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『歴史オタクの俺、魂を具現化して異世界を生き抜く』  作者: 龍海


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第12話「積み重ねる経験」



 初めての討伐から、さらに数週間が過ぎた。


 あの日を境に、俺は少しずつ依頼の数を増やしていった。


 ゴブリン討伐。

 街道沿いの小型魔物の駆除。

 危険度の低い護衛任務。


 どれも地味な仕事ばかりだけど、実戦経験を積むには十分だった。



 最初は一体倒すだけで精一杯だった。


 相手の動きが怖くて、剣を握る手が震えていた。


 けれど回数を重ねるうちに、少しずつ変わっていく。


 足が自然に動くようになり、

 無駄な力みが減り、

 相手の動きを冷静に見られるようになってきた。


「……前よりは、だいぶマシになってきたな」


 戦い終わったあと、そう思える日が増えていく。



 もちろん、楽勝なんて一度もない。


 毎回必死だし、怪我もする。

 思い通りにいかなくて落ち込む日もあった。


 それでも——


 昨日より今日。

 今日より明日。


 ほんの少しずつでも、俺は確実に前へ進んでいた。



 そして変化は、俺自身の中にも起きていた。


 ある日の夜。


 依頼を終えて宿に戻り、俺は机の前で一人反省をしていた。


 剣を手入れしながら、今日の戦いを思い返す。


「今日の動き……まだ甘かったな」


 頭の中で武蔵の言葉をなぞる。


「武蔵の太刀筋は、もっと無駄がなくて……もっと真っ直ぐで——」


 そこまで口にした、その瞬間だった。


「ようやく気づいたか」


「っ!?」


 部屋の静寂を破って、声が響いた。


 聞き慣れた、あの落ち着いた声。


「武蔵……?」


「その通りだ」


 俺は思わず立ち上がった。


「なんでだ? 今朝もう三分話したはずだろ」


「どうやら、そなたの器がまた一つ広がったらしい」


 武蔵は静かに続ける。


「今のそなたなら、十二の刻に一度。

 一日に二度、我を呼べるようだ」


「……マジかよ」


 思わず力が抜ける。


 一日一回だった三分間が、二回になる。


 それはつまり——


「俺、ちゃんと成長してるってことか」


「その通りだ」


 武蔵の言葉が、やけに胸に染みた。



「なあ武蔵。ちょうどいいから、もう一つ聞きたいことがあるんだ」


「なんだ」


 俺はずっと気になっていた疑問を口にした。


「闘技場でのことだよ。

 あんたが俺の身体を使って戦った、あれ」


 あの時の感覚は、今でもはっきり覚えている。


「身体の入れ替わり……あれは一体なんだったんだ?」


 武蔵は少しだけ間を置いて答えた。


「おそらく、あれは偶発的なものだ」


「偶発?」


「そなたが極限に追い込まれ、

 我との縁が最も強く結ばれた瞬間だったのだろう」


 つまり——


「普通はできないってことか」


「少なくとも、今のそなたにはな」


 やっぱり、都合よく使える力じゃないらしい。


「でもいつか……またできるようになるのか?」


「鍛え、積み重ね、器を広げれば——あるいはな」


 その言葉だけで十分だった。


 今はできなくても、未来につながっている。


 それが分かっただけで、前に進む理由になる。



 武蔵との会話は、今や俺の毎日の中心になっている。


 戦いの反省。

 構えの修正。

 次への課題。


 一日に二度になった三分間は、想像以上に大きな変化だった。


 俺の成長は、確実に加速している。



 そして、その日の夕方。


 依頼を終えてギルドに戻った俺は、掲示板の前で足を止めた。


 見慣れない依頼票が、新しく貼り出されている。



 ——初級迷宮・行方不明者捜索



 隣で話していた冒険者たちの声が耳に入った。


「初級迷宮って言っても、Eランク程度の魔物しか出ない場所だろ?」

「それなのに、C級パーティが丸ごと行方不明らしいぞ」


「C級が……?」


 思わず息をのむ。


 Eランクの魔物しかいない、比較的安全とされる初級迷宮。


 それでも——


「そんな場所で、C級パーティが帰ってこないって……どういうことだよ」


 胸の奥がざわつく。


 まだ俺には早い。

 それは分かっている。


 けれど掲示板に貼られたその依頼票から、どうしても目が離せなかった。


「迷宮、か……」


 小さくつぶやいたその言葉は、自分でも驚くほど重く響いた。

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