第24話「昇格試験」
⸻
Dランク昇格試験当日。
ギルドの訓練場には、いつもより多くの冒険者が集まっていた。
「昇格試験ってのは、やっぱ見物なんだな……」
俺は小さく息を吐く。
緊張していないと言えば嘘になる。
でも不思議と、足は震えていなかった。
⸻
「レイ、大丈夫?」
控え室の前でアリアが声をかけてくる。
「ああ。ここまで来たんだ。やるだけやるさ」
「相手は魔法使いよ。焦らないこと。距離を取られても、冷静にね」
何度も訓練で言われてきた言葉。
俺はうなずく。
「分かってる。無茶はしない」
⸻
試験官が名前を呼ぶ。
「レイ。ミレイア。前へ」
⸻
対戦相手――ミレイア。
淡い青色のローブをまとった、細身の女性だった。
長い杖を手に、静かな目でこちらを見ている。
「よろしくね」
落ち着いた声。
敵意はない。
ただ純粋に、試験の相手としてそこにいる。
「こちらこそ」
⸻
俺は購入した片手剣を握り直した。
背中には、あの“名前のない剣”。
でも今日は――俺自身の力で戦う。
⸻
「それでは――始め!」
試験官の合図が響いた。
⸻
瞬間。
「——風弾!」
開始と同時に、ミレイアの魔法が飛んできた。
「っ!」
反射的に横へ跳ぶ。
地面が弾ける。
⸻
速い。
そして容赦がない。
間合いを詰めようと踏み出した瞬間、次の詠唱。
「火弾、二連!」
二つの火球が一直線に俺を追いかけてくる。
⸻
「くそ……!」
近づけない。
訓練で何度も想定してきた展開。
でも実戦になると、圧力が段違いだ。
⸻
観客席から声が聞こえる。
「剣士じゃきついな」
「魔法使い相手じゃ分が悪い」
⸻
——その通りだ。
相性は最悪。
俺だってそれは分かってる。
⸻
それでも。
「……焦るな」
自分に言い聞かせる。
⸻
無闇に突っ込めば魔法の的。
立ち止まれば遠距離で削られる。
なら、やることは一つ。
⸻
“冷静に、戦う”。
⸻
俺は訓練場の障害物を利用して走り回る。
柱の陰へ。
壁際へ。
一直線に突っ込むのではなく、ジグザグに。
⸻
「ちょこまかと……!」
ミレイアがわずかに眉をひそめた。
それでも攻撃は正確だ。
⸻
火弾、風刃、拘束の蔦魔法。
次々と飛んでくる。
腕をかすめ、服が焼ける。
⸻
「レイ、落ち着いて!」
観客席からアリアの声が響く。
「相手の詠唱の“間”を見て!」
⸻
その言葉で、はっとした。
そうだ。
魔法には必ず“隙”がある。
⸻
俺は息を整える。
ミレイアが次の詠唱に入った瞬間――
ほんの一瞬、攻撃が止まる。
⸻
そこだ。
⸻
俺は地面を蹴った。
今までで一番の速度で前へ。
⸻
「しまっ——!」
ミレイアの表情が初めて崩れた。
慌てて防御魔法を張ろうとする。
⸻
だが。
もう遅い。
⸻
間合いに入った。
⸻
「はあああっ!」
振り下ろした剣が、彼女の杖に当たる。
金属音。
そのまま弾き飛ばした。
⸻
無防備になったミレイアの目の前で、俺は剣を止めた。
⸻
「……勝負あり、だな」
⸻
静寂。
そして――
⸻
「そこまで! 勝者、レイ!」
⸻
試験官の声が響いた瞬間、会場がどっと湧いた。
⸻
「……負けたわ」
ミレイアが小さく息を吐く。
「いい勝負だった。ありがとう」
俺が手を差し出すと、彼女は微笑んで握り返した。
「悔しいけど、完敗ね」
⸻
観客席からアリアが駆け寄ってくる。
「やったわね、レイ!」
「ああ……なんとかな」
⸻
息は荒い。
体中が痛い。
でも——
⸻
「これで……Dランク、だな」
⸻
試験官が頷く。
「合格だ。おめでとう」
⸻
三ヶ月の努力。
積み重ねてきた日々。
それが、やっと形になった。
⸻
俺は小さく空を見上げた。
⸻
「次へ、進めるな」




