第61話 祝勝会
映画研究部が最後の撮影を終えてから中1日挟んだ水曜日の放課後。
俺たち部員は全員口を閉ざした状態で聖先輩と二宮先生の帰りを待つ。
というのもの聖先輩の手によって映画は完成し、今先輩と先生が生徒会に活動報告書と同時に提出しに行っているのだ。
先月の感じからすると多分大丈夫だとは思うが、それでも少しだけ不安が残る。
映画研究部部員は皆スマホを触ったり談笑したりして各自過ごしているが全員気が気でない状態なのは確かだ。
そして短いようで長い時を過ごした後、静かに部室の扉が開き聖先輩と二宮先生が姿を現す。
全員が全員、固唾を飲んで2人を見守る中、聖先輩は一瞬真剣な顔をした後に笑って見せた。
「みんな、この1ヶ月ありがとね!!さっき生徒会から正式な活動報告書として受け取ってもらえたよ!!」
その言葉を聞き、刹那の沈黙の時間が訪れた後全員で喜びを叫びながら拳を高々と天に向かってあげた。
俺はよかった、と思いほっと一息吐いた後に肩に手を回された。
「やったね、湊!」
普段は絶対こんな風にボディタッチをしてこない海斗に戸惑いながらも「ああ!」と応える。
俺の視界にはハイタッチして喜び合っている3人娘に、腰をかけて笑い合ってる風間と荒井、そしてそれらを見守るように聖先輩と二宮先生が映り込んでいる。
入学した時の俺には到底信じられない光景が目の前に広がっている。
俺はその様子を瞳に映しながらこの部活に入って本当によかったと思うのだった。
場所を学校から移して4月に先輩が歓迎会を開いてくれた時と同じファミレスに来ていた。
あの時は4人だった為普通の4人席に案内されたが、今回は9人もいる為ファミレスの店員さんには悪いと思いつつもテーブルを2つくっつけてもらいソファに5人、椅子に4人座る事で落ち着いた。
席順としては椅子側に二宮先生と俺以外の男子、ソファ側に聖先輩、俺、3人娘という形だ。
俺は聖先輩と彩葉の間に挟まれている事もあり、少しだけ緊張している。
普段こんな美少女2人の間に座る事なんて全然ないしな。
そんな事を思っているうちにいつの間に呼んだのか店員さんがテーブルに駆けつけてきて聖先輩と二宮先生がスラスラと注文を進めていく。
今日の支払いは俺たち高校生が1人1000円で、残った金額を二宮先生が払ってくれるみたいだ。
二宮先生のこういう部分には好感が持てる。
店員さんへの注文が終わるとセットドリンクバーも付けてくれていたようで二宮先生以外の全員で立ち上がり各々好きなドリンクを注いでから席へ戻る。
二宮先生は今日は特別だからとか言ってさりげなく生ビールを頼んでいたみたいだ。
もちろんこれに対して全員が呆れたような視線を送ったのは言うまでもない。
そして全員がドリンクバーから席に戻り、二宮先生の生ビールが届くと自然と視線は聖先輩へと集まる。
聖先輩は全員の視線が自分に集まる事による恥ずかしさからわざとらしく1回咳払いをして声を発した。
「みんな、この1ヶ月本当にお疲れ様。僭越ながら音頭を取らせてもらいます。かんぱーい!!」
「「「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」」」
皆笑顔で近くの人とコツンとグラスをぶつけ合い、5月の映画完成を祝う祝勝会が始まった。
それからは二宮先生がベロンベロンに酔ったりして大変だったが、それでも楽しい時間を過ごす事ができた。
しかし楽しい時間というのはあっという間に過ぎる物で時間ももう夜の9時を周り、辺りは真っ暗になっていた。
俺たちは会計を済ませてから店の外に出て、聖先輩が酔った二宮先生を送り届けるそうですぐ別れる事にした。
残ったのは高校1年生組でもう夜も更けて女子だけでは危ないという事で先に3人娘の家の近くまで送る事にした。
先頭に男子3人、真ん中に友里と陽毬、そして最後尾に俺と彩葉が並んでいる。
俺は少し眠気が押し寄せてきてみっともなく口を開きながら欠伸を噛み殺していると隣の彩葉に「少し眠い?」と聞かれてしまった。
別に誤魔化す必要もないのでここは正直に応える。
「まあな」
「そっか、実はあたしも結構眠いかも」
そんな事を言いながらはにかむ彩葉。
不覚にも可愛いと思ってしまったが、そんな事はおくびにも出さず前に向き直る。
それからしばらくの間俺と彩葉の間では無言の時間が続いたが、ずっと無言なのもなんなのでふと思いついた話題を口にする。
「……そういえばもう少しで中間テストあるよな」
「うっ、今それ言う?忘れようとしてたのに」
むぅと頬を膨らませながら彩葉は抗議するような眼差しを送ってくる。
確か中間テストの時期と彩葉のオーディションの時期が被っていたのであまり勉強の時間が取れていないのだろう。
仕方ないな、と思いつつも俺はある提案をしてみる事にする。
「今度俺と一緒に勉強するか?俺も勉強そこまで得意じゃないし、2人でやれば集中力高まると思ってな」
却下されればそれまでと思いながら提案してみると、彩葉は目を輝かせながら賛成してきた。
「めっちゃしたい!今度予定空いてた時に一緒にやろ!約束だかんね!」
「そうだな」
彩葉の笑顔に気圧されつつも俺はなんとかそう応えて視線を彩葉からはるか上空ににある夜空へと移す。
そこには綺麗な月と満点の星空が広がっていた。
「……綺麗だな」
俺は一旦立ち止まってそう言葉にすると彩葉も釣られるように足を止めて視線を上空へと移す。
「そうだね、まるであたしらを祝福してるみたい」
彩葉の言葉に対して軽く頷いてから俺は再び歩を進め始める。
これからの未来はどうなるか俺たちにはまだ分からない。
それでも映研のみんなと協力すればどんな困難な壁も打ち破れるだろう、そう綺麗な夜空の下で思うのだった。
⭐︎⭐︎⭐︎
「え、湊?」
同時刻、そんな7人の高校生を少し離れた場所から見つめている少女がいた。
「どうしたの?麗華」
近くにいたスーツを着た女性が彼女の声に反応して声をかける。
「あ、マネージャー。いえ何でもないです。少し昔馴染みがいたもので」
「ふーん」
マネージャーと呼ばれた女性はそんな少女に対して不思議そうな顔をする。
「まぁどうでもいいけどさ、明日からも仕事あるんだから気を抜かないようにね、今の貴方はただの女子高生じゃない。日本一の女優なんだから」
マネージャーは少し厳し目かなと自分で思いながらも少女に対して注意する。
「はい、分かってます」
少女はマネージャーの注意を受け、一度目を瞑って気合を入れ直してから真剣な表情に変化しそう応えるのだった。




