第8話 七瀬彩葉②
次の日俺は登校してからクラスで相変わらず目立っている様子の七瀬を見かけたので声をかけることにする。
「おい、七瀬」
俺がそう七瀬に声をかけるが、七瀬は知らんふりをしてどっかに行ってしまう。
まぁ仕方ない。次の機会にでも声かけるか。
そして休み時間に入り再度七瀬に声をかけるようとしてみる。
「おい、七……」
次は最後まで言わせてもらえず、七瀬はどっか行ってしまった。
これはもしかしなくても無視されてるな。
まぁアイツも映研に入ってるって事を友人達には言ってない様だし、陰キャの俺に話しかけてほしくないのかもしれない。
ただそれだけではないと思うのは俺の間違った推測だろうか?
どちらにせよ、また昼休みに声をかけてみればいい。
俺はそう楽観的に思っていたのだが、その日は結局昼休みも七瀬を捕まえる事はできず、気づいたら既に放課後になってしまっていた。
終礼も終わり俺は今日の最後のチャンスだと思い、七瀬の席に目をやるがもう既にそこには七瀬の姿はなかった。
七瀬がよく一緒にいる友人たちの姿も見えなかったので、おそらく終礼が終わると同時に一緒に帰ったのだろう。
俺は憂鬱な気分になり、1人で映研に向かう事にする。
そして映研の部室に足を踏み入れるが、いつもはある先輩の姿が見えない。
俺はたまには先輩も遅くなる事があるだろうと思い、1人で読書して待つ事にするが、いつまで経っても誰も来ない為流石におかしいと思ってレインを開く。
するとそこには先輩は急な私用、海斗は俳優業としての仕事がある為来れない旨が書かれていた。
どうやら読書に夢中でレインの通知音にすら気づいてなかったらしい。
俺は1人でここにいるのもなんだし、今日は帰路に着く事にした。
⭐︎⭐︎⭐︎
それから1週間が過ぎた今でも七瀬は映研の活動に参加してくれる様子は見せない。
毎度の様に俺は無視されるので、そもそも会話すら成立しない。
これは憂鬱にもなるというものだ。
先輩は基本的に部室にいるし、海斗も俳優の活動がない限りは基本的に部活に参加してくれているのであとは七瀬の問題をどうにかすればヘンゼルとグレーテルの撮影も開始できるんだけどな。
とりあえずすぐにでも七瀬をどうにか部活に参加させて映画撮影の協力をさせなければならない。
じゃなければ映研が廃部になり、俺が元天才子役だったという事を先輩に広められかねない。
それだけは阻止しなければ。
期限は約2週間だ。
元々4月7日から授業がスタートし、8日には全員が一度集まって短編映画の詳細を決めたけどそれ以来全員が集まれておらず全く映画の撮影が進まれていない。
何よりこの1週間を無駄に過ごしてしまい、今日はもう14日だ。
俺は七瀬の席の方に視線を向けるが、相変わらずそこには既に姿がなく帰宅した後のようだ。
レインを確認してみても先輩も海斗も今日は参加できないようで、必然的に活動は休みになる。
俺はどうするべきか、と頭を悩まされながら帰路に着く事にした。
最近ようやく慣れ始めた通学路を歩きながら俺は七瀬をやる気にさせる方法を考える。
正直今までに七瀬のような女子と関わった機会がない為あまり何も思いつかないのだが、七瀬が部活に入った理由というのが関連しているのかもしれない。
しかしだからと言って七瀬が部活に入った理由は皆目見当もつかないのだが。
そんな事を思いながら帰り道を歩いていると遠くから声が聞こえてきた。
「ちょ、離してよ!嫌だっつってんでしょ!」
女の子の声だ。言葉自体は強気だが、少し震えている気がする。
俺は状況が気になりその声の方へと急いで向かう。
するとそこには腕を掴まれた状態の七瀬がいた。
「いやー、あんな可愛い七瀬彩葉ちゃんがこんな強気な女だったとは驚きだなぁ」
「モデルとヤレる機会なんてそうないんだし無理やり連れていっちゃおうぜ」
「それ賛成!ヤベェ、早くヤリたくてウズウズしてきたわ」
いかにも不良って感じの格好をした男3人組に絡まれているようだ。
それに何より強姦を考えているようで聞いているだけでも気分が悪い。
七瀬も怯えた表情になってきているし、これは助けに入る必要があるかもな。
俺は顔をパンッと叩いてからスイッチを入れる。
そして眼鏡を外し、奴らの前に姿を現す。
「おいてめえら、俺の友達に何しやがってんだ?死にてえのか?」
精一杯の殺気を視線に込めてから相手を睨みつける。
「な、なんだよ、てめえ。何者だ?」
「何者?今そんな事重要じゃねえだろ。てめえらが俺の友達を怯えさせてるのが問題なんだろうが。ぶち殺されてえのか?ああ!?」
そう言葉を発してから1番近くにいた奴の顔の横に拳で空を切る。
勿論俺は今までに喧嘩などやった事ない。
だからこれはあくまで演技だ。
こういうチンピラは自分より強いと本能が判断した瞬間に怯えて尻込みをする。
実際、先頭の奴は恐怖に染まったような表情を浮かべながら尻餅をついている。
俺はそいつの事を上から見下ろしながら最後の一言を発する。
「もう二度と俺とこいつの前に現れるんじゃねえ。次姿現したら……分かってんな?」
奴らはコクコクと無言で頷き続ける。
今の俺は客観的に見たら相当怖いものなんだろう。
これが俺の演技だ。
役を演じようとすればすぐにその役にのめり込み、まさに取り憑かれたような演技をする。
故に過去は天才子役等言われたものだ。
「分かったならさっさと失せろ。てめえらの顔はもう二度と見たくねえ」
俺がそう言うと、チンピラ3人組は怯えるように「す、すみませんでした!!」とだけ口にして、足早にこの場を去っていく。
俺はチンピラ共の姿が見えなくなるのを確認してから七瀬の方を振り向く。
「大丈夫だったか?七瀬」
今度は先程までの殺気を全て消して七瀬に手を差し伸べる。
「あ、ありがと。星宮」
俺はそうして七瀬の手を取り立ち上がるのを手伝うのだった。