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元天才子役だった俺は平穏な高校生活を謳歌したい  作者: 86
第2章

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第84話 勘違い

 映研の皆が母さんやルナと交流する時間も終わり、全員が各自好きなところに座る。


 と言うのも、テーブルには椅子が4つしかないのでそこには母さんとルナ、そして二宮先生と部長である聖先輩が着席した。


 そしてテレビの前の空いてるスペースに母さんが家の奥に仕舞ってあった少し大きめのテーブルを取り出してくれたのでそれの周りに1年生部員の全員が座る事になった。


 ちなみに母さんがテーブル出すのを手伝ってくれたのは二宮先生と荒井だったようでとても有り難かった。


 まぁとりあえずそんな感じで全員が座ってから母さんが切り分けたケーキを各々自分の前に置く。


 母さんが用意したケーキだけでは全員分足りなかったが、先ほど二宮先生が近くのケーキ屋に行きもう1つケーキを購入してくれたおかげで無事全員にケーキが行き渡った。


 それからすぐに母さんが「早速みんなでいただきましょ」と声を上げ、皆口々に俺に誕生日おめでとう、と伝えてからケーキを口にする。


 俺も自分の分のケーキをフォークで一口分にカットし、それを口に放り込む。


 クリームの濃厚な甘さとスポンジのふわふわな感触が口の中全体に広がり幸福感で満たされる。


 俺は幸せでいっぱいになりながらケーキを食べ進めてると気づいた時にはいつの間にかケーキが皿の中から消えていた。


 美味しさのあまりすぐに食べ終わってしまったようだ。


 その事を残念に思いながら皿の中心を見つめていると左隣に座っていた風間にチョンチョンと肩を叩かた。て


 俺はその事に不思議に思いそちらを振り向くと耳に口を寄せられて耳打ちされる。


「あのさ星宮、星宮の部屋行ったりしてもいい?」


 俺はその言葉に何故耳打ちなんだ?と少し疑問に思ったが別に拒否する理由もないのでコクッと頷いてから承諾の意思を見せる。


 風間はその様子に満足したような表情をしてからその場で立ち上がる。


 俺も同じように立ち上がり「こっちだ」と声を発して風間を自室へと案内した。


 階段を上がり自室に入って風間が最初にした事はなんと大人の本探しだった。


 これは確かに女子の前では口を大にして言えない事なので耳打ちして来た理由もわかる。


 俺は別にそういう系の本を一冊も持っていないので安心して見ていられるが、いつも比較的クールで女子人気も高い風間がこういう事をしているのを見ると自然と呆れた視線になる。


「……なぁ風間、いつまで探してんだ?俺の部屋にそういう本はないぞ」


「どうせそんな事言ってベットの下とかにあるんだろ?」


 そう言ってベットの下を覗き込む風間。失礼なやつである。いつものクールな雰囲気はどこに行ったのだろうか。


 しばらくして探すのを諦めてくれたのか風間は俺の部屋の地面に座り込む。


 俺もいつまでも立ち続けているのもなんなのでベッドに腰をかけて風間と視線を合わせる。


「あー実はさ星宮、俺が部屋に案内して欲しいっていったのは2人きりで話したくてさ」


 ようやく本題を切り出してくれるのか風間は普段より真面目な顔を作って口を開いた。


 俺も風間の真面目な表情に釣られて思わず真剣な顔になってしまう。


「……それで風間は何を話したかったんだ?」


「まぁ今言うタイミングではないかもしれないけど、なんでクラスでは映研のメンツと関わらないんだろうって思ってな。まぁ星宮が目立つ事を気にしてるってのは知ってるけど、なんか俺的にはそれが納得できなくてさ」


 俺はまさかそんな所を突っ込まれるとは思わず少し驚きはするが、いずれは誰かに聞かれる事ではあった為用意していた答えをそのまま口に出す。


「まぁそれは俺が人付き合い苦手だから、かな。目立つグループとつるむと自然とクラス中の目線が集まるだろ?その視線が俺には耐えられない。それだけの事だ」


「……ふーん、ダウトだね」


 風間は一応理由を最後まで聞いてくれ、その上で俺に対してダウト、つまり俺の言葉を嘘だと完全に正面から否定して来た。


「……何がダウトなんだ?」


「全てだよ。星宮は人付き合い自体は苦手にしていない。実際昔の子役時代は遠目に見ていただけだけど、逆に君は積極的に皆に関わってたくらいだからね」


「……それは昔の事だろ?もう何年経っていると思うんだ?性格くらい変わる」


「じゃあそうだとしよう。なら他には君の他人の視線が集まるのを嫌うっていうのが嘘臭いよね。実際君は映研では演技しているしさ。普通はカメラで撮られる方が嫌だと思うけど?」


「……それは俺が有名人だったからその事をバレたくなくて視線を集めたくないだけだ。てかさっきからなんなんだ?結局何が言いたい?」


 今日の風間は少しおかしい。


 俺は徐々に風間に対してイライラが募っていき向ける目線がキツくなっていくのが自分でも分かる。


 しかし風間はそれを気づいているのかどうかは分からないがあまり気にせずようやく本音を曝け出す。


「……俺が言いたい事はさ、つまり、星宮は彩葉のことが好き、なんだろ?」


「……は?」


 風間の唐突な意味が分からない言葉に俺は素っ頓狂な声が出てしまう。


 こいつはさっきまで推理じみた事をしていたが、最後の最後の答えは変な方向へと導き出した。


 案外こいつも賢く見えてアホなのかもしれない。


「俺が彩葉を好き?」


「ああ、普段から見ていれば分かる。教室で彩葉に話しかけるのを緊張していた事くらいな」


「別にそんな事はないが……」


「別に隠す必要ねえのに。なんなら上手くいくように手伝ってやろうか?」


 そう協力を申し出てくれる風間だったが俺は別に彩葉に対して友人以上の好意を抱いていないので首を振って否定する。


 それにしても俺は一瞬風間に中学時代の事がバレたのかと思い危機感を覚えてしまった。


 あの事がバレれば、皆軽蔑するかもしれない。


 今のこの環境を気に入っているので絶対にあの事がバレてはいけないのだ。


 風間はいまだに変な勘違い推理を披露してくれているが、俺は華麗にそれをスルーし続ける。


 それからしばらくして聖先輩が「皆でゲームやるから2人とも降りて来て」と声をかけてくれたので俺たちは2人揃って階段を降りる事にした。


 その際に風間は「俺もできるだけ後押し手伝うからな」と俺に耳打ちをして来たので、こいつの誤解はいつか絶対に解かないといけないな、と思うのだった。


 それからはルナも入れて皆で夜遅くまで遊び尽くし、22時を過ぎたあたりで解散となった。


 夜も遅いので母さんと二宮先生が二手に分かれて全員を家まで送り届けてくれるようだ。


 二宮先生の車はまだ学校に置いてあるので二宮先生の車に乗って帰る人たちは一度学校に寄る必要がある。


 俺は玄関で皆と別れてから自室へと戻り今日の出来事を思い出す。


 こんなに大勢に祝ってもらえたのは初めての体験で嬉しかった。


 しかし途中風間に俺の中学時代の事がバレたかと思って珍しく取り乱してしまった。


 俺はいつか皆に自分の過去を打ち明ける事ができるのだろうか?


 まぁ今考えても仕方がない事なので俺は考えるのをやめにしてその後風呂に入ってから布団に潜る事にした。

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