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許しを

 ユーインは迷うことなく行動に移す。

 エルザベスを無理矢理連れて行こうとする父親の手を掴んで捻り上げた。


「痛たた、痛い!」


 エリザベスは父親から離れ、ユーインの背後に回り込む。


「き、君、放しなさい!」

「お願いがありまして」

「はあ!?」


 ユーインはエリザベスの父親に願いがあると言う。手首を捻った体勢のまま、至極真面目な様子で話しかけていた。


 エリザベスの兄は止めずに見守っている。


「このままエリザベスさんがここで生活を送ることを、許していただきたいのです」

「そ、それは、許さん!」


 ユーインは眉間に皺を寄せ、険しい表情となる。


「そもそも、このような体勢で、願いを聞いてもらえると、思ったのかね!?」

「すみません、冷静に話ができるとは思えなくて」

「なんだと!?」


 エリザベスの父親は顔を赤くして、怒りを露わにしていた。

 ユーインのいう通り頭に血が上っている状態なので、何を言っても無駄だった。


「このままの生活など、許さん。周囲は、エリザベスを女中と、思っていないだろう」


 セリーヌより与えられたワンピースの数々は、動きやすい構造ではあるものの、いい品だということが見て分かる。

 箒を握っていても、使用人には見えなかった。


「い、言いたくはないが、周りの者は勘違いするだろう」

「勘違い、とは?」


 エリザベスの父親は口をパクパクさせるのみで、なかなか言おうとしない。代わりに、兄が答える。


「父の代わりに応えますが――それはですね、エリザベスのことを近所の人達は、エインスワーズさんの妻だと思っているのだろうと」

「ああ――、そういうことでしたか」


 幸い、この辺りは庶民が暮らす界隈で、社交界までその噂が広まっているわけではない。しかし、エリザベスの父親は激昂する。どう、責任を取るつもりだと。


「もちろん、責任は取るつもりです。私は近い将来、エリザベスさんと結婚できたらなと、思っております。もちろん、エリザベスさんに了承いただき、お父様にお許しをいただけたら、ですが」

「は、はあ!?」

「え!?」


 突然の求婚に、エリザベスの父親だけでなく、された本人も驚く。

 もちろん、ユーインのしていることに間違いはない。

 貴族の結婚はまず、父親に許しを得ることから始まる。


 しかし、ユーインは父親を拘束し、手首を捻り上げている状態で許しを請うていた。

 これは間違っているとかいないとか、それ以前の問題であった。


「どうか、お願いします」

「痛たたた! き、君い、まずは、放せと言っているだろう!」

「ここでの生活と、結婚を了承していただけるのであれば」

「いつの間にか、願いが増えているではないか!」


 さすがに気の毒だと思ったのか、ユーインは手を離した。

 エリザベスの父親はふらつき、壁に手を突く。


「なんて、乱暴なんだ。エリザベスとの結婚も、ここで暮らすことも、絶対に許さん!」

「父上、彼が力を揮ったのは、無理矢理リズを連れて帰ろうとしたからですよ」

「うるさい!」

「先に暴力を振るったのは父上だというのに」

「うるさいと言っている!」


 しかし、エリザベスの兄は黙らなかった。


「父上、もう、リズを自由にしましょう」

「な、何を言っているんだ。こんなアパート暮らしをさせるなんて、許せるわけがない。それに、リズの結婚相手だって、私が認めた相手を見繕って――」

「アパート暮らしといっても、リズは健康そのものですし、元気に暮らしていたらいいと思いませんか? 父上が決めた相手だって、リズと合わなくて破談になったでしょう」


 続けて問う。

 エリザベスは立派に貴族女性としての務めを果たした。公爵令嬢を演じて身代わりをして得た支援金をもとに牧場は復興し、元通りになりつつある。これ以上、彼女に何を望むつもりだと。


「まだ、他の貴族と結婚させて、縁を結ばせようとお考えですか? マギニス家の利益のために?」

「いや、それは――」

「もう、いいでしょう。夢があって追い駆けているのならば、応援するのが家族というものでしょう。それに、リズは一人じゃない。エインスワーズさんという、支えてくれる存在もいる。しかも、このいじっぱり娘を、妻に迎えようともしてくれる素晴らしい青年だ。真面目そうだし、家柄も申し分ない。言うことはないでしょう?」


 ぐうの音も出ない。といった感じであった。

 エリザベスの父親は責められるように捲し立てられ、唇を噛みしめている。

 パチパチと瞬きをしていたが、ポロリと涙を零した。


「ちょっ、父上、いい年をして、泣かないでくださいよ!!」

「だって、だって、リズは、私の娘なのに、盗ろうとするから!!」

「今までにも、娘を嫁に見送ってきたでしょう?」

「そうだけど、リズは末っ子で、目に入れてもおかしくないほど、可愛くて……」


 本当の親子ではなかったが、実の子と同じようにエリザベスは愛されていた。


「お父様……」


 ユーインの背後に隠れていたエリザベスが、顔を出す。


「リズ、今、幸せ、なのかい?」

「ええ、わたくし、幸せですわ」

「この男と、一緒でいいと?」

「はい。できれば、共に在りたいと思っています」

「そうか……そうだったのか……」


 エリザベスの父は、兄が差し出した椅子に力なく座った。

 愛する娘を手放さなければならない事態となり真っ白になっていた――ように見えた。


「ユーイン、と言ったな」

「はい」


 涙で潤んだ目をユーインに向けながら言った。


「どうか、エリザベスのことを、頼んだぞ」


 ユーインは背筋をピンと張って、はきはきと答えた。


「もちろんです。ありがとうございます」


 こうして、エリザベスの兄の協力によってこの場は治まった。

 その上、ここでの暮らしと結婚の許可も得る。


 ◇◇◇


 ようやく二人きりとなり、エリザベスはユーインへ謝罪した。


「ユーイン、ごめんなさい。家族が、失礼を」

「いえ、私こそ、お父上の手首を捻ってしまいました」

「お父様は大丈夫。鍛えているから、平気」

「そうだといいのですが」


 その後、会話は途切れ、シンとなる。

 エリザベスは気になっていたことを問いかけた。


「さっき言っていた、わたくしと結婚するというのは本当ですの?」


次話で最終話となりますm(__)m

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