第60話 1つのエンディング
週も明け、今日が5月の映画撮影最終日であろう月曜日の放課後。
俺たちは授業が終わった後すぐ部室に集まるとそれぞれ衣装に着替えてからグラウンドに出た。
今週の終わりには6月に入る事もあり、いよいよ夏を感じるくらい日差しが強くなってきている。
とりあえずいい感じに萎れてきた台本を片手に俺たち映画研究部の部員は部長である聖先輩を囲むように集まっていた。
「順調に撮影ができれば今日で撮影が終わり、明後日までには編集も完成させて生徒会に活動内容として提出する予定だから最後の撮影頑張ろう!!」
相も変わらない先輩の言葉には全員笑顔にさせられる。
二宮先生もしばらく撮影の出番はなく、久々の出番な事もあってか少しだけ張り切ってるように見える。
……まぁそんな事を心の中で思ってたら二宮先生に睨みつけられたんだが。
ひとまずそれは置いておくにしても、やはり撮影最終日な事もあってか皆やる気で満ち溢れているのは気のせいではないだろう。
それから先輩の指示通りに配置につき最後のシーンの撮影が開始される。
最後のシーンは勇者が魔王を倒し、王国に平和が訪れ勇者と王女が結ばれるという王道的なものだ。
もう自分たちの撮影が完全に終わっている魔王配下四天王役の俺と風間はカメラマンへと役者からジョブチェンジをしている。
ちなみに撮影がないのは先輩も同じだが、先輩は正面から全体を見渡せる位置で椅子に腰をかけている。
最近は少し監督らしさが板についてきたように思える。
撮影中いくつか指示を飛ばしていたのを見かけたが、どれも的確でやはりこの人には撮影する側としての才能があるのだと思う。
まぁとりあえずそんなこんなで最後の撮影を続けていたら無事全ての場面の撮影が終了した。
途中少しだけ海斗がリテイクを希望していたが、数回撮り直すだけで満足してくれたようで特に問題にもならなかった。
俺は撮影後カメラ道具を片付けてから皆と部室に戻る。
もうやる事もないし、少し早いけど帰ろうかなと思い自分の鞄を持ち上げた時陽毬に呼び止められた。
「あれ?湊っちもう帰っちゃうん?」
「え?ああ、まあな。特にやる事もないしな」
俺は正直にそう答え扉に手をかけた時彩葉と友里によって両肩を掴まれる。
「ねえねえ湊、帰るにはまだ早いんじゃない?」
「そうそう、今天童達とも話してたんだけどせっかくだしギリギリまでトランプやろうよ」
そう言われて周りを見渡すといつ作ったのか部室の真ん中には机が数個くっつけられており全員分の椅子が準備されている。
加えてもう既にそこに海斗と風間と陽毬、それに聖先輩と二宮先生が座っている。
ついでにトランプも用意されており、陽毬が切っている途中だった。
俺ははぁとため息をつくと仕方ねえなという風に鞄を元置いてた場所に置き、空いている1つの席に腰をかける。
そして自然と俺の隣には彩葉が腰をかける。
4月の最初の頃というか初めて会った時は彩葉の事を少し怖いと感じていたのは今では懐かしい思い出だ。
今からどうやら大富豪をやるようで、陽毬が丁寧にトランプを配ってくれる。
俺は最後の1枚まで配り終えるのを目で追ってから自分の手札を持ちこの2ヶ月間の出来事を振り返る。
まず全ては聖先輩にこの部活に勧誘された事から始まった。
あの時は自分の正体が即バレして焦った記憶がある。
そして次に海斗と彩葉に出会った。
最初からフレンドリーだった海斗とは違い、彩葉は結構尖っていた。
だけどある日不良から助けて過去の話を聞いてからは仲良くなれたんだよな。その後は結構懐いてくれているみたいだし。
それに何より最初は俺を含めた3人でヘンゼルとグレーテルの撮影を行った。
人数が少ないのもあって色々大変だったけど最終的には生徒会も部活動として認めてくれて皆で喜んだんだったな。
確か4月の終わりくらいにはバイトも始めたんだっけか。
ゴールデンウィークに入るとバイトも忙しかったけど何より大きかったのは友里と陽毬との出会いだな。
あの時は唐突に彩葉がバイト先に来て驚かされた。
その上ゴールデンウィークが明けると同時に勧誘した二宮先生も顧問になってくれてあの時ようやく部活動らしくなったと思う。
そしてそれに続くように風間や荒井との出会いもあり、妹であるルナとも仲直りをして2ヶ月とは思えない密度が濃い時間を過ごしたような気がする。
俺は少し回想に耽りながら手札からカードを場に出していると、隣の彩葉が疑問に思ったのかキョトンとした顔をしながら聞いてくる。
「どうかした?湊」
俺は自分は大富豪に集中していると思っていたが彩葉の目には上の空に見えたのだろう。
仕方がないので俺は彩葉に向かって小声でこう答えることにする。
「いや元天才子役だった俺は平穏な高校生活を謳歌したい、そう思っただけだ」
俺はそう言葉にしてニカッと笑う。
あまり人前で笑う事が少ない俺だがこの時は渾身の笑顔だったと思う。
だからこそ彩葉も一瞬ポカンとして呆気に取られていたが、すぐに言葉の意味を理解すると「なにそれ」と口に出し顔を崩して笑うのだった。




