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第6話 映研始動

「それじゃ早速だけど今月中に作る短編映画の話し合いに移ろっか。主にやる事は話の内容決めとそれぞれの役決めかな。皆好きなように意見言ってね」


 先輩は俺たちの事を見回しながらそう言うが、突然そう言われても何も意見は出てこない。


 しばらく経っても誰も何も言わないので、先輩も少しずつ困った様な表情へと変化していく。


 しかしそんな先輩を見兼ねてか、海斗が話し合いをしやすくなる様に最初の意見を出す。


「えっと、それじゃあ昔話とかどうですか?先輩。例を挙げるなら桃太郎や浦島太郎などです。これらだったら役もそんなに多くないですし、みんな演じやすいと思うのでどうでしょうか?」


 海斗がそう言い終えると先輩の表情は元に戻って相槌を打つ。


「いいね、昔話!桃太郎も浦島太郎も皆知ってるし結構良さそうじゃない?他の2人はどう思う?」


 先輩がそう言って俺と七瀬を見回すが、相変わらず七瀬はこっちの話し合いに興味ないのかスマホ触ったまま何の反応も示さない。


 教室では人気者のイメージがあったがこれが本性なのかもしれない。


 女って怖い。


 俺は先輩の視線を受けて海斗に付け加える形で意見を言う。


「……俺も昔話にするって言うのには賛成です。ただ桃太郎だと最低でも桃太郎、お爺さん、お婆さん、雉、犬、猿、鬼の7役必要なので今の映研の人数だと厳しいと思います。浦島太郎の場合は、浦島太郎、亀、いじめっ子、乙姫と役自体はそう多くないですが、小物を作る必要があるのでこの数日間で作るってのには不向きだと思います」


 俺はそう一息で話し終えると2人とも少し驚いた様な表情で見てくる。


「へぇ、流石湊くん!目の付け所がいいね!それじゃあ湊くん的にはどれがオススメとかある?」


「確かに湊の言う通りだね。それじゃあ今度は湊の案を聞いてみてもいいかな?」


 俺はそう2人に聞かれて少し考えたのちに口を開く。


「例えばですけど、ヘンゼルとグレーテルとかどうですか?継母と魔女は兼任すれば良いので、実質ヘンゼル、グレーテル、継母兼魔女の3人でできますし、お菓子の家も今回は無くして、単純に魔女がヘンゼルとグレーテルを太らせて食べようとしているって言う内容に変えれば良いと思います。特に準備する物はないですし、物足りないかもしれないですが、今回の目的は短編映画を作る事なので、この程度やれば大丈夫だと思います」


 俺の話を静かに聞いていた2人はうんうんと頷きながら、俺に向けてサムズアップしてくる。


「私は湊くんの意見に賛成!ヘンゼルとグレーテルにしようよ!」


「僕も特に反対する理由はないかな。ヘンゼルとグレーテルでいいと思うよ」


 2人に賛成してもらい俺はは少し安心する。


「それじゃあ次は役決めよっか。主な役はヘンゼルとグレーテルと継母兼魔女だけど、誰がどれやる?ちなみに私は裏方専門なので役は3人に任せます!」


 聖先輩は自分が演者をやる気は本当にない様で勝手に話し合いからフェードアウトして行く。


 そんな先輩を見てから俺は元々ヘンゼルとグレーテルのタイトルを出した時には決めていたそれぞれに合った役を言う。


「まずヘンゼル役は勿論海斗に任せる。いいな?」


「分かったよ。練習に参加できない時もあるかもしれないけど台本貰ったらプライベートでも練習しとくね」


 流石は海斗だ。


 話が早い男は好感持てる。


 元々海斗は反対するとは思っていなかったので問題は次だ。


「それでグレーテル役は七瀬に任せたいんだが……いいか?」


 俺は少し緊張した面持ちで七瀬に問いかける。


 するとずっとスマホに夢中だった七瀬がようやく顔を上げたかと思うとめちゃくちゃ嫌そうな顔で文句を言い出す。


「はぁ?あたし嫌なんだけど。あたしはその3役の中なら脇役の継母と魔女の役がいい」


 やっぱりダメだったか……。


 ただ意外に思ったのが俺は最初短編映画に出演する事自体に文句言われるのかと思っていた。


 しかし実際は彼女は出演自体は問題なく、グレーテルを演じる事が嫌だと来た。


 あまり突っ込んだ事を聞くことはできないが、彼女は現役美少女モデルであり、普段から目立つ事が好きそうなのに目立つ役を避けると言うのには何か理由でもあるのだろうか?


 俺がそう頭を悩ましていると先輩がここで口を挟んでくる。


「七瀬ちゃんはそれでいいの?自分を変えたくて私の勧誘受けたんじゃないの?今回は人数も少ないし見る人も少ないから挑戦だと思って気楽にやろうよ!」


 俺は先輩が何を言っているのか分からなかったが、七瀬には少し響いている様で少し悩んだ末応えてくれた。


「……分かった。グレーテル役引き受けるけどガッカリしないでよ」


 七瀬のその言葉に俺も海斗も首を傾げながら疑問を浮かべるが、とりあえず今は七瀬が役を引き受けた事を素直に喜ぶとしよう。


「それじゃあ継母兼魔女役は俺がやるという事でいいですか?」


 俺が最後にそう言って今回の話を締め括ろうとすると全員が変な目で見てきた。


「え、君がやるの?」


「……凄いね、湊は」


 先輩と海斗の2人には何故か驚かれて、七瀬は無言でこっちをじーって見てくる。


 俺は理由が分からなくて、「逆に俺以外いなくないっすか?」と言ったのだが3人とも呆れた様な顔をし出す。


「いや、うーん。確かにそうなんだけど……」


「ははは、湊って顔いいし女装も似合いそうだよね」


「……まぁ好きにすれば?」


 三者三様の反応を受けてまたもや俺は疑問を頭に抱きながら初日の話し合いを終えた。


 確かに男が女役、それも年配の女性の役をやる事は少ないかもしれないが演技の世界だと普通じゃないのか?


 俺は皆の反応に納得が行かず、モヤモヤした感情のままその日は学校を後にするのだった。

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