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第62話 白石麗華の独白

 私は5歳の時に子役としてデビューした。


 その時通っていた子役を育成する為のスクールでも周りより自分の演技の方が上な事を自覚しており、チヤホヤされるような毎日を過ごしていた。


 私には才能がある。同年代に演技では負ける事はない。


 ずっとそう信じこんでいた。


 ……彼に出会うまでは。


 忘れもしない小学2年生の夏、私は見事に打ちのめされる事になる。


 彼は母親である星宮千秋と共に現場に来ていた。


 その頃から大人たちは彼の事を褒めちぎっていて、私はどうせ親の七光りでしょ、と思っていた。


 スタッフさん達に挨拶をして回る彼の姿からは到底そんなに演技が上手い子とは感じられなかったのだ。


 私自身自分の出演した番組以外は基本見ないので彼の演技を見るのはその日が初めてだった。


 彼らは役者にも挨拶していたらしく、私のところにもやってきた。


「今日初めましてですよね?星宮千秋です。よろしくお願いします」


「息子の星宮湊です。よろしくお願いします」


 2人とも丁寧なお辞儀をしてくれたので、私も私の付き添いで来てくれた母と共にお辞儀して返した。


 そうして顔を上げるとちょうど星宮湊と目が合ったが、彼はあまり同年代の女の子と接する機会が少ないのか照れながら視線を逸らす。


 その様子を見て私はやっぱりこの子が今話題の天才子役っていうのはどこかで話が大きくなっただけだと懐疑心が強くなった。


 今は大人達の注目はこの少年に集まっているが舞台が終われば全ての視線は私が掻っ攫って見せる、そういう意気込みで私は演技に臨んだ。


 しかし撮影が始まると私は星宮湊の演技に驚かされる事になる。


 先程まで普通の少年だったはずの彼が、舞台に立った途端まるで別人のように変わり、自然と視線が吸い込まれてしまう。


 それくらいに彼の演技力は格上に感じた。


 夕方になり撮影が終わったが、大人達の視線は少年への注目がいっそう強くなっただけだった。


 私は自分の事が恥ずかしく思えてきた。


 彼は最初から最後まで全くリテイクを出さなかったのに対して、私は監督に何回もリテイクを出されてしまった。


 圧倒的な敗北と同年代とは思えない畏怖の両方を同時に味わう事になった。


 私は撮影後にまた親子揃って挨拶周りをしていた彼が私のところに来た時に目尻に涙を浮かべながら宣戦布告をした。


「見てなさい!絶対いつか追い越してやるんだから!」


 この言葉の意味を深く理解していなかったであろう星宮湊は少し首を傾げてから笑いながら口を開けた。


「うん、また同じ舞台に立とうね」


 そう言って手を差し伸べてくる彼の笑顔が眩しくて今度は私が頬を染めながらその手を取った。


 それが私にとっての初恋だった。


 それからは私はその時のマネージャーに頼んで星宮湊の出演する予定の映画やドラマのオーディションを片っ端から受けていった。


 マネージャーと母には少し呆れられたような目線も受けたが、今思えば私自身何やってたんだろう、と思う。


 そうして私たちも徐々に成長していき徐々に2人で有名になっていった。


 テレビなんかでは子役界の二大巨頭と言われたりもして、私は湊の隣に並べた事が嬉しく思っていた。


 しかしある日突然湊の身に不幸が訪れる。


 私たちが小学6年生だった時だ。


 湊の父親が交通事故で亡くなってしまったのだ。


 そのショックを受けて千秋さんは無期限活動休止、つまり事実上の引退宣言をした。


 そして湊も引退宣言こそしなかったがそれに合わせるように芸能界から姿を消した。


 私は湊がもう芸能界に戻ってこないだろう、という事をマネージャーに伝えられた日の夜は自分の部屋で1人泣いていた。


 私はずっと湊と共に育っていくと思っていた。


 大人になっても一緒にいるものだと信じて疑わなかった。


 だけど別れは突然だった。


 私はひとしきり涙を枯らした後、気持ちを切り替えて中学からはモデル業と女優業に集中した。


 その甲斐あってか最年少で最優秀主演女優賞を取る事もできた。


 湊と会わなくなってから4年。


 昨日久しぶりに湊の顔を見た気がする。


 整ってない髪の毛に似合ってない眼鏡。


 彼の事だから何か考えがあってあの格好をしているのだろう。


 しかし1番彼の事を見ていたと自信持って言える私だからこそ、見た目変わっても彼だったと言い切れる。


 今はまだ朝の6時半。


 私はベッドから体を起こして壁中に貼ってある昔の湊の写真を見回す。


 他人にこの部屋を見られたら少し引かれるかもしれないけど、私は構わない。


 私の中の湊を想う気持ちは誰にも否定できないのだから。


「おはよ、湊」


 私は1番大きい湊の写真に向かっていつも通り朝の挨拶をする。


 そうして私の今日という新たな1日が始まったのだった。

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