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元天才子役だった俺は平穏な高校生活を謳歌したい  作者: 86
第2章

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第82話 6月20日

 月曜日のテスト返しの日から1日跨いだ水曜日。


 朝起きて欠伸をしながらリビングに顔を出すと何やら母さんとルナがニヤニヤした表情でこちらを見てきた。


「お兄ちゃんおはよ!今日の夜、楽しみにしててね!」


「湊くん、おはよう。今日はお友達も全然連れてきていいわよ」


 2人のその言葉の意味が分からず俺は首を傾げるが2人はそんな俺の様子を面白がってか答えを教えてくれない。


 気持ち的にモヤモヤするのが晴れないが、俺は2人の事を気にしないことにして母さんが用意してくれた朝食を摂りすぐ支度をして学校へと向かう事にする。


 学校に到着し、教室に入ると既に半分くらいは登校しており皆教室で談笑していた。


 その中には映研でお馴染みの海斗、風間、荒井の所謂天童グループの3人もいて3人とも俺の存在を認識するとチラッと視線だけ寄越してからまた自分たちの会話へと戻っていく。


 俺からお願いした事とは言え放課後仲良いメンツが教室では俺の事を無視してくるというのは少し堪える物がある。


 俺はこればかりは仕方ないな、と思い鞄から今日使う教科書類や筆箱を引き出しに片付けてから自分の席に着席し時間までスマホを触って過ごす事にする。


 するとどこからか視線を感じた気がして顔を上げると思いっきり風間と目が合った。


 目が合った風間は俺の方を向きながら何故かニヤァと笑みを浮かべてから再度海斗と荒井の会話に混ざりにいく。


 あの笑顔には少しだけだが今朝の母さんとルナのにやけ顔に通じるものがある気がした。


 きっと気のせいだろう、と思い込む事にして俺は先生が来るまでの短い時間スマホを触りながら過ごしたのだった。


 今日も特に普段と変わる事なく日中を過ごしてから放課後に突入した。


 いつも通り部室へ行くと聖先輩だけ先にいて今日は二宮先生はまだ来ていないようだった。


 俺は聖先輩に「こんちは」と挨拶してから適当な席に座ってスマホのオープンワールドRPGであるEMにログインする。


 つい先日このゲームにアフロディーテという赤い長髪が特徴的な美女がガチャに登場して試しに引いてみたところなんと10連で当てる事に成功したのだ。


 役割としては基本的に火属性のヒーラーだが、仲間にバフを掛ける事もでき、現環境トップレベルで使われる万能サポーターである。


 何よりキャラビジュが俺にとってストライクもいいところなので当ててからは探索がさらに楽しくなった。


 俺がそんなアフロディーテを使いながら楽しくマップを探索していると彩葉たち映研の3人娘がやってきて俺を取り囲むように座る。


 正確には彩葉が迷わずに俺の右隣に座り、それを見た陽毬が左隣、友里が目の前に座ったという感じだ。


 これは最近ではいつもの光景なのでもうあまり気にならない。


 俺は3人娘にじーっと視線を注がれるがそんな事は気にせずEMのマップに散らばっている宝箱を次々と開けていく。


 そしてそれから10分経った頃にようやく海斗たち3人が部室に入ってきた。


 俺は部室に入ってきたばかりの3人にチラッと視線を向けてから今日二宮先生遅いな、と少し思ったが今気にしても仕方ないのですぐにスマホの画面へと視線を戻す。


 すると風間がそんな俺の肩をトントンと叩いてから取っ手のついた紙袋を差し出してきた。


「ハッピーバースデー、星宮」


 風間がそう言葉を発すると同時に部室内の時間が凍った気がする。


「あーそう言えば今日俺の誕生日か。ありがとな、風間」


 そうお礼を言ってから紙袋を受け取り中を確認すると、そこには綺麗に折りたたまれたお洒落そうな服が3枚入っていた。


 実に陽キャっぽいプレゼントである。


 有り難く使わせてもらう事にしよう。


「そう言えばなんで俺の誕生日が今日って知ってたんだ?」


「いやー実はさ、最初は星宮ってレインで誕生日設定していないからいつ誕生日か分からなかったんだよね。それで昔子役やってたならって思いネットで調べてみたところ6月20日が誕生日だって事をつい1週間前くらいに知って、この土日で急いでプレゼント買いに行ったって感じ」


 なるほどな、確かにネットで探せば俺の誕生日くらい簡単に見つかるだろう。


 それにしても今朝の母さんとルナの様子がおかしかったのは俺の誕生日だからか、とようやく納得する事ができた。


 それにしても自分の誕生日を忘れているとか俺は結構アホなのかもしれない。


 そんな馬鹿な事を考えていると右隣に座っていた彩葉が急にガタッと音を立てて立ち上がり俺の肩を思いっきり掴んできた。


「湊!あたし湊の誕生日今日って聞いてないんだけど!?」


「まぁ聞かれなかったしな」


「言ってくれれば誕プレ準備したのに……」


「わざわざ自分の誕生日を言いふらすわけないだろ。それに誕プレなんかなくても全然構わないし」


「あたしが誕プレあげたいの!今週中には用意するから待ってて!」


 そう言ってネットで何やら調べ始める彩葉。


 あまり誕プレ用意できなかった事を気にする必要はないのに、とは思う。


 実際のところ皆の様子見るに風間以外は俺の誕生日知らなかったみたいだしな。


 まぁ伝えてない俺も悪かったか、と思い直して聖先輩にいつも通り声をかける。


「それで聖先輩、今日は何します?今月は撮影ないですし、昨日一昨日みたく皆で遊びます?」


「あ、え、いや、ちょっと待って。湊くん今日誕生日、なんだよね?」


 おっと、まさか先輩にもそこのところを突っ込まれるとは思っていなかった。


 俺が何か言おうとして口を開けた瞬間、勢いよく前方の扉が開き二宮先生が入室してくる。


「星宮!誕生日プレゼントだ!今車まで取りに行ってたから少し時間かかったが有り難く受け取れ!お前は私にとって可愛い生徒だからな。誕プレくらい用意してやる」


 そう言って小さめの袋ごと無造作に投げ渡してきた二宮先生。


 俺が袋を開けて中を確認するとそこにはシャーペンやら消しゴムやらの文房具類が大量に詰め込んであった。


 先生らしいと言えば先生らしいプレゼントであり、俺は素直に礼を言って受け取る。


 この短いやり取りを他の映研部員(風間以外)は皆呆然と眺めている。


「ま、まさかメイちゃんも誕プレ用意してたなんて……」


 彩葉に至っては何やらショックを受けたようで顔色が真っ青である。


 別に誕プレの事なんて気にしなくていいのにその辺を気にするあたり彩葉も結構律儀な方だと思う。


「湊、僕も来週までには誕プレ用意するから楽しみにしててね」


「星宮!俺も来週誕プレ持ってくるからな!」


 海斗と荒井の男子メンバーはどうやら来週誕プレを渡してくれるようだ。


 その後女子メンバーも全員来週誕生日プレゼントを持ってくるということを約束してくれて、逆に俺が申し訳なくなった。


 まるで俺が誕プレを要求しているように見えるこの絵面だけはどうにかしてほしいと思う。


 そんな事を考えながら隣を見るといまだに彩葉が一生懸命スマホで誕プレを探していて、俺はどう声をかければいいだろうか、と悩んでいたらスマホから音が鳴り開いてみると母からレインが来た事に気づく。


 もちろんその内容は今日は家で誕生日会するから早く帰っておいで、というものだった。


 今朝、確か母は友人も誘っていいと言っていた為俺はこれだ、と思い声を発する事にした。


「あー彩葉、この後うち来るか?」


 その言葉に部室内はシーンと静まり返り、彩葉もスマホを触る手が止まり、どこかぎこちない様子でこちらを振り向く。


「……え、今なんて?」


「いや、この後俺の家来ないか?って思ってな」


 そう改めて言うと彩葉の顔はプシューという音と共に顔中が赤く火照ってから彩葉らしからぬ「……はい」という返事が返ってきたのだった。


 俺はなんで彩葉の顔が赤く染まったのかあまり分からないまま何気に女子を家に呼ぶのは初めてかもしれないな、と思ったのだった。

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