第14話「迷宮への準備」
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Eランク昇格から一夜明けた。
昨日の出来事がまだ夢みたいで、朝から何度もギルドカードを見返してしまう。
「本当に……Eランクなんだよな」
でも浮かれてばかりもいられない。
昇格はあくまでスタート地点だ。
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その日の夜。
いつものように宿の部屋で武蔵を呼び出した。
「昨日の試験のこと、ちゃんと反省したいんだ」
「うむ」
静かな声が返ってくる。
「二天一閃……あれ、我ながらいい一撃だったと思うんだけどさ」
少し誇らしげに言うと——
「ふん」
武蔵は鼻で笑った。
「……え?」
「お子ちゃまの剣よ」
いきなりの辛口に言葉を失う。
「お、お子ちゃまって……勝ったんだぞ?」
「たまたま当たっただけだ。
構えは甘いし、無駄は多い。
あれを完成形と思うな」
「ぐ……」
何も言い返せない。
「二天一閃などと名付けおって。
本当の二刀は、もっと深い」
でもその言葉は、不思議と嫌じゃなかった。
「……じゃあ、もっと鍛えれば本物になるんだな」
「当然だ。
慢心するな」
相変わらず厳しい。
でも、その厳しさが今の俺にはちょうどいい。
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翌日。
俺はまず武具屋へ向かった。
「いらっしゃい。昇格おめでとう」
店主が笑顔で迎えてくれる。
「ありがとう。今日は買い物に来たんだ」
目的はひとつ。
「片手剣を、もう一本ください」
昨日の戦いで痛感した。
二刀流を本気でやるなら、ちゃんとした相棒が必要だ。
「なるほどな。昨日の影響か」
店主はうなずき、手頃な剣を出してくれた。
派手さはないが、扱いやすそうな一本。
「お前さんにはちょうどいい品だ」
財布は軽くなったけど、心は妙に満たされていた。
これで、ようやく形だけは二刀流だ。
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次に向かったのは魔法道具屋。
迷宮に入る以上、最低限の備えは必要になる。
「初級ポーションを三つください」
小さな瓶を受け取り、鞄にしまう。
「これで準備は……ひとまず整ったな」
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そして最後に——ギルドへ。
掲示板の前に立ち、あの依頼票を改めて見つめる。
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——初級迷宮・行方不明者捜索
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依頼内容を何度も読み返す。
Eランク程度の魔物しか出ない初級迷宮。
それでも、C級パーティが丸ごと消息を絶っているという異常な状況。
ただし——
「俺がやるのは、あくまで捜索だ」
迷宮の最深部を攻略するわけでも、強敵を倒しに行くわけでもない。
行方不明者を探し、可能なら連れ戻す。
それが今回の依頼の目的だ。
「無理はしない。
危なければ引き返す」
自分に言い聞かせるようにうなずく。
その上で——
「この依頼、受けます」
受付のお姉さんは少し心配そうな顔をした。
「本当に大丈夫ですか?
昇格したばかりですよ?」
「はい。無茶はしません」
攻略じゃない。
あくまで捜索。
そう考えれば、今の俺でも挑戦できるはずだ。
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ギルドを出ると、街の向こうに迷宮の入り口が見えた。
古い石造りの建物。
どこか重たい空気。
腰には新しい二本の剣。
鞄にはポーション。
「……よし」
怖さがないわけじゃない。
それでも——
「捜索、行ってみるか」
そうつぶやいて、俺は静かに迷宮の入り口へ向かった。




