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魔王様、教祖になる!  作者: 森田季節
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第5話 魔王、死後の世界を説く(1)

 その日の緊急会議に呼ばれたのは、魔王にお付きの騎士であるサリエナとカブールを除くと――

 魔王の妹にして副王、ロザール、

 ワーウルフ族の族長にして魔王側近の武将の一人、ナルカロス、

 サイクロプスの文官最高位の国務長官、トラント、

 ダークエルフの司法長官、ナタリア、

 ナーガの土木長官、リクトス、

 ――など、位の高い者や国の重職についている者。これは重要な話なら当然召集される者たちだ。だが、そのほかにも――

 ゴブリンの骨ヶ原の管理者、ガルドン、

 霧のような姿を持つスペクターの一族、ミスリト、

 その他、体が半透明であるスペクター系の者や中身がないまま動く甲冑の魔物、

 といった面子も集められていた。


 いつもとやけに会議の面々が異なるので重臣たちは奇妙に思っていた。もっとも、アルカインは新しい政策を考えつくとすぐに発表して、みんなに聞かせようとするような性質ではあるから、ありえないことというわけでもないのだが。

 僧侶というのは、人生訓などを法要などで語るのも仕事だから、アルカインの人に話したがる癖は前世から引き継いだものだった。


 最後に城下の街の責任者であるザクスラン市長のマクセントロス――彼はワイトの名門だ――が入ってきて、予定されていた者たちは揃った。


「よし、それでは会議をはじめたいと思う」

 アルカインは席を立ち、一同を見回す。体のサイズが種族によって大幅に異なるため、着席している者もいれば、それを諦めている者もいるが、いつものことである。

「一部の者には繰り返しになってしまうかもしれんが、先だっての戦いで朕は魂を一時的に体の外に放り出されてしまうような目に遭った。あの時、朕がほうけたようになっておったのは、この場の何人かが証言してくれることかと思うが」


 ワーウルフのナルカロスほか数名が「そのとおりでございます」「たしかに」とうなずいた。

「あれは結果として悪くはなかったと思っている。というのも、死後の世界というものをこの目で覗くことができたからだ」

 その言葉には興味を引くに充分だった。とくに一つ目の種であるサイクロプスの国務長官、トラントなどは目が落ちそうなほどに見開いている。


「骨ヶ原の管理をしておるガルドンよ」

「は、はいっ!」

 自分の身分で直接魔王に話しかけられることなどないと思っていたのか、ガルドンは緊張でただでさえ皺の多い顔をこわばらせた。


「死ぬとどういう世界に行くことになっているのか、おさらいのつもりで教えてくれ。お前ほど死に接してきたものはそうそうおらんだろう」

「御意……。死ねばその魂というものは、暗く恐ろしい世界に入るはずです」


「うむ、相違ない。では、人間どもの認識では死後の世界はどうなっておる?」

 場がわずかにざわつく。わざわざ敵対する者の死生観などに気をかけるなどというのは、長らくなかったらしい。


「連中の考えによりますと、神のために生きた者は死後に美しい天上界に行って、いつまでも楽しく暮らすことになっております。そこにたどりつくまでに何百年も時間のかかる者もいれば、死んですぐに行ける者もおるようですが。そして、神に逆らった悪人は炎の中に投げ入れられて永久に焼かれ続けるとか」

 ――このあたりの天国と地獄のモチーフは、仏教ともキリスト教とも似ているな。普遍的なものなのだろう。


「ただ、人間たちの考えはいささか妄想じみております。おおかた、地上の暮らしが苦しいからそれをまぎらわすために死後の世界を賛美しておるのでしょう」

「お前の言葉はよく的を射ている。さすが、ずっと骨ヶ原で死というものを見続けてきただけあるな」

 アルカインはお世辞抜きに賛辞を送った。この男は無常観をはっきりと認識している。死にかかわる仕事をしてきたために、自然と楽天的な発想に懐疑的になるのだろう。


 人間たちは、とにかく死後の天上界の素晴らしさを説く。そして、そこにより早くいきつくためには神を強く信仰しろと言う。むしろ、永遠に炎で焼かれたくなければ神のために生きろと言う。

 国ごとに主となる神は異なるが、天上界の話などはすべて似たり寄ったりだ。これは元になっている神話がほぼ同じだからなのだろう。日本の神社がどこのものも基本、同じ神話に立脚した神を祀っているのに近い。


 この世界の死生観には大きな特徴がある。

 魔族の死生観も人間の死生観もどちらも一方通行のものということだ。

 恐ろしい世界に落ちておしまいか。

 天上界で永久に楽しむか、火の中で永久に過ごすか。


 死ねば終わり、というのは究極的には仏の教えに近いのだが、もちろん、こんな単純な話ではない。くうの思想はインドのナーガールジュナが大成したが、これは極めて複雑で難解な哲学だ。

 ひとまず、今回はあえて死ねば終わりという概念を転倒させてみよう。

 輪廻転生という概念を自分から導入する。


「結論から言うと死後の世界は、我々の考えていた恐ろしいだけのものとも、人間どもの考えていた信仰があれば素晴らしいところに行けるものとも異なっていた。そのくせ、どちらも真実の一部を見せてもおった」

 意外なことを言っていると思われただろう。その場の空気がおかしなものになる。


「今から話すことはすべて朕が死に際して見聞きしたものだ。偽りはどこにもない。しかし、到底信じがたい話であろうから、できうる限り、ゆっくりと説明してゆくことにしよう」

 今一度、会議の出席者に目を配る。


「朕の顔を見てもらえば、疲れのせいでおかしなことを言い出しているのでも、冗談でみんなの時間を奪おうとしているわけでもないことがわかってもらえるかと思う」

 自然と、出席者たちは顔を縦に動かしている。アルカインが優秀な指導者であったことを、正覚としても感謝させてもらおう。


「それでは、魂が抜けてたどりついた世界について語ろう。子供の頃、おとぎ話を聞かされていた時のことを思い出してくれればよい」

 人に話をするのは得意だった。前世でも、自分は多くの聴衆や弟子に説法や道を聞かせた。あの時の空気を思い出せば、自然とすべては上手くいく。


 コツがあるとすれば、相手の側に立って、寄り添うように語ってやることだ。

 今だけは魔王であるということを忘れろ。

 母親が子に力を振りかざして本を読み聞かせることがないように、やさしく、やさしく。


 ◇ ◇ ◇


 攻撃を受けて、体を飛び出した朕の魂はふらふらとどこか遠いところに吸い寄せられていった。

 気づくと、見上げても見上げても果ての見えないほどに高い大きな門の前にたどりついていた。近くには似たような門がいくつか並んでいたのだ。門の数は六つあった。

 そして、並んだ門の前には、角の生えた人の格好をした少女がいた。ちょうど朕のような姿の女だな。

「私は神の世界のドラゴンの娘です。話がしやすいよう、こうして人に姿を変えております」

 そう娘は微笑んで、朕に告げた。

「ようこそ、転生の門の広場へ」


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