第79話 オーディション会場
楽しかった打ち上げ会から1日空いてあたしのオーディションの日がやってきた。
今立っている場所はオーディション会場の建物の前。
あたしが受けるドラマの名前は『それでも君に恋をする』。略して『それ恋』。
漫画が原作で主人公とヒロインの恋愛ドラマだ。
オーディションで受ける役の名前は桜井美月。ヒロインの友人役だ。
前に湊が自分の指導を受ければ楽に合格するレベルになると言っていたがやはりオーディション前になると少し不安が募っている。
あたしはこの1ヶ月間ずっと湊に放課後みっちりとしごかれてきた。
湊の弟子としてせめて恥ずかしくないくらいには演技をしてみせよう、そう心に決めてあたしは建物の中へと足を踏み入れたのだった。
建物の中へ入り、受付を済ませて番号札を貰うとその後控え室まで案内される。
控え室の中に入るとそこには約20人くらいが座っており台本を読んでいる人、ヘッドホンで音楽を聴いてる人、スマホを触っている人と様々だった。
オーディションを受けたい人間は数千人いるが、そのほとんどは書類選考によって落とされる。
よって今ここの控え室にいる20人は全員、相当高い倍率であると言われている書類選考を通ってきた猛者たちだとも言える。
あたしは開始時間まで少し時間あるので近くの椅子に座り台本を開き最後の復習をしておく。
すると隣に座っていた女の子に突然声をかけられた。
「えっと、もしかしてスタプロの七瀬彩葉ちゃん?」
「あたしの事知ってるんだ!ありがと!!」
あたしはまだ少し台本読み込んでいたいとも思ったがここらで印象悪く対応するとそれがネットに晒されてあたしのモデルとしての人気にも響いてしまうのであたしはそれはもうにっこりとした笑顔で彼女に対応する。
「もちろんだよ!彩葉ちゃん、私のクラスでも人気だし!私自身まだ駆け出しの女優だし、彩葉ちゃんには憧れも少しあるんだよね。あ、そう言えば自己紹介まだだったね。私は明星プロダクション所属の女優で桐谷莉乃。まだ芸歴は全然浅いけどよろしくお願いします」
そう言って綺麗にお辞儀をする莉乃ちゃん。
あたしもそれに対して軽くお辞儀をして返した。
「あ、ご丁寧にどうも。それにしても明星って確か今回ヒロイン役をやる麗華ちゃんと同じ、だよね?」
あたしは彼女の自己紹介の中で聞き覚えのある名前が出てきたので聞いてみる。
「まあね。と言っても私たちみたいな底辺女優は全く言葉を交わしたこともないんだけど……なんなら姿すら見たことないし、本当に同じ事務所なのか疑わしいくらい」
そう笑いながら言う彼女。
どうやら麗華ちゃんは事務所が同じ人間からしても雲の上の存在のようだ。
あたしは結局その後も開始時間まで莉乃ちゃんと話し込んでしまい、台本を読んで復習する事ができなかったが、緊張はいい感じに逸れたのでよしとしよう。
開始時間になりスタッフの人が控え室に入ってくる。
周りを見渡すとあたしが来た時より倍近い人数、約40人くらいで控え室がいつの間にか埋め尽くされていた。
スタッフの人が一度全員を見渡してから口を開いた。
「それでは今から5人番号を呼ぶので呼ばれた番号の人は別室に移動しオーディションを受けていただきます。今呼ばれなかった人たちはいつでも移動可能なように準備しといてください。それではまず1番から5番の人、私についできてください」
スタッフの人がそう声をかけるとあたしよりも前からずっといた人たちが5人立ち上がり、スタッフの人の後についてこの部屋を出て行った。
あたしはいよいよオーディション始まるんだ、といつ実感が湧いてきて少しだけ緊張が伴う。
隣を見てみるとさっきまで一緒に喋っていた莉乃ちゃんも顔に緊張が出ていて先ほどまでとは雰囲気が変わり台本を読み耽っている。
あたしもそれを真似して台本を読み始めたが、最初の組が出て行ってからすぐに先程とは違う別のスタッフが次の6番から10番を呼びにやってきて更に緊張が高まる。
おそらく二部屋でオーディションをしているのだろう。
あたしは深呼吸して落ち着きながらその時を待つ。
そして最初の組が出て行ってから15分ほど経った頃、ようやくあたしの番号も呼ばれた。
「それでは16番から20番の人はついてきてください」
あたしの番号は19番。ちなみに莉乃ちゃんはあたしの1つ前に呼ばれており既にこの教室から姿を消している。
あたしは一度冷静に深呼吸してから立ち上がりスタッフの人の指示に従って後をついていくのだった。




