第23話「次へ進む前に」
⸻
迷宮から生還してから——気づけば三ヶ月が過ぎていた。
特別な事件が起きたわけじゃない。
劇的な戦いがあったわけでもない。
ただひたすらに、俺たちは冒険者としての“普通の日々”を繰り返していた。
⸻
朝は訓練場から始まる。
素振り。
基礎体力づくり。
武蔵からの短い助言。
派手さはないけれど、確実に体は強くなっていた。
⸻
アリアも同じだ。
俺の隣で静かに魔法の練習を続け、支援の精度を上げていく。
「今日は反応速度が上がってるわね」
「訓練の成果ってやつだな」
そんな会話も、いつの間にか当たり前になっていた。
⸻
昼からはギルドへ向かい、依頼をこなす。
薬草採取。
近郊の小型魔物の討伐。
商隊の短距離護衛。
どれも地味で、危険度の低い仕事ばかり。
でも——
その一つ一つが、確実に俺たちの経験になっていた。
⸻
「今日は銅貨12枚ね」
「昨日よりはマシか」
小さな報酬を受け取り、また次の日へ。
そんな繰り返し。
⸻
新しく手に入れた“名前のない剣”も、最初はただの不思議な存在でしかなかった。
強いわけでもない。
特別な力を見せるわけでもない。
でも訓練の合間に握るたび、ほんのわずかに馴染んでいく感覚だけはあった。
「やっぱり変な剣だな……」
そう呟くと、アリアは肩をすくめる。
「でも、あなたに合ってる気がするわ」
理由は分からない。
ただ——手放す気にはならなかった。
⸻
依頼の成功数は少しずつ増えていった。
最初は緊張していた連携も、今では自然な呼吸みたいなものだ。
俺が前に出れば、アリアが支える。
アリアが詠唱すれば、俺が時間を稼ぐ。
当たり前のようで、最初はできなかったこと。
⸻
そして今日。
いつものように依頼を終えてギルドに戻ると、受付嬢が俺たちを呼び止めた。
「レイさん、アリアさん。少しよろしいですか?」
⸻
「はい?」
「お二人の実績を確認しました」
差し出されたのは、これまでの依頼達成記録。
びっしりと並んだ成功の印。
⸻
「規定の条件を満たしています。
Dランク昇格試験の受験資格がありますよ」
⸻
一瞬、言葉が出なかった。
「……本当ですか?」
「ええ。本当です」
隣でアリアが小さく笑う。
「やっとここまで来たわね」
⸻
長いようで短い三ヶ月だった。
派手な活躍はなかった。
でも——
無駄な日は一日もなかった。
⸻
「試験、受けますか?」
受付嬢の問いに、俺はゆっくりとうなずいた。
⸻
「もちろんです」
⸻
まだ俺たちは強くない。
武蔵の力に頼らなければ勝てない場面だって多い。
それでも——
あの日より、確かに前に進んでいる。
⸻
「次へ進む前に、ちゃんと越えなきゃな」
俺の言葉に、アリアが力強くうなずいた。
「ええ。一緒にね」
⸻
Dランク昇格試験。
それは、俺たちにとっての最初の大きな壁だ。
⸻
けれど今なら——
きっと、越えられる気がしていた。




