電撃戦
山東から発艦した3機のJ-15の眼下には西岸海洋性気候の植生と塹壕戦の跡が広がっていた。
緑一色の平野に掘られた簡易的な塹壕が茶色の地面を晒し、細長い線を成している。
その中に点々と紅い血飛沫が目立つ。
そしてその周辺では解放軍の機械化歩兵が小銃を片手に警備を実施し、その警護下でMBTが燃料と弾薬の補充を行っている。
更に前線の迅速な押し上げと敵の遅滞を誘発させるべくASMを抱え帝都方向へと飛行しているのであった。
山東は早期警戒機を搭載しておらず、頼れるのは海上の052D型駆逐艦の対空レーダーと自機のレーダーと自らの目しかない。
更に、ワイナル帝国の保有する機体は木製の複葉機である。当然金属製の機体に比べて発見は困難になり格闘戦におけるジェット戦闘機との相性は悪い。
F22やF35といったレーダー上では音速で飛ぶ小鳥とまではなくとも、反射面積は小さくなりJ-15独自のアビオニクスでは些か発見が難しい。
1番機のパイロットであり、小隊長である許思斎は僚機と共にこのバカ広い視野の中から黒点を探す事に努めた。
高度差が十分に有ればそのまま無視する事も出来るが、そうでなければ翼端に装備した自衛用のR-73空対空ミサイルで撃ち落とさなければならない。
ミサイルがあるから有利なのではと思うかもしれないが、空母から発艦したこの3機は燃料をフルに搭載する事が出来ず、激しく燃料を消費する格闘戦は避けたい所なのである。であるので、先に見つけ気づかれる前にミサイルを叩き込まなければならない。
今回の任務は、予め決まった目標に落とすのではなく敵を探し出し爆撃するサーチアンドデストロイである。街道上で移動中であろう、機械化歩兵ないし歩兵、砲兵部隊の足止めが任務である。
これを発見した場合には、無誘導爆弾で敵をその場に釘付けにし、座標を母艦に送信、その座標にDF-16短距離弾道ミサイルが叩き込まれえるという算段だ。
街道を辿りながら進みこと20分、街道の上に整然と整列し行軍する団体が見えた。
これは間違いなく、歩兵部隊であった。
先頭には指揮官が乗車してるであろう自動車、各集団の前を馬に騎乗する将校、そしてその後ろに徒歩で続く歩兵、更に後ろには軍馬が荷車引く輜重部隊。
規模は連隊程度である。
『山東へ、現在地にて敵歩兵連隊と思しき目標を発見!爆撃による街道の破壊、目標への掃射を行う』
『山東了解、3分後にDF-16の投射を行う、攻撃後は至急退避されたし』
僚機に指示を出し目標周辺を周回した後先頭からアプローチを行う。
一気に高度を下げる。
そしてこちらに気づいたのだろうか、敵が一斉にわらわらと動き出した。
あちこちで方陣を形成している。
これはきっと統制射撃によって歩兵銃で航空機を墜とすことを企図しているのだろう。
『各機あまり速度を落とすな! 爆撃の精度は大体でいい、それよりも歩兵銃の弾で撃ち落とされるなど恥を晒すような事はよせ』
『了!』
フラップを格闘戦時程度まで下ろし、直線ではなく曲線でのアプローチを行う。
HUDには着弾点が表示される。
それが先頭の車両と重なった瞬間を見逃さず投下する。
僚機もそれに続く。
更に、爆弾が機体から離れた瞬間エンジンのスロットルを一気にアフターバーナーまで押し込み急加速させつつ機体をロールさせ離脱する。
コックピット内にもエンジンの唸りが聞こえ機体がギシギシと軋む音を発する。
再び高度を上げ十分な距離をとり、投下した地点を周回する。
先頭集団はしっかりと吹き飛び、複数の大きなクレーターが出来上がっていた。
衛生班か一般の歩兵か分からないがその中へ走り込み、救助活動を試みようとしているのもわかる。
しっかり足止めができた。
更にもう一撃を加え、完全に行動を停止させる。
今度は、集団後方からアプローチを行う。
機銃のトリガーに指をかけ、しっかりと狙いを定め街道に沿うように飛行する。
HUDのレティクルが目標と重なると同時にトリガーを引くと30mm機関砲の弾が歩兵や輜重部隊を襲う。
派手な見た目とは裏腹にそこまで歩兵の集団の数を減らす事は出来ないが、広範囲で出血を強いる事ができる。当然命中した兵士は上半身と下半身が今生の別となるが、当の本人は気づくこともなく天に召される。
本当に直接的な力でこれを壊滅させたいので有れば、B-52やH-8といった大型戦略爆撃機による絨毯爆撃が確実であるがただ足止めすることが目的であるので問題ない。
隊伍の前後が行動不能になり、その他でも広く被害が出た今進軍は絶望的な状況となっている。
連隊が一つ使い物にならなくなったのである。
そして、許思斉たちはDF-16が着弾する前にとっとと退避するのだ。
その後行動を停止しその場で立て直しを図ったその連隊がどうなったかは想像に難くない。
許思斉たちは母艦の方へ経路を取るが、やはりタダでは帰らせてはくれないようだ。
敵編隊数15機の機影がレーダーにしっかり映っているのだ。して許思斉達爆撃直後でまだ高度を取りきれていない。
そして敵はしっかり高度を取り万全の体勢を敷き待ち構えている。
さらに悪い事に現在の低い高度と地形が悪さをして、もう敵機はすぐ目の前なのだ。
選択肢はとしては、
この高度のままアフターバーナーを焚き全速力で速度にものを言わせて突破する。
全力で高度を上げて、敵機が追いついて来れないであろう所まで上がり振り切る。
大きく迂回する。
空戦で全機を叩き落としてから悠々と帰還。
のどれかだ。
どの選択肢を取ったとしても問題なのは燃料の消費である。
「最左翼をAAMで叩き落として突破するぞ!」
撃ち落とすべきは突破する最左翼と隊長機らしき動きをしている中央の一機だ。
自衛用に積んであるAAMは各機二発の計6発である。
上昇中の機体のピッチを下げ、HUDのレティクルの中心に二機を収める。レティクル中で目標を走査する円が敵機を捉えるまでトリガーに手を掛けまつ。
円が目標を捉え、赤から緑に色が変わると刹那トリガーを引き込む。
瞬間、右翼から爆音とともにAAMが勢いよく綺麗な曲線を描き目標に吸い込まれて行き、ミサイルによる翼端の整流効果を失った機体は一瞬ロール方向に揺れる。
間髪置かずさらに、もう一発を別の目標に叩き込む。
初撃で放ったミサイルは正確に最も熱い熱源である機首のエンジン部分に直撃し、機体は爆散しパイロットの脱出は明らかに絶望的な状況だった。
すぐに二機目も同じ運命をたどった。
フレアやジャミング装置を持たない木製複葉機としては当然の結果であった。
二番機、三番機も外すことなく2機ずつ撃墜していた。
これで15機中6機撃墜し、左翼は許思斎達3機が振り切るには十分な空間があいた。許思斎達の正確な位置を把握しきれていなかったワイナル帝国機は視認範囲を広げるため小隊間の間隔を広く取ったことが仇となり許思斎達を逃す結果となってしまった。
エンジンスロットルを押し込み、一気に機体を加速させる。
当然、ターボジェットエンジンの全力の加速に複葉機でついて行けるはずもなく虚しく、残った9機は許思斎らの三機が小さくなっていくのを眺めるしかなかった。
その時、許思斎達が来た方角で複数の閃光と爆煙が発生した。
性格にはDF-16短距離弾道ミサイルによる攻撃であるが、終末速度が極超音速に達する弾頭を視認することはできないため、そこで爆発が起こったと感じられた。
DF-16は正確に街道上の軍団に着弾し、その跡形も残さずすべてを消し去り、巨大な複数のクレーターを作り出した。
そのクレーターの中はどうなったかと言うとそれは凄惨そのものだった。
クレーターの中心では四肢はおろか肉片さえも残らない。
少し離れたところでは、手足がもげ誰のものだったのかも分からない状態で人間のパーツがその辺に転がっている。
切断面からは血が噴き出し、血が水溜りのように流れ出し、周囲は鉄の匂いを含んだ生臭い匂いが充満していた。
さらにDF-16の弾頭のエネルギを受け取った砲兵隊の砲弾が輸送隊のど真ん中でエネルギーを解放し、爆風だけでなく鉄片をばら撒いた。
その二次被害で、砲兵隊と弾薬を輸送してた輜重部隊では腹部や四肢、頭部を引き裂かれた死体や重傷者を多数生み出した。
まともに動けているものはおらず、指揮系統は崩壊、誰が指揮権を継承するとかその様な議論ができる段階を通り越し、判定する人間がいれば全滅判定を宣言していたであろう状態であった。
そして現状は個々が敗走するしか選択もなく、そして逃亡するものを止めるものも居なかった。というより逃げられるものもいない。
現代戦において、制空権の獲得を目指し航空優勢を確保するもので、制空権は確保できないがレーダーによる圧倒的な探索力と、ターボジェットエンジンと高度な電子装備を搭載した機体の制空力によって空母航空団のみによって制空権を獲得してしまった。
惜しむべきはPLA空軍というか共産圏の空軍のドクトリンが制空権を奪取してしまう事を想定していない事だ。
これがアメリカ空軍であれば、A-10やAC-130を護衛無しで飛び交させていただろう。
兎にも角にも、山東からの航続距離内の空域全てがPLAの支配下と相なったのだ。
都市部に差し掛かるまではこれの繰り返しだ。艦載機による地上部隊へのハラスメントの繰り返しと、機甲部隊による非装甲部隊の蹂躙、機械化歩兵(自動車化した現代における一般的な歩兵部隊)による迅速な重要地点の確保、補給線の構築だ。
防御に充てられた部隊が防御体制を構築する前に機甲部隊で全て轢き潰す電撃戦の様相を呈した戦いとなった。
さらにPLAは全ての都市部を無視し一路帝都に向かって爆進を続けた。
PLA機甲部隊が通った後は草も生えないとまでは行かないが遭遇した全ての部隊は壊滅ないし全滅判定モノの被害を受け、それはまるで第二次世界大戦のヨーロッパ前線におけるダンケルに至るまでにドイツとイギリスの戦いのようであった。
開戦から三日後、斯くしてPLA地上部隊はワイマール帝国首都目前に到達した。




