第88話 種目選択
彩葉にオーディションの結果を報告された翌日の金曜日。
終礼の時間に入り、あとは帰るだけだと思っていたら二宮先生が突然こんな事を言い始めた。
「先週テストも終わった事だし、6月に残る行事はあと1つ。言わなくても何か分かるな?」
この言葉に大勢の男子は目をキラキラと輝かせ始め、彩葉を始めとした陽キャ女子達もわくわくとした表情を表に出している。
それに対して俺みたいな陰キャは皆憂鬱そうな表情へと変わる。
クラスメイト全員の表情を一通り見回してから先生は口角を上げて言葉を発した。
「そうだ、ちょうど1週間後に迫った球技大会の各々の競技を決めたいと思う!」
先生の言葉にクラスの陽キャ達が一斉に立ち上がり「イェェェェェェェイ!!!!」という謎の歓声を上げている。
「一旦落ち着け、お前達。球技大会が楽しみなのは分かるが騒ぎすぎると怒られるのは私だからな」
流石は二宮先生である。すぐ保身に走っているところは流石としか言いようがない。
にしても球技大会とか憂鬱でしかない。
特段運動が苦手だというわけでもないが、俺はそもそも行事自体が嫌いだ。
出来ることなら欠席したいくらいである。
だけど欠席すると逆に悪目立ちする可能性がある為俺は当日は出席はするがあまり目立たないように適当に過ごそうと思う。願うならサッカーのベンチスタートとかなら理想だ。
そんな事を考えながら前を見ているといつの間にか競技の説明は終わったのか先生が前の黒板にスラスラと競技名を書いていく。
今年は男子はサッカーとバスケ、女子はバレーとドッジボールが種目としてあるようだ。
このクラスは男女それぞれ20人ずついるので、内訳はサッカーに13人、バスケに7人、バレーに8人、ドッジボールに12人となる。
幸いな事にサッカーにもバスケにもベンチ枠があるので俺はそのベンチ枠を狙いたいと思う。
どっちの種目もあまり経験した事はないが、まだサッカーの方が子供の頃に少しだけ遊びでやった事あるのでできればサッカーのベンチになる事を願う。
そしてこのクラスの学級員(名前は忘れた)の男女2人が前に立ち先生から引き継ぐ形で仕切り始める。
「それじゃあまず男子から種目を決めていきますね。自分のやりたい種目がある人は挙手してください」
学級委員の眼鏡男子、メガネくんがそう言葉を発すると「ハイハイハイハイ!」という形で皆が一斉に挙手をし始める。
今の状態なら手を挙げても目立たないだろうな、と考え俺もその波に乗るように手を挙げるのだった。
全ての種目決めが終わり俺は改めて黒板に書いてある種目の下に書かれた名前を見る。
俺は無事に希望通りサッカーを選ぶ事ができたが、他のメンツで知っている人間と言うと海斗くらいだ。風間と荒井は2人してバスケに行ってしまった為少し寂しく思う。
そして他のメンツはと言うと佐藤と同じチームというのが少し不安だ。佐藤といつもつるんでいる鈴木と田中はバスケに行ってくれてよかったと心の底から安堵している。
女子の方はと言うと、彩葉と早乙女さん、そして神楽さんの3人娘に三浦さんを加えた4人は全員ドッジボールに決まったようだ。
3人は同じ種目に決まった事が嬉しいのかハイタッチをして喜び合っている。
それからはそれぞれ種目ごとに分かれて話し合う時間が設けられた。
と言っても特段話す事などないのでどの種目も主に雑談をしているだけである。
俺たちサッカーのメンバーも各々友達同士と雑談して過ごしているが、ふと佐藤と目が合った。
と言っても目が合ったのは一瞬ですぐにちっと舌打ちされて目を逸らされてしまったが、もしかしたら佐藤も鈴木と田中がいないとぼっちなのかもしれない。
こういうところを見るとカースト上位の人間でも少しだけ親近感が湧く。
まぁとりあえずはそんな感じで時間は過ぎていき、俺たちはその後先生から解散の合図があり皆それぞれ下校したのだった。




