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ねぇ、神様、いつか、きっと  作者: ジアルマ
第二章
7/13

狂った研究者

……………………。


……。



「――やぁ、久しぶり。あるいは初めまして、かな」

「……」

「ふむ、無言を貫くのはNGだと事前に伝えるよう伝達していたはずだが。通達した人間の減給を本部に促してみるかな?」

「……起きている。くっ、頭がガンガンしやがる。絶対副作用あるだろ」

「否定はしないが、あらゆる副作用に耐えうる身体が君のセールスポイントじゃないか」

「別に俺はそういう面で売り出していくつもりなんざサラサラないけどな」

「はは、元気そうで何よりだ」

「俺にとってはアンタは初対面の人間だ。あまり馴れ馴れしくするな」

「つれないなぁ。何度もこうやって月に一回は面談しているというのに」

「暗い部屋に閉じ込められて監視カメラとマイクで俺を観察している状態のどこが面談だ。おまけにアンタはボイスチェンジャーまで使用しているじゃないか」

「まぁ、その辺りは勘弁してくれよ。私は君に姿を晒すわけにはいかないんでね。」

「殺されると思っているのか?」

「それもある。しかし、僕はあくまで黒幕として君を監視し続ける立場でなくてはいけないからね。表に出てはいけないのさ」

「へぇ、黒幕さんはどの辺りまで俺を導いたのやら」

「君の予想は?」

「……クソ両親から、いくらかのはした金で俺を買った人物。それがアンタであるのは間違いないはずだ」

「お見事。流石は私が見込んだ男だ。最も、100%の正解ではないけどね」

「随分ペラペラと答えてくれるんだな」

「どうせ君は数時間後にはここで起きた全ての記憶は消えている。君は一か月前も、二か月前も、同じ質問をして同じ回答をしているんだよ」

「なるほど、面談と言うよりは定期健診だな」

「ただ君も、一応は人体と言う殻に包まれた殺人サイボーグだ。記憶が消えていても、一か月毎に培った経験で、多少回答に差異が生じたりする。それがどういった影響であるのかを調べるのも研究の一環でね」

「……一つ、聞いていいか?」

「うん?なんだい」

「サラを、あのタイミングで俺の家に誘導したのもアンタなのか?」

「……ほう」

「……」

「おや、案外激昂しないのだな。タケト君の元気がないから何か美味しい物でも作ったらどうだい、そんな言葉をかけたのは、確かに私だ」

「俺の心はもう凍りかけているからな。それでも、随分と胸糞悪いのも事実だが」

「なんだ、つまらない」

「それに注目すべきは他にある。つまり、アンタは幼少期の俺に接近が可能だった人物ということだ」

「まぁ、そうなるね」

「……アンタの狙いはなんだ?」

「……」

「俺にヒントとなる情報を与える割に、肝心な部分は引っ込める。どうせこの後薬を打たれる。俺はこの場での出来事を忘れるという割に、本当に危うい情報は引っ込める。即ち、俺が記憶を取り戻すリスクを少なからず考慮している」

「その通りだ、流石に賢いね」

「世事はいい。アンタは、俺にこの場の記憶を植え付けたいんだ。後日、何らかのタイミングで、この場での会話を思い出させるようにしておきたいはずなんだ」

「ふむ、9割正解といったところだな。確かに君の言う通りだ。しかし、肝心な部分が抜けているな」

「Why、か」

「その通り。何故、が抜けている。動機まで推測して、初めて立派な推理と言えるだろう」

「だが、俺はアンタを知らない。動機なんて、アンタが悪趣味な人間だという事実からでしか推測できないぞ」

「なんだ、君は既に答えを知っているじゃないか」

「は?」

「――時に、君は神様の存在を信じるかい?」

「……」

「おや、これには即答しないのかい?」

「……神様なんて、いないさ」

「そう。神様なんてものは、所詮は概念でしかない。髭を生やした白髪の爺さんだったり、あるいは神々しい光を纏った竜であったり。神様と言われて、人は様々な神様の像を思い浮かべる。それこそ虚実である証拠。神様なんてものは、人間が生み出してしまった史上最悪の概念なのだよ。

そんなものを生み出してしまう人間という種族は弱い。そんなものを世間に浸透させてしまう人間という所属は、とても弱い。時に神様に縋り、時に神様に助けを求め、時に神様に感謝する。とにかく、人間という種族は、そういった大きな存在に常に翻弄されている。いや、翻弄されるよう自ら目を背けている。

本当に神様は存在したのか。その答えを、宗教という自らの倫理を捻じ曲げるような形で受け入れる。都合の悪い部分を切り捨て、都合よく受け入れられる部分だけを受け入れる。そんなままごとのような行為を続けているから、人間という種族はいつまでも醜いままなのだよ。

人間に平等など存在しない。富を獲得する者が存在するのなら、それと同等の負を背負う物が存在する。そんな簡単な仕組みを誰も理解しない。敗北する者がいなければ勝利する者がいるはずがない。簡単な話だ。だからこそ人は戦わなければいけない。己自身と、己を取り巻く環境と、己に勝利している者と。

さて、現代の人間の在り方にメスを入れる方法があるとしたならば、それは絶対的な恐怖である。飴と鞭という言葉があるだろう。飴を摂取し続け、過度な肥満状態となった人間に残される更正の道は、恐怖しかない。最早恐怖でしか人間を縛ることが出来なくなったと言っても過言ではないだろう。

恐怖に対面した時、人は初めて本性を現す。己の持てる全てを持って恐怖に立ち向かうか、恐怖に圧死されるか。絶対的な恐怖に対面した時、初めて人は進化する。

私は見てみたいのだよ。恐怖の中で生まれる、新たな人間の可能性というものを、この目でしかと見届けたいのだよ!」

「……へぇ。狂った研究者さんは、中々大層な思想をお持ちだこと」

「おっと、つい話に夢中になってしまった。しかし君も思う所があるだろう?」

「さてね。生憎そういう小難しいことを考える程暇じゃなくなったんでね」

「ふふ、今はそれでいい。いずれ分かるさ。この先君がどんな人生を歩もうと、私が縫った影は決して消えないのだからね」

「……てっきり同じ組織の人間かと思っていたが。アンタ、俺の所属している団体に所属している人間じゃないな?」

「……クク。数少ないヒントで、よくそこまで気付くものだ。その通り、私は君の組織の協力者ではある。私が提供しているブースタードラッグなんかは人気の商品だろう。……しかし、真の目的は別の所にあるのだよ」

「真の目的……」

「いずれ分かる時が来るさ。案外、君はその時にはもう組織を抜け出しているかも知れないけどね」

「違うだろ。アンタが、そういう様に仕向けるんだろ」

「正解。良かったじゃないか、君はもうすぐ殺人鬼を卒業するんだよ」

「はっ、どうせ数時間後にはそんなこと忘れているんだ。正直微妙な気持ちだよ。……それに、別に外の世界が心地よいってわけでもないからな、きっと」

「それは君次第さ。精々幸せな日々を送れることを願っているよ」

「あおの幸せな日々が壊れた時の反動が大きいから、願っているんだろ。本当に悪趣味な奴だ」

「はは、そんなに褒めないでくれ。希望が砕けて絶望の破片となる光景は、私にとってはどんな宝石よりも美しいものだからね」

「……まぁ、いい。いつか会う日があったら、殺してやるよ。サラの分も含めて、な」

「やれやれ、サラという少女を殺したのは君自身だろうに。……それに」

「……?」

「敵討ち、だなんて。殺人サイボーグにそんな機能はあったかな、タケト君」

「……どうだかな。黒幕さん」



…………………。


……。

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