”上書き”とは
とりあえずで入った、ナックだが販売していたものはマックと同じであった。
「まあ、異世界番マックってところか。」
そうつぶやきながら、煉はポテトをつまむ。味も食感も、地球のそれとほとんど変わらない。いや、むしろちょっとうまい気がする。
異世界と言っても、日本と似ている店が多くあった。
「なんつーか、こういうのはあんまり変わんないもんなんだな。」
異世界も煉の住んでいた世界もつながる部分があり自分のいた世界も、意外と地続きなのかもしれない。そんな感覚が、ふと胸の奥に残った。
「今日のところはとっとと帰りましょうか。」
異世界の日常に少しだけ慣れた煉は、ナックの紙袋を片手にマンションへと帰っていった。
「ただいま。」
っと言ったが、おかえりはなかった。
「アリス、お前腹減ってないか、って、おい。」
アリスの目の前には、しっかりとしたご飯があった。しかも、フレンチトースト。
「お前それ、作ったのか?」
と、アリスに家事スキルがあることに期待しながら聞いたが
「いやこれは妾の能力で出したものだ。」
予想の斜め上を行く回答が帰ってきた。
「え?どういうことだ?アリス。」
「これは超賢者の権能”上書き”で出したものだ。妾の力ではこの程度しかできぬがな。」
っとしれっとすごい事を言っていた。
「この程度って。十分すごいけどな。つかどういう理屈何だ?」
「理屈?そんなものこの机の上に妾の欲しい”フレンチトースト”があると”上書き”しただけだ。」
「は?それってつまり望んだものがポンって出てくるってこと?」
「簡単に言えばそうなるのだ。」
「は?なにそのチートスキル。」
「実際はそんなに簡単ではない。この世界に”上書き”をするということは、本来起こるはずであった”可能性”も同時に考えなければならないのだ。小さい事象なら負荷は少ないのだが、大きい事情になると負荷が大きくなるのだ。」
「え?それってつまりどういうこと?」
「例えば、この部屋に一枚のパンを”上書き”するぐらいなら、朝飯前だ。だが、この街そのものを”上書き”しようとすれば、妾の脳と魂は焼き切れるのだ。」
アリスはそう言いながら、淡々とフォークでフレンチトーストを口に運んだ。バターの香りが部屋に広がり、現実感が妙に際立つ。
「つまり、上書きってのはお願いを勝手に叶えてくれる感じの能力じゃなくて、お願いを叶える神様の側って感じの能力なのか?」
「まあ、そんなところだな。在るべき理を、妾の理で”上書き”する。この世は書物のようなもので、ページの一節を削り、新たな一文を書き加えるようなものなのだ。あとで起きる矛盾ぐらいは世界が勝手に修正を入れてくれる。」
煉は少し沈黙した。
アリスの言葉は、彼の理解を超えていたが、どこかで納得できる感覚があった。
「じゃあ、例えば、死んだやつを生き返らさせることもできるのか?」
「ああ、理論上はできる。だがそんなことができるのは、生命の使徒カッシウスか、完全体の妾ぐらいだ。」
「なるほどな。つまり、今のあんたにとっては万能に見えても万能じゃないってことか。」
「そうだな。」
その言葉にはなにか切なさがあるように感じれた。
「っま、世の中そんなに都合がいい話なんてないからな。」
「いや、本来の妾なら理不尽を体現したようなものだったのががな。」
「理不尽っね。・・・じゃあなんで”傲慢”にやられたんだ?」
「・・・あれは、相手が悪かったのだ。・・・。」
「っまあんまり答えたくなさそうだしまたの時でいいや。」
煉がそう言うと、アリスはほんのわずか、口元を緩めたのであった。




