第4話「一文無しの一日」
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翌朝。
薄い毛布から体を起こし、俺は大きく伸びをした。
今日からは本当に一人だ。
ガルスさんの世話になるのも終わり、ここからは自分で稼いで生きていかなきゃならない。
「……やるしかないよな」
金はゼロ。
武器もゼロ。
正真正銘の一文無し。
それでも、まずは一歩を踏み出すしかない。
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朝の冒険者ギルドは、すでに人で賑わっていた。
「新規登録をお願いします」
受付で手続きを済ませ、俺は正式にGランク冒険者になった。
渡された小さな金属のプレートを眺めながら、少しだけ実感が湧く。
(本当に始まったんだな……)
掲示板を見ていると、受付の女性が声をかけてくれた。
「初めてなら、まずはこれがいいと思いますよ」
差し出された依頼票にはこう書かれていた。
——ギルド内清掃:報酬 銅貨五枚。
「場所も迷いませんし、安全ですから」
「これでお願いします」
最初の仕事としては、これ以上ないくらいちょうどいい。
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掃除は思ったよりも本格的だった。
床を磨き、机を拭き、倉庫の埃を払う。
窓を拭いて、道具を片付けて——
「結構広いな、ここ……」
地味だけど、やりがいのある仕事だった。
昼前にはすべて終わり、俺は受付で報酬を受け取る。
銅貨五枚。
たった五枚。
でも今の俺には、これが命綱だ。
「よし……まずは一歩目だ」
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午後からは、もう一つ依頼を受けることにした。
掲示板で見つけたのは、昨日案内してもらった武具屋の仕事。
——武具屋の荷運び手伝い:報酬 銅貨四枚。
「これなら場所も分かるな」
俺はその依頼を受け、武具屋へ向かった。
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「おう、昨日の案内の子か」
店主は俺を見るなり、すぐに思い出したようだった。
「今日は荷物運びの手伝いです」
「助かるぜ。ちょうど人手が足りなかったんだ」
案内された倉庫には、木箱が山積みになっていた。
「これを店の中に運んでくれ。重いから気をつけろよ」
「はい」
持ち上げると、予想以上にずっしりくる。
何往復もして箱を運び、棚に並べていく。
単純な作業だけど、やっているうちにコツもつかめてきた。
夕方になるころには、倉庫はきれいに片付いていた。
「よく働くじゃねえか。新人にしちゃ上出来だ」
店主は満足そうに笑った。
「真面目にやってくれた礼だ。次に武器を買うときは——半額にしてやる」
「え、本当ですか?」
「おう。約束だ」
思わず目を丸くする。
半額なんて、今の俺には夢みたいな話だ。
頭の中に、昨日見た値札が浮かぶ。
初心者用短剣は銅貨十三枚。
その上の初心者用片手剣は銅貨二十八枚。
(半額なら……銅貨十四枚)
まだ手は届かないけど、ぐっと現実的な目標に見えてきた。
「ありがとうございます!」
「また働きに来いよ」
そう言って渡されたのは、約束どおりの銅貨四枚。
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ギルドに戻ると、今日の稼ぎは合計で銅貨九枚になった。
宿に泊まるには十分な金額だ。
でも——
(せっかくだし、もう少し稼げないかな)
そう思って掲示板を見ていると、もう一つ目に入った依頼があった。
——宿屋の清掃手伝い:報酬 銅貨三枚(宿泊一泊付き)
「これだ」
ちょうどいい条件だった。
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案内された宿屋で、俺は床を掃き、机を拭き、簡単な片付けを手伝った。
「助かったよ。新人にしてはよく動くね」
女将さんにそう言われると、なんだか少しうれしくなる。
仕事が終わるころには、外はすっかり夕暮れだった。
「はい、約束の報酬。今日はそのまま泊まっていきな」
銅貨三枚と、簡素だけど清潔な部屋。
それだけで、十分すぎるほどありがたかった。
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部屋のベッドに腰を下ろし、今日稼いだ硬貨を並べてみる。
銅貨十二枚。
ゼロだった俺が、一日でここまで来た。
「……やればできるもんだな」
目標ははっきりしている。
武具屋で見た初心者用の片手剣。
半額にしてもらえば、銅貨十四枚。
もう少しだ。
「あと少し稼げば……俺にも武器が持てる」
その事実が、思っていた以上にうれしかった。
この世界で生きていくための、確かな一歩。
今日という日は、その始まりになったんだ。




