第96話 最初の試合
開会式も終わり、種目でサッカーを選んだ俺と海斗はそのままグラウンドに残るが、バスケを選択した風間と荒井は体育館の方へと姿を消して行った。
そして彩葉、友里、陽毬、早乙女、神楽の5人は友里と陽毬に関してはクラス自体違ったが皆で集合してから談笑しながら体育館の方へと向かって行った。
グラウンドに残った俺は遠目で周りのクラスメイトたちと話している海斗に視線を向けながら日陰に入り、涼み始める。
しかし俺のクラスの試合は思ったよりすぐにあるようで海斗が手を振りながら教えてくれて俺は仕方なくその場を立ち上がり今クラスメイトたちがいる場所へと向かった。
俺たちの最初の対戦相手は同学年である1年Aクラスのようで両クラスの全員が綺麗に整列する。
俺も皆に倣うように海斗の隣に並んで立つと、何故か目の前の生徒に思いっきりガンを飛ばされてしまう。
初対面でいきなり睨むとかなんなんだこいつは、と一瞬思ったが、よくよく見てみるとそいつは先月に彩葉に告白して振られたがその後もしつこく迫っていたヤツだ。
確か名前はうろ覚えでしかないが進藤だった気がする。
この試合の審判を担当する生徒が大きく声を上げると、この場にいる全員が目の前の人間と握手を交わす。
もちろんそれは俺も例外ではなくて、目の前の進藤が差し出してきた手を握る。
ここで断ったら悪い意味で目立ちそうなので俺に断るという選択肢はなく仕方なく握った。
進藤は俺の手を捕まえた瞬間、ギリギリという音が出そうなほど凄い握力で俺の手を握りしめる。
「痛ッ!!!」
俺は思わずそう言葉が出てしまい、隣にいた海斗がすぐ気づいて俺と進藤の手を引き離した。
「……チッ」
進藤は思ったよりも短い時間しか握りしめれなかったからか舌打ちをして自陣のコートへと入り自分のポジションに着く。
「いった……」
俺は赤くなった手を振りながらそう言うと、海斗が優しい微笑みを浮かべながらボソッと呟いた。
「……僕の友達に手を出した事どう後悔させてやろうか」
どうやら俺にしか聞こえなかったようだが、普段の海斗とは出した全く違うその声音に俺はビクッと体が反応してしまう。
もしかしたら普段は優しいけど海斗は怒らせてはいけないタイプの人間かもしれない。
「……あいつ俺のクラスに喧嘩売ってるのか?星宮を庇うわけじゃないけどクラスメイトが舐められているのは許せねえな。もう二度と調子乗らさねえようにしないと」
そして怖い人間がこっちにも1人。
彼の名前は佐藤千影。
こいつは俺の事嫌いな人間なはずのに何故か今回は敵に対して怒っている。
てかお前は俺の敵キャラじゃなかったんか……。
「勘違いするなよ、星宮。俺はお前の事嫌いだし、お前が七瀬さんと釣り合いが取れてるとは今も思っていない。でも俺はそれ以上に敵に舐められる事だけは許せねんだよ。たとえそれが俺の嫌いな人間であっても、クラスメイトならな」
……新手のツンデレなのだろうか?
佐藤は言いたい事だけ言ってから自分のポジションの場所へと向かって行った。
俺は1人でベンチに向かいどうせ出番ないだろうな、と思いながらベンチに腰を下ろす。
今日は俺のクラスは1人欠席をしており、本当は2人いるはずだったベンチメンバーが俺しかいない。
欠席した人間が少し羨ましく思う。
まぁ今更何を言ったって仕方ないので俺は後ろにもたれて試合を眺める事にした。
そしてそれから全員の準備が完了した事を確認した審判が手を挙げてピーッと笛を吹く。
こうして俺たちの第1試合は始まった。




