ。

「東京まで戻って来ちゃったけど、次はどうしようか?」

「そうだな、次……」

銀河は、左側の窓の外からの一瞬の光に気づいた。

次の瞬間。

SONIC BOOM翼の機体が攻撃された。機体が衝撃で揺れる。

「遥!! 大丈夫か!?」

「……」

 遥の声がしない。

「遥?」

〈……?〉

 素浦もそちらを見た。すると……。

彼女は左腕に被弾し、大量に出血していた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ