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魔王様、教祖になる!  作者: 森田季節


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第11話 魔王、宣教師を指導する

 早速、翌日から宣教師候補十名が城の会議室に招かれた。

 宣教師はそれなりに遠くまで行ってもらわないといけないので、候補にはサリエナのほか、体の丈夫そうな若者たちが選ばれた。また、ワーウルフ一人、バードマン一人といったように、意図的に種族を分散させている。まずは宣教師には自分の種族に布教してもらうのだ。


 その中でも、とりわけ強い空気を放っているのはやはりダークエルフのナタリアだった。

 もともと、エルフだから耳は天を刺すように尖っているのだが、どうもいつも以上に尖っているような気すらする。顔を見るだけでイライラしているのがわかろうというものだ。


「な、何か気に入らないことがあるか、ナタリア……」

 予想はしていたこととはいえ、ここまで攻撃的な態度で来られるとは思ってなかった。予想の斜め上だったのだ。アルカインといえどもおっかない。

「はい、気に入りません」

 魔王の前でもこの司法長官も一歩も引かない。


「私は長年、国家に仕えてまいりました。この司法長官という身分もその功に対してのものであろうと考えています。それが宣教師をやれということで呼ばれてきたわけですが、つまるところ、魔王様は私を左遷するおつもりなのでしょうか?」

「そんなことはない! それだけは違う!」

 ここで、はいそうですと答えたらすべて終わりだ。アルカインも強い態度で望まないといけない。


「仲間の死に深く傷ついている同胞を救うには、輪廻転生に関する教えを広めるよりほかにない。これほど重大な仕事があるだろうか。身分のことなら何も心配しなくていい。仮に宣教師として出張する時でも、司法長官の職は解かず、代役を立てることとする。それに、自分が向いてないと思うのであれば、宣教師のほうを蹴ってくれればいい」


 命令というよりはお願いに近いものだった。魔王だから命じさえすれば、ナタリアも従わざるをえないはずなのだが。

 逆に言えば下手に出てでもナタリアを手放したくはないのだ。魔王という権威にひるむ者ばかりが唯々諾々と従って疑問点を放っておかれると穴だらけの宗教になってしまいかねない。そういうのは困る。アルカインと一緒に教えを鍛え上げてくれるような存在が必要なのだ。


 ナタリアはため息をついてから、

「わかりました。やりましょう」

 と、言った。ひとまず、この場で帰られることだけは防げた。

「ありがとう、感謝するぞ、ナタリア」

 思わず、アルカインは両手を合わせてナタリアを拝むようなしぐさをした。

「何ですか、そのポーズは?」

 この世界では合掌などという概念はない。

「ああ、これも夢で見た教義におけるものだ……。それでは説明していくぞ」


 アルカインは転生先の六つの世界について説明しだした。サリエナやナタリアといった、前回も説明の場にいた者にとってはおさらいになる。

 参加者の下にはメモ用の植物繊維の質の悪い紙が置かれてある。これで、自主的にノートをとってもらうのだ。

 一方で教義としてあとでまとめるために筆記禄もとられている。オークのカブールがその役をやっていた。長く文官をしているだけあって、その手は速い。


「このように、下から『奈落界』『飢餓界』『動物界』『闘争界』『一般界』『天上界』と六つの世界があるとドラゴンの娘は朕に言ったのだ……サリエナ、寝るな」

「あっ、はい、すみません!」

 がばっとサリエナが尻尾を突き立てて、飛び起きた。僧侶として中学校などに講演で訪れた時など、寝ている生徒が何人もいて、さすがの仏道に励む正覚も悲しい思いをしたが、それに近い感覚だ。


「そんなに朕の話は退屈か……」

 仏教の話など、諸手を挙げてありがたがられるものではなかったが、それはどこでも同じなのだろうか。

「いえ、そういうわけではないのですが……」

「よだれが垂れている状態で否定しても説得力もありませんよ」

 ナタリアの言葉がぐさりとサリエナに刺さる。それから、サリエナはあわてて口をぬぐった。


「ナタリア、お手柔らかにしてやれ」

「そうですね、サリエナさんにはそうすることにいたしましょう」

 意味深な表現だ。アルカインにはスパルタでいくということだろうか……?

「魔王様、質問よろしいでしょうか? 疑問点がございます」

 早速、ナタリアが手を挙げてきた。

「ああ、容赦なくやってくれ」


「そのドラゴンの娘というのは、結局、何者なのですか?」

「……神の世界の者、そうドラゴンの娘は言っておった」

 ドラゴンなどという設定にしたのは、正覚が竜女と出会ってこの世界に転生したからで、それ以上の理由はなかった。あまり突っこまれたくはないところだった。ボロが出る。


「ということは神の世界というものはあるのですね」

「うむ、そういうことになるな……」

「その神というのは、つまりいかなるものなのでしょうか?」

 ナタリアとの間にはそれなりの距離があるのに、間近で言われているような気がしてくる。

「会ってはおらぬゆえ、詳しいことはわからぬ……」

 ひとまず、誠実に話の内容に合わせて語ることにした。もちろん、本当はその六つの世界のところからして、作り話ではあるのだが。


「いえ、想像でもいいですので決めてもらわなければいけません。ドラゴンの娘が何か言ってはいませんでしたか?」

 ナタリアのほうはまったく引いてくることがない。

「理由は簡単です。得体の知れない神の使いと出会い、死後は六種類の世界に転生すると言われた――これだけでは教えにも何にもなりません。魔王様のように原体験のおありの方ならともかくとして、その話を聞いただけで信仰がはじまりますか?」

 アルカインは思わず、後ろに一歩引いた。序盤から予想以上に激しい。


「それに、我々が外に布教に行けば、必ず質問を受けますよ。その世界の神は何者なのか? 魔族を生み出した創造者である神とどう違うのか、それとも同じなのか? 神が別にいるとするなら、神がいる世界はどこにあるのか? そこにたどりつく方法はないのか? それに対して未経験なので沈黙しますと繰り返すなら宣教などできるわけないでしょう」

 なぜか、ほかの参加者の顔が青くなっていた。これだけ魔王に失礼なことを言えるのは幹部とはいえ、ちょっと考えられない。しかも、ナタリアの舌鋒はまだまだ止まりそうもないのだ。


「もし、変わった夢を見ただなんてことだけの話をなさりたいのでしたら、それでけっこうですが、そんな志が低いわけでもないのでしょう? だったら、それなりに作りこんでもらわないと。まさか、人間の宗教の教義より甘いものが今更はやるとでもお考えですか?」

 思わず、アルカインは顔を背けて右手を出した。

「わかった。お前の言葉はよくわかった。何もないわけじゃない。神について聞いたことも覚えている」

 実際はそんな体験はないわけだが、この世界に他人の心を読み取る魔法は存在しない――はずだ。少なくともこのダークエルフがこんなふうにしゃべりながら心を読むことはできない。


 ナタリアの目が妖しく光った気がした。

 これは、自分のことをまったく信用してない目だな、そうアルカインはすぐに理解した。

 自分が命を失いかけたことを契機にして、奇妙な宗教を生み出そうとしている――そんなふうに考えているのだ。

 そして、大正解だ。

 ならばナタリア、お前も騙しとおしてやる。


「そうですか。つまり、『今になって考えたわけではない』というわけですね。いいでしょう、それぐらいは魔王様のお話を聞けばわかりますから。今考えたようなものなら、どこかで詰まるに決まっています」

「ああ、好きにしてくれ」


 たしかに自分は少し舐めすぎていたかもしれない。

 宗教をやるからには神がいなければいけない。

 ――神を作ってやる。

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