第69話 不運
目的のショッピングモールに到着した俺たちはまず近くの洋服を売っている店に入る。
どうやら彩葉が服を見たかったみたいで俺もそれに付き従っているというわけだ。
中学の頃まではまだ俺もお洒落する事を気にしていたが、今ではどちらかというと地味な格好を意識している為最近は新しい服を購入していない。
彩葉が色んな種類の服を物色しているのを側で見ていると俺はある事に気づく。
「今日の彩葉、綺麗だな」
突然の事に彩葉は最初言葉を理解できていなかったようで「え?」とだけ発してからその後にポンッと頬を赤くしていく。
今日の彩葉は制服の時とは違い上は少しだけ胸元が開かれた白いトップスに下は裾の短い青色のズボンを履いていた。
その衣装は彩葉の良さを強調しているギャルっぽい服装だ。
「……あ、ありがと」
彩葉はまだ少し頬が赤いままお礼を言ってくるが、俺の全身を見回してからスンッと真顔になりそして気づいた時にはジト目へと変わっていた。
「そんな顔してどうした?」
俺は彩葉の顔の変化に疑問を抱き聞いてみるが、彩葉は浅くため息をついてから言葉を発した。
「湊って地味だよね。絶対バイト行った格好と同じまんまでしょ」
そう言われて俺は見た目を気にしてこなかった事から冷や汗が流れる。
「……いやまぁ着替える時間なくて」
適当な言い訳をしてみるが彩葉には見透かれていそうだ。
「ふーん、別にいいけどなんかムカつく」
「なんでだ?」
「……あたしだけ張り切って馬鹿みたいじゃん」
少し小声だったが俺にはその声がちゃんと聞こえたので、彩葉に顔を近づけてフォローしておく。
「……俺が子役だった事知ってるだろ?いまだに素顔見られるとバレる時があるからな。あまり目立つ格好はしたくないんだ」
そう言うと彩葉は少し納得したような表情へと変わり、今度は張り切り出した。
「あーなるほど。んーじゃああたしだけに湊の格好いい姿見せてよ!」
彩葉の言葉に俺は首を傾げて聞き返す。
「……というと?」
それに対して彩葉は近くのメンズの服を手に持って、にこやかに答えた。
「試着に決まってるじゃん!」
そうして俺は彩葉に言われる通りの服装を何着も試着室で着る羽目になったのだった。
最初はストリートファッションから始まり、アメカジ、ロック、サーフ等様々な服装を着せられその度に写真を何枚も撮られた。
結局何も買う事はなかったが、彩葉が満足した表情になっているので良かった事だろう。
「あ、待ち受けにしちゃお」
突然彩葉が変な事を言い始めたので俺はそれにストップをかける。
「……それだけはやめてくれ」
こうして次はどこ行こうって目的もなく彷徨い始めた時に出会いたくないヤツに出会ってしまった。
「お前、星宮だよな?何で休日に七瀬さんと2人でいるんだよ?」
佐藤である。
後ろには毎度お馴染みの鈴木と田中がアイスクリームを食べながら突っ立っている。
佐藤の面倒なのとこは彩葉は気づいていないがおそらく彩葉に好意を持っていると予想できるところだ。
正直俺は他人の色恋なんてどうでもいいので、さっさと告って玉砕してくれとも思っている。
こいつらの相手をするの面倒だが、クラスの男子の中でNo.2のこいつらを無視すると月曜からが大変なので適当に誤魔化す事にする。
「たまたまそこで会って話していただけなので、気にしなくても大丈夫ですよ」
見よ!俺の完璧なスマイルを!
……まぁ佐藤には何も効いてなさそうだったが。
俺はチラッと横を見ると少しずつ不機嫌になっていってる彩葉の様子が視界の端に映る。
今の佐藤はそんな事にも気づいてないようで俺の事を睨みつけてくる。
この様子だと俺がこの場を去らない限りは佐藤も居座り続ける事だろう。
多少面倒だと思いながらも俺は一旦この場を去ることにする。
「じゃあ先に失礼します」
そう告げてから佐藤の横を通り過ぎると、「あまり調子乗んなよ?」って声が耳に入ってきて陽キャって怖いな、と思った。
彩葉はこの前と同じくまた寂しそうな表情をしていたが、俺にはこうする事しかできないので許して欲しい。
それからは近くのエスカレーターを使い2階に上がり、1階の佐藤たちと彩葉の4人を上から見下ろす。
彩葉は俺の方に気づいたが、それ以外の3人はすっかり俺は帰ったものだと信じ切っていて彩葉に何か話しかけている。
声は聞こえないが多分俺の悪口とかなんだろうな。
彩葉の表情がみるみる不機嫌に変わってくのがこの距離でも分かるが、佐藤にはそれが分からないのだろうか?
少ししてから佐藤は満足したのか他の2人を連れて姿を消していった。
それを見届けてから俺はまた1階に降りて彩葉に声をかける。
「悪かったな、彩葉」
俺は先程の事について謝罪するが彩葉はそれだけでは納得してくれないみたいだ。
「……この前も思ったんだけどさ。何で湊はあの3人から逃げるの?」
その問いに対して俺は一呼吸置いてから答える。
「……クラスでカースト上位の人間を敵に回したくないだけだ」
「それなら自分で言うのもなんだけどあたしや海斗だって上位じゃん?相談してくれればいいのに……」
「俺はまず前提として平穏な高校生活を送りたい。その為にはカースト上位の人間の助けなんかは必要ない。カースト上位の人間が関わると変に目立ってしまうからな。あの程度の人間に馬鹿にされても俺は何とも思わないから彩葉が気に病む事ではないだろ?ここで時間を無駄にしてるのもなんだし、ゲーセンでも行くか?」
俺は彩葉が余計な事を考えないように明るく振る舞ったが、彩葉の中では予想以上に大きい問題だったようで顔を暗くしながら呟く。
「……湊は凄いね」
俺はその言葉をスルーして気を紛らわすという意味も込めてゲームセンターの方向へと向かう。
彩葉は先刻までの明るい様子は見せなかったが、俺の後は離れる事なくちゃんとと付いてきていた。




