第59話 遭遇
「おいてめぇら……俺の妹になんか用か?」
俺が普段より低い声を発しながら声をかけると2人の不良はダルそうに振り向いた。
「あ?んだよ」
「おい今立て込んでんだからよ、邪魔すんなよ」
俺の所謂世間では陰キャと言われるであろう風貌を確認すると何が面白かったのか不良達は俺の事を指差してケラケラ笑い始める。
「お、おま、そんな見た目で俺らに声かけたんかよ?」
「クフッ……ヤベェ、笑い止まんねえわ!何?もしかして陰キャ君はヒーロー気取りだった?」
先程の妹という言葉が聞こえてなかったのかこの猿どもは俺が見知らぬ女の子を助けにきたヒーロー気取りの男にでも見えた様で腹を抱えて笑っている。
「あー陰キャ君はもう帰ってくれていいよ?俺たち結構笑わせてもらったし」
「そうそう、怪我しないうちにさっさと帰ったら?」
ひとしきり笑った後2人の不良は手をしっしっと振る様にお前はもう帰れという合図をしてくる。
勿論妹を放って先に帰るわけにいかないので、俺はもう一段低い少しドスの効いた声に変える。
「……おいてめぇら、耳ついてねえのか?俺の妹に手ェ出してんじゃねえぞ!今なら見逃してやるからさっさと失せろ。じゃねえと……ぶち殺すぞ」
俺の雰囲気がさっきまでとは打って変わって凄みのあるオーラを放ち始めたからか不良共は焦った声を出しながらも拳を構える。
「や、やんのか?てめぇ!」
「お、おう、相手になってやんよ!」
そんな風に拳を構える不良達と対峙し、内心は恐怖を感じながらもそれをおくびにも出さず、ルナの心配そうな顔を横目に拳を構える。
「……これでも引かねえならしゃあねえよなぁ!?」
俺は普段絶対発さないような声を出しながら一瞬の隙をつき、不良の片割れの眼前で寸止めをする。
そしてその拳を下ろさぬまま一言問いかける。
「……まだやるか?」
俺の問いかけに2人はぶんぶんと首を振り、「「す、すみませんでしたぁぁぁぁ!!!!」」と捨て台詞を吐きながら去っていった。
それを見届けてからハッタリがバレずに済んで良かったと安堵した。
そして完全に彼等の姿が見えなくなり、後ろを振り返る。
「ルナ、大丈夫だったか?」
「え、うん……てかやっぱお兄ちゃんの演技って凄いね」
どうやらルナには俺の演技が見破られていたようで、俺もまだまだだなっと思った。
とりあえずルナに先程自販機で購入したペットボトルのミルクティーを渡してから口を開く。
「それじゃあ……」
次何する?と言葉を続けようとした時だった。
背後から突然見知った声が3つ聞こえてくる。
「え、湊?」
「おーホントだ、湊じゃん」
「やっほー、湊っち」
その声の主である彩葉、友里、陽毬は最初にこやかに挨拶してきたが、俺の背後にいるルナの存在に気づくと目を丸くした。
「……その人誰?彼女?」
突然彩葉の声が冷たくなった。
当然と言えば当然の質問だが、何故こんなにも声が冷たいと感じるのだろうか。
「いや……」
「そうですけど皆さんどちら様ですか?」
俺は否定しようと口を開こうとするがその前にルナによって言葉を遮られてしまった。
そしてなんとルナは椅子から立ち上がって俺の腕に抱きつき彩葉に向かって威嚇するような真似もする。
「へ、へぇ、彼女、ねぇ?あたし聞いてないんだけど?湊」
彩葉の視線がさらに冷たく感じる。
少し前に比べてルナの俺に対しての態度が柔らかくなった事は嬉しいが、流石に兄の友人に対して嘘で威嚇する事は兄として注意する事にしよう。
「こら、ルナ。彼女なんていう嘘はつくもんじゃない。悪いな、皆も。こいつは俺の妹で星宮月だ。悪い奴じゃないんだけどな」
そうルナの事を擁護しつつ言うと、彩葉達はさっきとは打って変わって優しい視線へと変わる。
「へーそうなんだ。よろしくね、ルナちゃん。あたしは七瀬彩葉。一応モデルやってるよ」
「……知ってます」
今度はルナが少しムクれた表情へと変わる。
「え、嘘!?ホントに!?めっちゃ嬉しい!!」
彩葉はそんなルナの様子を全く気にせず手を握り、握手をする。
ルナは仕事上人と触れ合うのは慣れているはずだが、性格的にはあまり社交的とは言えないので少し人見知りをしているのかもしれない。
俺は彩葉達には悪いと思いながらも今日はルナの事を優先する事にした。
「悪いな、彩葉。それに友里と陽毬も。せっかく声かけてくれたのに、今日はルナと遊びに来ているしな」
そう言葉に出して視線をルナの方向に向ける。
顔は基本隠れていて表情はよく分からないが、ルナは俺の言葉にどことなく嬉しそうな感情を出しているように思える。
それを感じ取ったのか3人娘は別に気を悪くする事はなく「じゃあまた学校でね」と手を振ってからこの場を去っていった。
俺は3人娘が去っていく姿を見届けてから再びルナへと視線を戻す。
「それで次は何する?」
今日はルナのしたい事にとことん付き合ってやるつもりではいたので、そう問いかけるとルナは小さな声でボソボソと何かを呟いた。
「……お兄ちゃんってやっぱモテるんだね」
残念ながらその言葉は俺に聞こえる事はなく「今なんて言った?」と聞き返してみてもルナには「別になんでもないよ」とはぐらかされてしまった。
それから少しゲームで時間を潰してからルナの要望で初めてのプリクラを撮り家へと帰ることにした。
帰路に着いている途中、ルナが大事そうに俺とのプリクラを持っていたのが印象的だった。
俺にはこれくらいの事しかできないが、それでもルナにはいつまでも笑顔でいてほしいと思ったのだった。




