人間の欲望と悪とたたかいぬいた飯沼はな
人間は欲望で支配されている。その欲望で突如悪へと変わっていく。他人の欲望、悪と自分の欲望、悪とたたかいぬいた飯沼はなの人生。
「この人痴漢です。」
あの日の朝、ある女子高生が通勤中私の父に言ったこの一言で私の家族、人生がめちゃくちゃになった。
「おはよー。」
「おはよー!」「おっはー!」
「ねぇ、はな。昨日のクイズ番組みた?私あの最後の問題だけわかんなかったんだけど、はなわかった?」
「うん。わかったよ。でもあれ結構ひっかけってかんじで難しかったよね。」
私の親友の有野ともこは学年2位の学力の持ち主。1位は私、飯沼はな。私たちの通っている高校は関東1頭のいいと言われている学校だ。その中で学年1位、2位の私たちは大学には指定校推薦でいける。だが、日本一の大学関東橘大学へ指定校推薦で行けるのは1人だけだった。だから私は学年1位というこの座を絶対に譲るわけにはいかない。だから毎日影で狂うように勉強している。そして高校3年生の春になった。もうすぐ指定校推薦が決まる。ここまで努力してきた。順調だった。なのに、なのに……。その日の朝いつも通り学校に行き、朝のホームルームが始まった。そのとき母からメッセージが届いていた。「お父さんが痴漢の容疑で捕まりました。」それだけだった。はじめはびっくりしたが、お母さんが普段勉強しかしない私を驚かせてやろうとした嘘なのだと思った。「もう、変な嘘つかないで。つくならもっと面白い嘘にしてよね笑」お母さんにメッセージを返信してからお母さんから新しいメッセージはこなかった。
その日の帰り道「いいな。関東橘大学の指定校推薦ははなで決まりだよ。羨まし〜!」
「わかんないよ〜。まだ確定じゃないしね。」
ともことそんな会話をしながら帰った。
家に着くとお母さんは全身の力が抜けたようにソファにもたれかかっていた。「どーしたの笑おかあさん。疲れてるのー?」お母さんは何も答えなかった。「ちょっとー、無視しないでよ。」
「大丈夫よ、はな。大丈夫だからね。」
「なに、大丈夫って。ほんとにどーしたの。」
「お父さんはやってないんだから。なんも悪いことしてないんだから。」
お母さんのその言葉を聞いてようやく私はピンときた。あの朝のお母さんからのメッセージは本当だったんだ!お父さんは痴漢で捕まったんだ!
「お母さん!お父さん今どこ?お父さん痴漢で捕まったって本当だったの?」
「朝日西警察署。大丈夫大丈夫。きっと大丈夫よ。」
私は家を飛び出した。何も持たず朝日西警察署へと向かった。
「飯沼はなです。父の飯沼高道はいますか?」
「ごめんねえ。面会時間は午後4時までだからもう会えないんだよ。申込書を書いてまた明日の4時までに面会しに来てよ。」
私は次の日早退し、父に会いに行った。学校の下校時間は3時50分。家に帰って警察署に向かうとなると面会終了時刻の4時には到底間に合わない。本当なら私は学校を休んで朝一番に父に会って話を聞きたかった。しかし私には指定校推薦がかかっている。学校を簡単に休むわけにはいかない。父が痴漢で逮捕された時点で関東橘大学の指定校推薦をもらえる可能性はとても低かった。だけどあの時の私は頭がそこまで回っていなかった。
「お父さん!痴漢ってどういうこと!?やってないんだよね!?」
「やってないよ!やってるわけないじゃないか…。なんで、なんでこんなことに。」
それから1週間後父の裁判が始まった。痴漢の被害者は私と同じ高校3年生の女子高生だということは知っていた。がちゃっとその扉から現れた被害者に私は、一瞬時が止まったように、心臓が止まったように頭が真っ白になった。「ともこ!!」被害者は有野ともこ。
私はすぐにピンときた。ともこは私から指定校推薦を奪うために父に近づき痴漢の容疑を掛けたのだと。父はともこの顔は知らなかった。ともこは私が何度か見せた家族写真や話などで父がどの電車で通勤しているか知っていた。私の家も知っていたし、きっと朝父をつけて痴漢の容疑をかけたのだ。裁判での彼女の演技には私は言葉を失った。このとき私は怒りも悲しみもなにもなかった。ただただ立ち尽くし彼女を見ていることしかできなかった。父は結局有罪になった。この日家族はバラバラになった。私は裁判から少し経ってからともこに対する悲しみそして怒り、悔しさ、どうしようもない絶望感におそわれた。あれから父は会社をクビになった。しかし父は新しい仕事を探そうと必死だった。そんな父を見て私も指定校推薦は諦めて一般受験で合格すればいい、がんばろうと心を切り替えようとしているときだった。学校へと家を出た時家の周りの張り紙「ここに痴漢がいます。」そんな張り紙がぎっしりはられていた。急いでとったがあっという間に近所に噂は広まった。母は近所では仲間はずれにされた。しだいに母は病んでいってしまった。
「ただいま。」私も学校での立場は大きく変わり心が壊れそうだった。「お母さん。あのね、学校でね…」
母の姿を見て全身の力が一気に抜けた。包丁がお腹に刺さっていて真っ白なカーペットが真っ赤だった。それから私は涙が止まらなかった。私は体全身から悲しみと絶望の声を出した。「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛。」




