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第66話 面倒事

 放課後に入り、教室から徐々にクラスメイトたちが退出していく。


 俺は今日も部室で勉強会あった事を思い出し、鞄に教科書類を全て詰め込んでから教室を出る。


 いつもの部室に行く為に使う階段までの廊下を歩いていると、後ろから人の気配がしたので振り向く。


 するとそこには珍しく俺と同じ時間に教室を出たのか彩葉が立っていた。


「今日は友達はいいのか?」


 俺は素直に疑問に思った事を問うと彩葉は少し歯切れの悪そうな顔をしながら「……うん」と頷いてから俯く。


 その下に向けられた表情からはいつもの明るい様子は感じられなくどこか悲しそうな顔をしている。


「どうしたんだ?彩葉」


 俺は流石にその様子の彩葉を放っておく事ができず、とりあえず何か悩んでるなら相談して欲しいと言う意味も込めてそう聞いてみる。


「……別に何でもない」


 少しだけ口を尖らせて俺の方を一瞥し、そう応える彩葉にはますます疑問が増すばかりだ。


 「……それならいいけど」


 俺はこれ以上は追求できないと思い、一旦話を終わらせてから前を向き直る。


 そして再度廊下を歩き出したら、今度は納得いかないような顔をした彩葉が不服げに俺のことを睨んできた。


「……湊にとってあたしって恋愛対象じゃないんだね」


 彩葉が突然発したその言葉に俺は一瞬ポカンとしたがすぐに昼休みの俺と佐藤たちの会話について言っているのだと気づく。


「あぁ、それがどうした?」


 俺は彩葉が何を言いたいのかイマイチ分からず、そう聞き返す。


 すると彩葉は少しむっとした表情に変わり心なしか口調も強くなる。


「どうした?じゃないでしょ!別にあんなキッパリ否定する事なかったじゃん!」


 彩葉はそう声を荒げながら詰め寄ってくる。


「それは悪かった。すまない」


 彩葉が何故ここまで怒るのかは相変わらず理解できないが、おそらく俺が悪いのでここは謝罪しておこう。


 俺の謝罪を聞いて一旦落ち着いたのか彩葉はすぐに冷静さを取り戻す。


「あたしも声を荒げてごめん。それで本当にあたしは恋愛対象じゃないわけ?」


「恋愛対象か否かで言うなら余裕で恋愛対象に入るな。彩葉みたいな可愛い女子を恋愛対象として見ない男はいないだろ」


「え、か、可愛い?ってそうじゃなくて、じゃあ何であんなキッパリ否定したわけ?」


 俺の言葉に彩葉は頬を赤く染めながら照れ始めたが、すぐに正気を取り戻して俺の否定した理由を聞いてくる。


「佐藤たち3人はうちのクラスでも海斗たち3人の次くらいにはカースト高いだろ?俺ができるだけ平穏な学生生活を手に入れる為にはあいつらは敵に回さない方がいいと思ってな。望んでる言葉をやっただけだ」


「ふーん、なるほど……あ、でもあたしの心は少し傷ついたわけだしなんかお詫びがあっても良くない?」


 彩葉は俺の喋った理由に納得はしたが、なんか無茶苦茶な理由でお詫びを要求してきた。


 俺ははぁとため息を吐き、一応お詫びの内容を聞いてみる。


「それで何して欲しいんだ?」


「んーじゃあ今週土日どっちか空いてたりしない?」


 彩葉にそう聞かれ、俺はすぐスマホを開き予定を確認する。


「悪い、両方バイトだ。ただ土曜日は14時上がりだからその後なら時間取れるぞ」


「……じゃあ仕方ないけどその後でいいよ。またどこ行くか決まったら連絡するから絶対そこに予定入れないでよ!」


 彩葉にそう言われて俺は「分かった」とだけ返した。


 そしてその後2人で部室に続く階段を登っていると前方から人が降りてきて視線がぶつかる。


「げっ」


 思わずと言った感じでそんな声が出てしまう。


 それもそのはず、前方から来たのは佐藤、鈴木、田中の3人組だったのだ。


 俺は彩葉と一緒にいるところを目撃されてしまい面倒臭い事になったと思った。


「……星宮、お前七瀬さんとは何も無かったんじゃないのか?」


 佐藤が少し殺気を込めたような視線を送ってくる。


 もはやここまで来たら確信持っていいだろう。


 彩葉はまだ気づいてないが佐藤はおそらく彩葉の事が好きなのだ。


 昨日の会話からはあくまで部外者みたいに話していた為全く思わなかったが、昼休みにわざわざ詰め寄ってきたりしたところから間違いはないだろう。


 俺は無駄な言い争いを避ける為に苦笑いをして道化を演じる事にした。


「えっと、実はすぐそこで七瀬さんにたまたま会ったので、部室まで一緒に行こうって話してただけです。勘違いさせてしまってすみません。俺は先に行く事にします」


「あっ……待っ……」


 後ろから彩葉の呼び止めるような声が聞こえてくるが俺は心苦しくもそれを無視して階段を早足で駆け上がる。


 佐藤とすれ違い様「ふっ」と馬鹿にしたような声が聞こえてきたが、今の俺は道化なのでそんなの痛くも痒くもない。


 ただ最後にチラッと見えた彩葉の悲しさを含んだ表情が頭にこびりついて離れなかった。

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