第21話「新しい相棒」
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迷宮から戻った翌日。
俺とアリアは、朝一番でギルドへ向かっていた。
「まずは報告と清算ね」
「ああ。財布の中身も心も、そろそろ立て直さないとな」
昨日の戦いで装備はボロボロ。
所持金だってほとんど底をついている。
現実はいつだってシビアだ。
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受付カウンターで迷宮の詳細を伝えると、ギルドは想像以上に真剣な顔になった。
C級パーティの全滅。
そして謎の上位モンスターの存在。
情報提供としても価値があったらしい。
「危険な状況の中、生還したことも含めて評価します」
そう言われて、最終的に受け取った報酬は――
•銀貨2枚
•銅貨20枚
「……助かった」
思わず本音が漏れる。
これでようやく人並みの生活に戻れる。
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「でも無駄遣いは禁止よ?」
隣でアリアがぴしゃりと言う。
「分かってるって。まずは装備の立て直しだ」
俺の剣は迷宮で二本とも折れた。
いまのままじゃ冒険者としてやっていけない。
「まずは武具屋ね」
「ああ」
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街の武具屋に入ると、見覚えのある店主が顔を上げた。
「おう、生きて帰ったか坊主」
「おかげさまで……って感じです」
俺は苦笑しながらカウンターに向かう。
「とりあえず、普通の片手剣を一本ください」
「手堅い選択だな」
並べられた中から、無難で扱いやすそうな剣を選ぶ。
価格は――
銀貨1枚
財布からしっかり支払い、これで実用武器は確保できた。
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そのときだった。
店主が棚の奥をちらりと見て、少し考え込む。
「……そういや坊主。もう一本、変な剣があってな」
「変な剣?」
「ああ」
店主は奥から一本の剣を取り出した。
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装飾はほとんどなく、見た目は地味。
古びてもいないが、特別な雰囲気もない。
本当に“ただの剣”に見える。
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「こいつな……正直、俺にもよく分からねえんだ」
店主は頭をかきながら続ける。
「鑑定屋に持っていっても値段がつかねえ。
由来も名前も不明。
だから店の商品として並べることもできねえ」
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俺は剣を受け取り、軽く握ってみた。
「……?」
不思議と手に馴染む。
特別軽いわけでも、切れ味が良さそうなわけでもない。
なのに――妙にしっくり来る。
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「でもよ」
店主が低い声で言った。
「長年この商売やってきた勘が言ってんだ。
——こいつは、ただの鉄の塊じゃねえってな」
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アリアが横から覗き込む。
「見た目は普通ね……」
「だろ? だから売り物にはできねえ。
だが不思議と捨てる気にもなれねえ」
店主は俺をじっと見た。
「坊主。お前、妙にこの剣に嫌われてねえ」
「え?」
「気に入ったなら持っていきな。
どうせ俺の店じゃ扱えねえ代物だ」
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「……いいんですか?」
「ああ。金はいらねえ。
代わりに、そいつでちゃんと生き延びろ」
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俺はしばらく迷ってから、静かにうなずいた。
「ありがとうございます。大事にします」
名前も正体も分からない剣。
でも——なぜか手放す気になれなかった。
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武具屋を出たあと、アリアが言う。
「変な剣ね。でも……悪くない選択だと思う」
「俺もそんな気がする」
こうして俺は、実用品の剣と、謎の剣。
二本の相棒を手に入れた。
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その足で俺たちは再びギルドへ戻る。
目的はひとつ。
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「パーティ登録、お願いできますか」
受付嬢がにっこり笑った。
「お二人で、ですね?」
「ああ」
「アリアさんはCランクですが、パーティとしてはレイさん基準のEランク扱いになります。それでもよろしいですか?」
アリアは迷わずうなずいた。
「構いません。まずは彼をDランクに上げます」
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こうして――
レイとアリアの正式パーティが誕生した。
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登録を終えた俺たちは、そのまま訓練場へ向かった。
「今日から本格的に鍛えるわよ」
「望むところだ」
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だが訓練の内容は一緒じゃない。
同じ場所でも、やることは別々。
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俺は素振りと基礎体力。
アリアは魔力制御と支援魔法の練習。
隣で違う努力を積み重ねる。
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購入した片手剣で何度もフォームを確認しながら、時折、あの“名前のない剣”も握ってみる。
「……やっぱり変な感覚だな」
特別強いわけじゃない。
でも不思議と疲れにくい。
まるで俺に合わせてくれているみたいだった。
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夕方、訓練を終えて合流する。
「どうだった?」
アリアの問いに、俺は肩を回した。
「まだまだだけど……悪くない手応えだ」
「私も基礎からやり直しね」
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小さな一歩。
でも確かな前進。
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「まずは地道に実績を積みましょう」
「ああ。Dランクまで、コツコツとな」
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新しい武器。
新しい相棒。
そして新しい目標。
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俺たちの冒険は、ここから本当に始まるんだ。




