第85話 中学時代(前編)
俺は夢を見ていた。
まさしくそれは俺にとって悪夢と言っても過言ではない内容だった。
今日風間と言葉を交わした事で俺は思い出してしまったのかもしれない。
そう、それは中学時代の夢だった。
「ねぇ、星宮くん。今日、一緒に帰らない?」
俺は今下校の為か廊下を歩いており、後ろから突然声をかけられた。
この声をかけて来た少女の名前は相沢玲。見た目は比較的美人であり、誰にでもフレンドリーな性格から誰彼構わず好かれるような少女だった。
別に俺自身はこの少女の事を友人などとは思ってなく、ただ一方的にいつも絡まれているだけで最初の頃は煩い奴、という認識だった。
だけどいつの間にかこの少女と関わる時間は嫌いじゃなくなっていた。
「まぁ途中までなら……」
俺はいつも通り少女の方を向く事なく、ただいつもと同じ解答をする。
この頃は俺も髪の毛をセットしたり眼鏡をしてなかったりと、子役の頃と同じような格好をしていたせいか中学校でも少し目立っていて周りから視線を感じる事もたびたびあった。
しかしそんな視線を受けている事に気づきながらも彼女は気分を害した様子は見せず、ニコッと笑い、「うんっ」と頷いてから後をついてくる。
俺にとって彼女は俺の事を「元天才子役の星宮湊」ではなく、「ただの星宮湊」として見てくれていた数少ない人間でもあった為少し嬉しく感じていた。
だから俺は彼女と過ごす時間は嫌いじゃなかった。
その日も俺は彼女と帰りにゲーセン寄ったりクレープを食べたりして家へと帰った。
家では母さんが父さんの死をまだ引き摺っていたり、ルナが俺と口を聞いてくれなくなったりと家族としての絆が崩壊に近かったのもあり、それらを一瞬とは言え忘れさせてくれる相沢との時間を俺は大切にしていた。
それこそ嫌いじゃ……いや、ここは素直に好きだった、と言い直そう。
そう、好きだったのだ。相沢と言葉を交わす時間は。
ただそんなある日の事だった。
俺がいつも通り学校に登校し、教室に入ると虐められている女の子がいた。内容は主に机に落書きをしたり、本人の目の前で教科書類をビリビリに切り裂いたりなど悪質的なものだった。
理由はうろ覚えでしかないがその少女の見た目が可愛いから、とかいうしょうもない理由だった気がする。
俺にとっては関係ない事だし正直どうでもいい出来事だった。
実際、俺以外のクラスメイト達も関わりたくないという感情が表に出ていてそれを無視して談笑している。
虐めている側がこのクラスの女王的存在だったのが関係するかもしれない。
その少女は先生の前では優等生を演じており、先生がいないこの空間ではあのように暴君として振る舞っている。
このクラスにの男子と女子にあの少女に逆らえるほどキモが座っている人間はいなく皆が知らないふりをしていた。
誰だって我が身が1番大事に決まっている。
あの少女に目をつけられて中学生活を棒に振りたくはない。
俺もそんな1人だった。
しかし彼女、相沢玲だけは違った。
彼女はおそらく今までこのクラスで虐めがあったなんて知らなかったのだろう。だから教室に入って来た時の彼女の表情は驚愕と困惑で満ちていた。
だけど正義感を持っている彼女はいじめっ子である水瀬由衣に近づいてゆっくりと肩に手を置いた。
「それ以上はやめなよ、水瀬さん」
「はぁ?誰かと思えば相沢じゃん。何?あんた、こいつの友達なの?」
水瀬は自身が虐めている少女の机の上にどかっと腰を下ろしながら彼女の事を指で指し相沢を睨みつけるように見てくる。
「友達……ではないかもしれないけど、同じクラスメイトだし放ってはおけないよ」
「ふーん、たまにいるよね。あんたみたいに正義感持ってるヤツ。分かった、あんたの言う通りこいつに対しての虐めは今後一切行わない事は約束する」
彼女は意外にも素直に相沢と約束を交わした。
この時の彼女は今思い出しても気味悪いような笑顔を浮かべていた気がする。
しかし純粋な相沢は水瀬の事を何も疑っておらず、「ありがとう、水瀬さん」と朗らかに笑顔で返してから自分の席へと座った。
それから間も無くして先生が教室に入って来て、虐められていた少女の机を見るや否やどうしたのか問うたが、このクラスに本当の事を話す者はおらず結局は先生が新しい机を用意してくれてその日は事なきを得た。
相沢もあまり大事にしようとは思っていないのか、本音を話そうとはしなかった。
そうしてその日は特に他に何か起きるわけでもなく比較的普段と変わらない日常を過ごす事になった。
そして事件が起きたのは次の日からだった。
俺がいつも通り学校に登校するとクラスメイト達が普段とは違う雰囲気を出しており、理由を探る為にあたりを見回してみるとすぐに理由が判明した。
そう、相沢の机や椅子に落書き等が施されていたのだ。
つまるところクラスの女王の標的が昨日の虐められっ子から相沢へと変わったのだった。




