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アナザーワールドストーリー  久禮軌翔の話

作者: S.R.Scarlet

いくつか解説を。久禮軌翔のいた世界は私が連載しているクトゥルフ神話系ストーリーの世界と全く同じ世界観です。

また、この小説はかなり試験的な投稿でもあります。そしてある意味、衝動的に書いたような物です。

ジャンルも一応魔法を使ったりしているので、ファンタジーにしています。

「エンジン不調!動きません!」


こんな時にエンジンがイカれたらしい。もはや一刻の猶予もない。


「脱出しろ!すぐに・・・」


その瞬間、体に強い衝撃が加わり視界は暗転した。しばらくして再び目を開けると・・・そこは桜の木の下だった。


「ここは・・・?」


周りを見渡してもそこにあるのはあたり一面桜の木だけだった。


「まさかあの世なのか?」


そう考えたのにはわけがある。俺は視界が暗転する前、地対地ミサイルの迎撃演習を行っていた。ミサイルの迎撃演習に参加していた理由は、俺が北海道に本部を置く陸上自衛隊第7師団第7高射特科連隊の87式自走高射機関砲改の車長として演習に駆り出されたからだった。世界情勢が緊迫化しているためにアメリカ軍と共同で演習を行うのが目的だった。

その時乗車したのは87式自走高射機関砲改という35mm機関砲と11式短距離地対空誘導弾を装備した対空自走砲だった。陸上版CIWSというべき考えに基づいてのものだった。

演習が始まり、ミサイルの迎撃が始まった。ミサイルは上から落ちてくるものであり、着弾までに迎撃できるのは数秒の状態であったものの迎撃には成功した。問題はその後に発生した。迎撃に成功したもののミサイルの残骸がそのままこちらめがけて落ちてきたのだった。移動して避けようとしたが運悪くエンジントラブルに見舞われて直撃を受けた。

状況から考えても自分がいるのはあの世であるのは間違いがないと思った。


「しかしあの世にこの年でか。千葉お姉ちゃんや加斗お兄ちゃん泣いているかもな。」


俺には姉や兄が数十人もいる。最年長は久禮千葉くれいちはという名前で、航空自衛隊のエースをしている。兄弟での最年長は久禮加斗くれいかとという名前で、陸上自衛隊で特殊部隊の隊長をしている。一家全員が自衛隊の隊員をしているというかなり不思議な一家だった。


「・・・とりあえず歩いてみるか。ここにいても何も変わらないだろうし。」


そう言って歩き出した。適当に歩いて数分あるいは数十分歩いたところで小さな整備されている道に出た。


「道か?ということはここいけばどこかにつくはずだな。」


その道を数分進むと小さな村落が見えてきた。見た限りでは人もいる。


「人?どういうことだ?・・・まさか異世界だとかじゃないよな?」


そう言いながらもここがどこなのかを知る必要があった。近くにいる商人のような人に話しかけた。


「申し訳ない。1つ聞きたいことがあるのですが。」


「なんだい?」


「ここはどこですか?」


「ここか?ここはヤパニー皇国の中央にあたる角松村だ。」


「ヤパニー皇国?角松村?」


聞き覚えのない村だった。いや、それ以前に気が付くべきだった。村のすべてが木造で茅葺屋根かやぶきやねだということに。


「知らないのかい?よく見ると服装もこの国の人間には見えないな。」


そう言われて服装を見てみると演習中に来ていた迷彩服とヘルメットだった。


「あんたはどこから来たんだい?」


「それが・・・。」


そう言われて自分の身の上を話した。さすがに違う世界から来たらしいとは言えないから、気が付いたらここにいたということにした。


「ふ~む。ということは記憶喪失というわけか。・・・それならここから少しの所に神社がある。そこで見てもらうといい。」


「神社・・・ですか?」


「そうだ。神社なら迷い人も保護してくれるだろうし、何よりも神託を受ければ何かわかるかもしれないしな。」


そう言われてついていくと大きな赤い鳥居に社がある神社に着いた。神社の名前は黄球神社というらしい。大きな鳥居をくぐってから俺は神主に預けられ、商人の男性は行ってしまった。神主に預けられてから俺はいろいろと聞かれた。といってもわかることがほとんど無く、神主はヤパニー皇国のどこかの地域の人間なのだろうということになった。その後、神託を受けるために社の奥へと連れていかれた。儀式を受ける場には1人の書記官が座っていた。そしてそこで儀式を受けた。


「それではこれより神託の儀を執り行う。」


そう言って神へと捧げる言葉を言い始めた。数分立った後、神主はこう告げた。その声は明らかに変わっていた。


「・・・お前が呼んだ理由か。」


どうやらこの世界の神が下りて来たらしい。


「・・・そうです。気が付いたら桜の木の下にいました。ここはどこなのですか?私はなぜここに来たのですか?」


「お前は遥か昔分岐した世界からこの世界に飛ばされてきた。」


「パラレルワールドということでしょうか?」


「そうだ。お前たちの世界ではパラレルワールドと呼ばれるものだ。」


「戻ることはできないのですか?」


「不可能だ。お前の元いた世界ではすでにお前の体は失われている。」


「それでは、私はこの世界で暮らすということですか?」


「その通りだ。」


「そういえば分岐した世界だと言っていましたよね。どのくらい前に分岐した世界なのですか?」


「大陸が動くか動かないかの選択で分岐した世界だ。」


「そんなに昔から・・・。」


「聞きたいことはこれで終わりか?それでは・・・お前に授けるべき言葉を言わせてもらおう。1つ、お前は戦闘に関わる職に就くことだ。1つ、お前使える魔法は風と土だ。詳しいことはそこの記録している者にでも聞け。1つ、お前は才能を3つもっている。1つ、物事を完全に記憶できる。1つ、多くのものを創り出せる。1つ、作られたもの、創ったものを的確に操れる。それだけだ。見直したければ記録している者に聞け。」


「最後に1つだけよいでしょうか?」


「なんだ?」


「元の世界のお姉ちゃん・・・久禮千葉さんは元気でしょうか?」


「ほう・・・。お前、久禮千葉の弟なのか。なるほどな。」


「それはどういう・・・。」


「聞きたいことは1つだけだといったはずであろう?久禮千葉は健在だ。お前を失って悲しんではいるがな。」


「・・・そうですか。」


「それでは戻らせてもらう。記録しているそこの。神主に伝えよ。もう少しお守りの値を下げよと。」


そう言って神様は戻ったらしく、神主がこう聞いてきた。


「いかがでしたか?」


「・・・それが、なにから話せば・・・。とりあえず記録をしているあの方の記録を・・・。」


そう言って神主と見ると、神主は驚いていた。


「なんと・・・。この世界とは違う世界より参られたとは・・・。」


「私も驚きました。」


「となれば・・・新たに戸籍を作る必要がありますが・・・どうすればよいのか。」


「記憶喪失で元の戸籍がわからないではダメなのでしょうか?」


「・・・仕方有りません。それでお願いしておきましょう。」


「お願いします。」


こうして神託を受けた俺は戸籍を作った。名前は今まで通りの久禮軌翔くれいきと。ただし付属欄に『記憶喪失により元の戸籍は不明』と書かれた。戸籍を取得してから俺は学問を教えられた。だが、俺から見れば中学で読んだ教科書クラスでしかなかった。ましてや防衛大学校を出て士官教育を受けている俺からすれば日中の訓練の方が大変だった。そんなすらすらと解ける俺に神主は驚いていた。そんななかで唯一習ったのは魔法と世界情勢に関する事だった。この世界では4つの国があるということだった。自分がいる大陸はパンギー大陸という名前の大陸であり、国家は自分のいるヤパニー皇国と、その北にオイラジア帝国、東にブライン=アイラ王国、国境を接しておらず、内乱中のアウスタ王国という国があるのだという。オイラジアとヤパニー、ブライン=アイラはオイラジアの侵攻を受けて戦争中であると言っていた。一方で魔法については、


「魔法とは自然に存在する魔力を自分の魔力で行使するのです。魔法の属性は4つあることがわかっています。その4種とは風、地、水、火の4つになります。」


「つまり私は土と風を操れるのですね?」


「その通りです。2種の属性を持っているのはかなり珍しいと言えます。ましてや3種の才能を持つのはかなり稀です。」


「なるほど。・・・魔法の存在についてはわかりました。それで、行使の方法はどうするのですか?」


「簡単に申し上げれば、命令を与えればよいのです。私は火の魔法を扱えるのでお見せしましょう。・・・炎よ、その姿を現せ!」


そう言うと手に炎が現れた。


「・・・すごいな。命令を起こせば出てくるものなのか。」


「念ずるだけでも行使ができます。実践してみるのが1番でしょう。こちらに練習場があります。」


そう言われて練習場へと案内された。練習場は神社の裏手にある滝の下だった。


「・・・まず風魔法を行いますね。」


「どうぞ。はじめはうまくいかなかったり、そよ風程度ですが、鍛錬をすればそれなりの風を起こせるようになります。」


「・・・風よ、起きよ!」


その瞬間、滝の下で突風がおこった。近くにあった桜の木は吹きとばされ、神主も川に落ちてしまった。


「神主さん!大丈夫ですか!」


そう言って川から神主を引き上げると


「驚きました。これほどの魔力をお持ちとは・・・。」


「私も驚きました。こんな威力を持つとは思ってもいませんでした。」


「・・・魔法の行使もこれでわかったと思います。これで私が教えられることはなくなりました。この世界でも十分に生きていけると思います。」


「そうですか。」


「軌翔さんはどうしようと考えていらっしゃいますかな?」


「神託から戦闘に関わる職に就くようにと言われたので皇国の国防の仕事に着こうと思っています。」


「そうですか。それならば、今日の昼頃に東の方から商人の一団が参ります。乗せていただくといいでしょう。」


「何から何までいろいろとありがとうございました。いつかこの恩を返しに参ります。」


「いえいえ、恩はこの村に返してあげてください。それでは軌翔さん、お気をつけて。」


「はい、今まで本当にありがとうございました。」


そう言って一礼をして昼頃に来た商人の一団に乗せてもらい、俺はヤパニー皇国の首都、中央都に向かった。その角松村を出てから3日後、ようやく商人の一団は皇都である中央都に着いた。中央都には大きな日本風の城が建っていた。3日の間に商人の人から軍隊に入るためにはどうするのかを聞いた。話によるとこの国では騎兵が大半を占めており、金属の精錬技術に長けているのだという。軍隊に入るには各領を持っている大名に仕えることが重要なのだという。

そんな話を聞いておいた俺は誰に仕えるべきかを考えていた。そう考えている時に、別の商人が織木氏に仕えるのはどうだろうかと打診してきた。聞くと、織木氏は新たな部隊を設立したいらしく優秀な人間を求めているらしい。


「織木氏か・・・。」


そう言って織木氏のいるという都内の邸宅を訪ねた。邸宅の玄関で見張りの人に織木氏が新たな部隊の創設をしたい旨を聞いて参ったと言うと見張りの人は中から1人の老人を連れてきた。見張りの人は執事についていくように言った。歩きながら執事はこう言い始めた。


「あなたが部隊の創設を聞いて参られた方ですか。」


「その通りです。」


「いやはや・・・恐れ知らずの方がいらっしゃったものだ。」


「それはいったい・・・。」


「部隊の創設を公募しましたのはこれより5週ほど前の事です。しかしだれも参りませんでした。」


ちなみにこの世界でも1週間は7日である。


「それはいったいどういうことでしょうか?」


「ご存じではありませんでしたか。新たな部隊は帝国領への攻勢の為に作るように天皇陛下より命ぜられたものでして。現在の帝国に対して攻勢に転ずることは誰が見ても不可能に近いことなのです。」


「なるほど。そう言う理由があったのですか。」


そういう話をしてしばらく進むと障子のある場所に執事が座った。


「だれだ?」


「執事の大輔であります。新たな部隊の部隊長になりたいと申される方が参られましたのでお連れいたしました。」


「おおそうか!すぐに入られよ。」


「それでは私はこれにて。」


そう言って大輔と名乗った執事の人は行ってしまった。俺は障子をゆっくりと開けて土下座をして挨拶をした。


「織木様。私の名は久禮軌翔と申します。新たな部隊の創設のための隊長を求めていると聞きまして参りました。」


「おおそうか。しかしその服はなんじゃ?」


「これは迷彩服と申します。戦闘の為に作りました服であります。」


「そうか。して、お主はなぜ志願をしたのじゃ?帝国に対して防戦一方を攻勢に転ずるための部隊になぜ?」


「ここより3日ほど東に参ります所にあります角松村の黄球神社にて神託を受けまして、『新たな部隊を創設したいと考えている者に仕え、皇国を救え』とのことで参りました。」


「そうか。して、お前はどのような魔法を扱える。」


「風と地であります。」


「そうか。ならばその力を見せてくれぬか?」


「わかりました。それでは・・・土の人形よ!その庭に立て!」


そう庭に向かって言うと高さ8mほどの土の人形が現れた。


「すばらしい!即採用じゃ!」


「ありがとうございます。」


「おい!大輔はおるか!すぐに部隊を設立するのじゃ!軌翔よ。お主を少佐に命ずる。」


「はっ!必ず織木様のご期待に添えられますよう頑張ります。」


「うむ。部隊の構成はお主に任せる。」


「どのくらいの兵をいただけるのでしょうか?」


「あいにく騎兵はすべて国境線に配備しておるのでな。足軽のみで頼みたい。出兵までの準備期間は3週間とする。3週間の後、最前線の地、鈴谷まで向かってもらう。」


「わかりました。」


そう言って俺は新部隊を創ることになった。部隊に配属されたのは800人ほどの兵士であり、槍兵200、弓兵250、鉄砲兵が50名、そのほかの300は猟師や料理屋などの戦闘経験のない者だった。


「実質的に独立大隊クラスか。」


そう思って俺は槍兵を含めて下記のような分け方をした。


第1独立大隊

 指揮官:久禮 軌翔

  第1歩兵中隊  槍兵100名  弓兵150  中隊長:喜一軍曹

  第2歩兵中隊  槍兵100名  弓兵100  中隊長:次郎軍曹

  第1小銃中隊  鉄砲兵50名        中隊長:信成軍曹

  第1偵察中隊  偵察兵50名   中隊長:雄一軍曹

  第1補給・兵糧部隊  200名   部隊長:太一軍曹


「こんなところか。さて、本部隊に集った兵士全員に感謝をする。本隊の目的は防戦中の前線を押し返し攻勢に転ずることである。」


そんななかで喜一軍曹が手を挙げた。


「隊長!本隊は帝国に対して攻勢に転ずることができるのでしょうか!」


「もちろんだ!」


「しかし、本国の主力である騎兵部隊は5000の帝国兵に対して同数での苦戦をしております!実質戦闘可能数500のわが軍が10倍の戦力に勝てることができるのでしょうか!」


「正面を切っての戦いは不可能だ。だが、正面で戦うことが戦闘ではない。私を信じてついてきてくれ。」


そう言うと全員が黙った。そのまま訓練を行い、3週間がたった。


「これより本隊は最前線の鈴谷に向けて出兵する!」


そう言って俺の部隊、第1独立大隊は鈴谷に向けて兵を進めた。

そして出兵してから10日、俺たちは最前線の鈴谷に一番近い町である石山にいた。最前線の町に拠点を築き、そこを前線基地として使うことにした。町長の多平さんは前線基地の設営に快諾をしてくれたおかげであった。ここから鈴谷まではおよそ5kmほどである。そのため、鈴谷には前哨基地を立てることにしたのだった。現在は鈴谷に対して偵察中隊が偵察に向かっている。偵察部隊が帰還してきたのは日が暮れてからだった。


「偵察ご苦労だった、雄一軍曹。報告を頼む。」


「報告いたします。現在帝国兵は帝国領内の要塞にて休息をとっていることがわかりました。要塞は石造りの強固な要塞で、砲門50を確認できました。」


「敵兵力の詳細な情報はあるか?」


「槍兵500、弓兵500、鉄砲兵450、騎兵950となっております。」


「なるほど。地形の情報はあるか?」


「敵要塞の地は元々海であった地帯を土で埋め立てて造られた場所であることがわかっております。」


「なるほど。・・・報告ご苦労。」


「それでは失礼いたします。」


そう言って雄一軍曹は部屋を出て行った。そして1人になった部屋で俺は腕を組んで考えた。要塞はやはり強固であった。そして正面を切っての戦闘はやはり不可能だった。奇襲を行うにも、周りが埋め立て地である以上は平地が続いている。よって奇襲も良くない。


「何かないだろうか。敵要塞を陥落させる方法は何かないのだろうか。」


よく本やゲームで、異世界に行った人間は元の世界の常識を用いて勝っている。とするならば、この世界にある魔法を用いてこの世界の常識外を引き起こしてやれば活路は見いだせる。そんな考えをしている時に夕刻の食事を太一軍曹が運んできた。


「部隊長殿、食事であります。」


「ああ、ありがとう。」


今日の夕食はパンと煮込みスープだった。味付けは薄いが、栄養価は考えられている。


「いかかですか?あの要塞を陥落できそうですか?」


「難しいな。奇襲を行うにも無理がある。」


「部隊長ほどの魔力を持っても難しいのですか。」


「まあな。1人だけで勝てるわけがない。そうできるのなら自分だけが派遣されているはずだからな。」


「そうですか。でも自信を持ってください。自信を持たなければ勝てる戦いも勝てませんので。」


「自信を持て・・・か。」


そうしたいのはやまやまだ。だが作戦自体が思いつかない。敵は埋め立て地上の要塞にいて、周りが平地、さらには兵力でこちらが圧倒的な不利をもっている。そんな中で自信を持てと言うのは・・・


「ん、待てよ?」


その言葉で俺の頭に1つの考えが浮かび上がった。あの神託を受けた時に、この世界はプレートテクトニクスの起きなかった世界だと言っていたはずだ。となれば・・・


「太一軍曹。1つ聞きたいことがある。」


「なんでしょうか?」


「お前は地震に会ったことはあるか?」


「地震とは・・・?」


「地面が揺れることなのだが・・・ないのか?」


「そのようなことに会ったことがありません。そもそも大地が揺れることなど聞いたことがありません。」


「そうか。そうなのか。」


その言葉で要塞陥落の作戦が浮かび上がった。

埋め立て地、地震、耐震性を全く考えていないであろう要塞。

この方法なら間違いなく要塞は使い物にならなくなる。いや、それどころか要塞内の敵兵を一掃できるかもしれない。


「太一軍曹!すぐに全部隊長を呼び出せ!作戦を思いついた!」


「了解しました!」


そう言って出て行った。集まった各部隊長に俺は作戦案を伝えた。作戦名は『関東』、作戦遂行日時は明日の昼頃。要塞から煙が上り始めたのを合図に、作戦開始とした。また、各部隊から特殊部隊を創設するということで土魔法と風魔法の使い手の2部隊を創った。結果的に部隊は下記の編成になった。


第1独立大隊

 指揮官:久禮 軌翔

  第1歩兵中隊  槍兵82名  弓兵128名  中隊長:喜一軍曹

  第2歩兵中隊  槍兵98名  弓兵87名   中隊長:次郎軍曹

  第1小銃中隊  鉄砲兵50名   中隊長:信成軍曹

  第1偵察中隊  偵察兵50名   中隊長:雄一軍曹

  第1補給・兵糧部隊  168名   部隊長:太一軍曹

  第1特殊風力部隊  50名   部隊長:平一郎伍長

  第1特殊地力部隊  37名   部隊長:六郎伍長


次に部隊の配置を行った。配置方法はこうだった。第1歩兵中隊を要塞の正面である南側に配置し、第2歩兵中隊をその右側に配置した。第1小銃中隊はそれよりも少し後ろに配置を行った。そして本作戦に重要な2つのうち、第1特殊風力部隊は海側の方向、つまり南風を常に送り続けることを指示した。一方で第1特殊地力部隊は要塞から見た南東側に配置し、煙の確認と共に深さ5kmの地点を西に移動するように命令した。そして俺は偵察中隊と共に南西側に移動し、同じように煙が確認できた時点で東に向かって地面を動かすように指示した。ちなみに町民に対しては戦闘で家屋の被害が出る可能性があるため、家財道具をすべて持って南に退避するように指示しておいた。すべての準備が整い、偵察隊と共に隠れていると雄一軍曹が話をしてきた。


「しかし部隊長。この配置で何をなさるおつもりで?」


「まあ見ていろ。あの要塞を火の海に変える方法を思いついたのさ。」


あれは確か正午の少し前に起こったはずだ。エネルギー量は完全にあの時の量を下回っているはずだ。だがこの世界になくて、あの世界にはあったもの、少なくとも日本ではいくつものデータがある。それを魔法で起こす。


「全体に通達しろ。全体伏せろと。揺らす準備は整った。」


「了解しました。しかし本当に起こるのですか?地面が大きく揺れ動くなんて。」


そのまま待機してから1時間ほど経っただろうか。要塞から煙が上がり始めた。それと同時に地面の西側への移動を感知した。それと同時に東へと地面を動かし始めた。さて、ここで問題。ビスケットに両側から力を加えたらどうなるだろうか?答えは簡単だ。ビスケットが上か下に折れる。そしてそれを地球クラスで起こすとこうなる。大地が大きく揺れ、至る所で水が噴出し始める。そう。これが狙っていたことの1つだった。


「よし!液状化現象に成功した!マグニチュードは6.5だが、十分すぎる!」


液状化現象。比較的大きな地震が発生すると地面から水があふれ出てくる現象だ。これによって倒壊や傾斜する。そして要塞はさらに不幸な運命をたどった。まず地震の影響で、耐震化のされているはずもない監視塔が倒壊した。2つ目に周りを覆っていた壁も液状化現象の影響で傾いて倒壊を始めた。これだけであれば人的被害は中規模で済んだだろう。だが、俺はそれに対して更なる追い打ちを考えていた。狙ったのは煙が出始めた時、つまり火を起こしている時だ。地震単独で大規模な被害を出せるとは思っていなかった。そこで俺はあの世界での史実をモチーフにした作戦を立てた。そして常に風魔法で南からの風を送っている。南には海もない状態であり、基本的に空気が乾燥している。さらに言えば倒壊した後の要塞はコの字型だ。その条件が重なった結果が目の前の要塞で起こっていた。


「火災旋風も問題なく起きたか。」


火災旋風。炎が竜巻状になって人的被害を増大させるものだ。その温度は1000℃にもなる。結果的に要塞内にいる人間はすべて殲滅できる。純然たる殲滅戦だ。その光景が10分ほど続いた時点で俺は風を送ることを停止させた。火災旋風もそれで消え去り、歩兵中隊を要塞に向けて進軍させた。進軍させた部隊が到着する頃になると、要塞内は海側の方向を除いて南側の防御を失っていた。そこから侵入をすると人肉が燃えたとき特有のにおいがしていた。各部隊に確認を取らせたが、どの死体も黒くなっていた。南側を見てみると軍港が見えた。どうやら帝国海軍の港があったらしく、マストと数百の砲門を持った船が数隻残っていた。


「こいつは・・・戦列艦か?」


それは17世紀の砲撃主体艦艇として作られた物の1つである戦列艦に似ていた。


「だれかこの船の型式はわかるか?」


その問いに太一軍曹が答えた。


「部隊長。それはドリアス型多砲艦であります。」


「そうか・・・。この船は使えそうだな。おい、鹵獲・・・他国の船を奪うのはできるか?」


その問いには雄一軍曹が答えた。


「大丈夫です。互いにそれは行いあっておりますので。」


「よろしい。4隻を独立大隊に一時的に加える。太一軍曹、平一郎伍長の部隊と共にここから石山に近い港にまでもっていってくれ。座礁には気を付けるように。」


「了解しました。ただちに取り掛かります。」


そう言って太一軍曹は船に乗り込み、沖合から石山に向けて動き出した。


「さてと・・・次は要塞内から使えるものを運び出すか。」


2時間をかけて探した結果、数日分の兵糧と砲38門を発見し、石山にまで運ぶことができた。


「伝達兵、織木殿に報告をしてきてもらいたい。『本隊は敵国要塞の攻略に成功しせり。敵艦艇4隻、砲門38を回収。ただちに石山に本国より守備隊の増援を求める』と。」


「了解しました。これより中央都に向かいます。」


そう言って走って行った。


「さてと・・・こっちは町の再建だな。」


あの地震の影響でいくつかの建物を除いて完全に倒壊していた。町長からは建物の倒壊の追求よりも要塞を攻略したことへの礼しか来なかった。そこで俺はこの地を重要拠点とすべく、要塞の石や近くの木を用いて建物の陣地化を進めた。木の囲いの外に石の壁を作り、その周りには水の入った堀を作った。陣地からの出入りは南側に架けられた架橋のみにした。陣地化が済んだあたりで守備隊が到着し、俺は中央都へと一時的に帰還命令が出た。俺は守備隊と部隊を残して3日かけて馬で中央都へと帰還した。中央都戻った俺は織木氏の本拠に戻っていた。織木氏に状況を伝えると要塞の攻略成功や鹵獲品が手に入ったことを喜んでいた。


「うむ。お主はこれまで難攻不落と言われた要塞を見事落としたのじゃ。褒美を与えぬとな。・・・そうじゃ、お主を連隊長に任命しよう。町に送った守備隊をお主の隷下部隊とする。それと、褒美として金10kgを授ける。同時に鹵獲した軍需品も授ける。」


「はっ!ありがたき幸せ。」


そう言って褒美を受け取った。と言っても金10kgを直接受け取るわけでもなく、証書を受け取っただけであるが。ちなみにこの世界での金1kgはコメ100kgに相当する。


「して、このまま進軍をできそうか?」


その織木氏の質問に俺はこう答えた。


「現時点で味方に被害がなかったのは幸いですが、現時点では次の要塞までの拠点がございません。なので、石山に重要拠点を築いたうえで拠点を道なりに立てるつもりであります。」


「そうか。陛下は早期の反撃を期待しておられる。何とかならぬか?」


「現時点では断言できませんが、早いうちに進撃を開始するつもりであります。」


「よろしい。陛下には帝国領侵攻の気があると伝えておこう。」


「それでは前線に戻って進撃の準備をいたします。」


「うむ。」


それで中央都での用件は終了した。そのまま俺は馬にまたがって前線基地へと戻った。

石山に戻り、守備隊を隷下部隊に加え終えると一息ついた。


「さてと・・・次の要塞までの拠点を考えないとな。」


偵察隊から1週間分のレポートを受け取った俺は作戦を考えていた。次の要塞はここから5km先の地点にある要塞、通称セヴァスト要塞の陥落を目指すことになっていた。セヴァスト要塞は小高い丘の上に立っており、砲や監視塔が多数存在している。


「地形がこれじゃ、この前の作戦は使えないな。」


前回の作戦は埋め立て地の上の要塞を打ち崩すだけだったので逆断層型地震と火災で殲滅を行えた。だが、今回はそれができない。地面を調べさせたところ、すぐ下に岩があったのだという。つまり前回のような方法では地震を起こすにはパワー不足なのだ。プレート型を引き起こそうにも時間がかかりすぎる。


「何かいい案はないだろうか?」


そう言えば今回の守備隊は騎兵が中心だった。この国は騎兵を重視していることから考えれば当然の事であるが、馬力がある。つまり短期決戦に向いているということだ。となれば、機動力を生かした作戦をできないだろうか?そう思いながら地図を見直していると昼食が太一軍曹によって運ばれてきた。


「隊長、昼食の時間です。」


「・・・もうそんな時間か。」


「いかがでしょうか?」


「何とも言い難いな。」


そこに雄一軍曹も入ってきた。


「部隊長、申し訳ありません。報告を1つ忘れて・・・あ、食事中でしたか。」


「いや、わざわざ持ってきてくれてありがとうな。それで、何の情報だ?」


「はっ!セヴァスト要塞から北西の場所に港町を見つけた時の偵察であります。」


「港町か?そんなのがあるのか。」


「はい。小さいながらも大型船舶が出入り可能な港でした。」


「港町・・・か。」


そう言えば戦列艦を先の戦いで鹵獲していたなと思いだした。


「その町に帝国軍はいるのか?町から要塞までの距離は?」


「帝国兵はいないようでした。また、要塞からの距離は1kmだと思われます。」


「目と鼻の先か。」


それを聞いてまたしても俺はあることを思いついた。


「雄一軍曹。すぐに艦の運用経験があるものを全員呼び出せ。太一軍曹。帝国の言葉を話せる帝国人に似ている者を10人集めろ。戦闘準備だ。」


「了解しました!」


戦闘準備と発した時から15日後、俺は鹵獲した戦列艦の甲板上にいた。守備隊の中から戦列艦の運用をしたことのある兵や騎兵を満載して一路目標の港町であるセヴァロに向かっていた。4隻にはそれぞれ新しい名前を付けた。旗艦を三笠みかさと名付け、他の3隻に天城あまぎ加賀かが赤城あかぎと名付けた。三笠を旗艦にしたのは、カロネード砲を10門積んでいたからだ。一方でその他は60門のカノン砲を積んでいただけだったので接近しての対地支援、強襲揚陸に用いることにした。それにより、下記の海上部隊と揚陸専用部隊が編成された。


第1機動艦隊

 司令:久禮軌翔

  旗艦:ドリアス型1等多砲艦三笠    艦長 瀧少尉

   強襲部隊:ドリアス型2等多砲艦天城

        ドリアス型2等多砲艦加賀

        ドリアス型2等多砲艦赤城

         強襲上陸部隊     部隊長:柳軍曹


「と言っても俺の知っているカノン砲は爆発するんだけどな。」


そう。この時代のカノン砲は大型の鉄砲玉を飛ばすだけの存在なので爆発をすることはない。ただボーリング玉のように地面に落ちたら転がっていくだけなのだ。そんな俺のもとに三笠の艦長になった瀧少尉が報告にやってきた。


「目標の港町に到達しました。現在、強襲する3隻が湾内で強襲部隊の揚陸を行っております。」


「よし。セヴァロを押さえ、陸上攻撃部隊が行動可能になり次第、艦砲射撃を行う。」


「了解しました。」


そう言って瀧少尉は伝令役に伝えに行く。伝え方は簡易的な方法として光によるモールス信号を使った。モールス信号の符号は頭の中に叩き込まれていることや、符号が短か長で会話が可能という事が決定要因になった。


「上陸部隊からの報告が来ました。」


「読んでくれ。」


「はっ!『発 強襲揚陸部隊。宛て 第1機動艦隊旗艦三笠。本隊はセヴァロの町を強襲し、これを占拠。町側はこちらの傘下に入りたいとの要請あり』という報告を受けております。」


「よろしい。ひとまず占領地では治安の維持を行う。ところで、あの兵器もすでに上陸済みか?」


「はっ!装甲砲車はすでに上陸を終え、要塞に向けて砲を向けております。」


「そうか。石山の独立大隊は動けそうか?」


「そちらに関してもすでに準備が整っているとの報告が来ております。すべての準備が整いました。」


「よろしい!これより本隊は今を持ってセヴァスト要塞に向けて砲撃戦を開始する!砲戦準備!」


「了解!全砲門開け!」


その合図とともに機動部隊の全艦が要塞に向いている砲門を開けた。


「撃ち方始め!」


「了解!撃ち方始め!」


その声と共に耳をつんざくような発砲音が響いた。合計120門の砲撃は比べ物にならない響きだった。


「着弾まで5、4、3、・・・弾着、今!」


それと同時に要塞の城壁が土煙で次々と隠れていく。


「装甲砲車部隊に伝えろ。『全車両進軍開始、砲撃をしつつ要塞へと突撃せよ。』とな。」


「了解!」


視点:第1装甲砲車中隊  中隊長:柳軍曹


「洋上からの信号受信、全体行動開始!」


その掛け声と共に進軍を開始した。ケイ装甲砲車。説明によると鉄製の履帯と呼ばれる物に歯車を取り付け、チェーンを用いて移動を行う車両。動力は火魔法を用いて蒸気を発生させることで回している。弾除けとして木と布で構成された簡易的な装甲が施されている。各車両に2門のカノン砲を積んでいて互い違いに撃てるようになっている。そう聞かされた。


「しかしこんなものができるとは。」


今まで良くて馬、悪くて死体の上にしか乗ったことのない俺にとって、装甲砲車は未知の車両だった。だが、使ってみるとかなり使い勝手がいい。何よりも方向転換がスムーズにできる。しかも急停車が可能ときた。


「装甲砲車・・・これからの戦場で主役を張るかもな。」


そんなことを中隊長は言いながら進軍していった。攻撃可能位置まではあと500mもない。順調な滑り出しを見せている陸と違い、海では新たな局面を迎えていた。


視点:久禮軌翔


「敵艦の接近を確認!北北東に5kmの地点!敵数6!」


瀧少尉からの報告に対して俺はいたって冷静にこういった。


「あわてるな。迎え撃つぞ。新兵器の試し打ちにはちょうどいいだろう。全砲門へ命令。炸裂弾に換装しろ!」


「了解!炸裂弾用意!」


俺はこの戦いで2つの新兵器を用意した。1つは装甲砲車だ。あっちの世界で戦車と呼ばれる兵器に近いものだが、実際は自走砲というのがいいくらいのものだ。そしてもう一つが今言った炸裂弾だ。この世界ではまだ信管はできていない。つまり、手榴弾もないし高射砲もない。しかし俺は炸裂弾を創り出した。炸裂弾のもとになったのは焙烙火矢ほうろくひやだった。土鍋などの陶器に火薬を入れ、導火線に火をつけて破壊する手榴弾に似た投擲用兵器だ。それを艦船用のカノン砲に乗せられる大きさにした。あっちの世界でもこの兵器が対西洋艦船への攻撃に用いられたらしい。しかし問題が1つだけ残っている。それは弾着のタイミングを計ったうえで導火線に火をつけなければならないという事だ。早すぎては手前で爆発してしまい効果がない。一方で当たって爆発までに時間があっては火を消されてしまう。なので、1発目か2発目で着発までのタイミングを計り導火線に火をつけるように命令をした。


「敵艦を視界に捉えました。敵艦との距離は2km。6隻中5隻はドリアス級と確認。もう一隻はハロルド級海防艦と確認。」


「よろしい。敵艦隊の進路を塞ぐ形で行く。」


その命令に瀧少尉も手早く命令を飛ばす。


「了解。進路0から315に変更。砲戦可能距離までおよそ500m。」


水上船同士が砲戦をするのはあっちの世界では第2次世界大戦以来の事になる。そして俺は砲戦の基本である丁字戦法を用いた。この時代ではまだ単縦陣が用いられ始めたようなので、この作戦は非常に有効な手と言える。そして残りの3隻は湾内で指示あるまで隠れているように伝達をした。


「敵艦を射程内に捉えました。」


「よろしい。撃ち方始め。」


「了解。撃ち方始め。」


その瞬間、再び右舷側が光った。一斉射撃を行ったのがその理由だ。


「弾着まで5、4、3・・・弾着、今!」


それと同時に転舵中の敵1番艦が一気に傾いた。いくつかの位置で爆炎が起こる。その炎が勢いよく全体へと回っていき、ところどころで爆発音が聞こえてきた。どうやら敵艦の各所で誘爆が発生しているみたいだ。


「よし!1隻目は確実に仕留めた。2隻目に照準合わせ!カロネード砲、撃ち方始め!」


「カロネード砲、撃ち方始め!」


2隻目に照準を向け終わったカロネード砲が火を噴く。そして瀧少尉の弾着合図と共に2隻目にも命中する。ある意味ではこの2隻目が一番不幸な道をたどったのかもしれない。カロネード砲が上空から雨のように落ちてきてマストがへし折れた。それだけにとどまらず、上部甲板を貫通した炸裂弾は火薬庫に引火したらしく、強烈な閃光と共に船の上半分は完全に失われていた。


「2隻目は轟沈か。」


「敵艦3隻がこちらに向け発砲!」


「誘い込んだな?強襲艦に連絡だ!『本艦の右舷に位置する敵艦4隻に対し攻撃を開始せよ』とな!」


「了解!」


返答はすぐに行動で返ってきた。敵艦のいたるところで水柱が上がり、命中した敵艦が炎に包まれていく。大型の敵艦ドリアス級はそれで完全に沈黙した。残ったのは小型の艦艇であるハロルド級だけだった。その残った艦船は勇猛果敢に突進を仕掛けてくる。


「これだけの損害を見ても突っ込んでくるか。よろしい!あの敵艦を鹵獲するぞ!全兵に告ぐ!白兵戦であの船を鹵獲する!進路0にもどせ!」


その命令に瀧少尉が復唱する。それと共に船が敵艦の横を通り抜ける位置に着く。中世の艦隊戦は最後に白兵戦で決着をつけるという話を聞いたことがあった。そしてこの船にも数百の白兵戦経験者がいる。敵艦の横に船をつけたと同時に兵士が飛び乗っていく。小型艦と大型艦では乗組員の数も違う。白兵戦の結果は歴然としていた。数分で艦を制圧して曳航準備に入った。


「瀧少尉、再び要塞への支援攻撃に移るぞ。」


「了解。進路120。面舵いっぱい。」


再び旗艦三笠は港町付近に戻った。そのころ地上部隊はすでに要塞直前まで迫っていた。


視点:第1装甲砲車中隊  中隊長:柳軍曹


「敵要塞までの距離残り500mまで接近!砲撃開始!」


その声と共に1両に2門積まれているうちの1門が火を噴いた。反動はすさまじく、前進していたはずがいつの間にか20m下がっていた。


「こんなもんが陸戦で扱えるならこの要塞も陥落できる!」


それはもはや予感から確信へと変わっていた。数発の命中弾を与えたところであらかじめ城塞内に侵入させていた別働隊が合図を送ってきた。合図と同時に要塞内部への入り口が開き、同時に南側からも混乱の声が聞こえてきた。


「歩兵中隊も城壁を登り切ったな。いくぞ!最後に内部で暴れまわるんだ!」


その掛け声で要塞内部へと進撃を開始した。要塞内部はすでに大混乱に陥っていた。それは、もはや軍ではなく群衆のようであった。それから数分で要塞は陥落した。外からは被害がほとんどないように見えるが、それを守る帝国軍の守備隊は全員捕虜になっていた。


「洋上の指揮官に伝達!『我敵要塞を制圧しせり。』送れ!」


すぐに洋上から答えが返ってきた。返答の内容は『現在位置を守備せよ。本要塞を前哨基地とする。』だった。


視点:久禮軌翔


「早かったな。もっと時間がかかると思ったが。」


その言葉に瀧少尉はこう返してきた。


「前線敵兵の多くは徴兵された兵だと言われています。志願でもない兵士では士気もなにもないのだと思われます。」


「どちらにせよ、帝国領の一部を削り取れたわけだ。まだまだこれからだ。」


「司令、海防艦内の部隊より連絡です。敵艦内で面白い物を見つけたそうです。」


「どんなものだ?」


「これです。何かの図面のようですが。」


「これは・・・!なんてこった。これはロケット弾じゃないか。」


そう。それは魚雷クラスの大きさを持った無誘導対艦ミサイルの図面だった。


「ロケット弾ですか?」


「ああ。これはこちらに向けて撃つ爆発物とでも言うべきだろうな。この時代じゃ回避も撃墜もできないものだ。」


「敵はすでに実戦配備をしたのでしょうか?」


「どちらにしても、こちらも最新兵器を作るべきだな。運よくエンジンが出来ているんだ。この図面を持った以上、あれを作ることにするか。」


そう。まだ反撃は始まったばかりだ。これからも強い敵が現れ続けていくはずだ。そう思って俺は気を引き締めて新たな兵器の図面を書き始めた。・・・まだ見ぬ強敵を相手にするために。

最後に。実はこの小説、最初は連載しようと思っていた小説の1つでした。でも、クトゥルフ神話系ストーリーを書いているうちにこっちが疎かになっていました。でも、せっかく描いたものなのだから短編で出そうと思って投稿しました。ちなみに異世界ものはもう一つだけあります。投稿するのがいつになるかわかりませんが、忙しくない限り小説を書いていこうと思っています。

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