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元天才子役だった俺は平穏な高校生活を謳歌したい  作者: 86
第1章

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第57話 演じるという事

 わずかにあった休憩時間も終わり、俺たちは次の撮影シーンへと移行する。


 次の撮影シーンは勇者パーティVS魔王配下の1人であるサラマンダー、つまり俺が演じる番というわけだ。


 俺は一度台本に目を通して台詞を頭に叩き込んでから配置に着く。


 特に台詞の練習とかは家ではしてないが撮影する場面の台詞は数回読んでおいたのでおそらく今回も大丈夫だろう。


 深く深呼吸して一旦落ち着いてからゆっくりと目を開く。


「みんな準備オッケー?」


 先輩の大きな声が耳に飛び込んできたので各自頷いて応える。


「……よし、それじゃあアクション!!」


 先輩の合図が聞こえ、まず初めに勇者役である海斗が口を開く。


「……確かこの道を行けば魔王城だよね?」


 そんな勇者の問いかけに対し戦士役である荒井が何も考えてなさそうに応える。


「ああ、そうだな!ちゃっちゃっと行ってぶっ倒しちゃおうぜ!!」


「はぁ、これだから脳筋は」


 戦士の方を見ながら今度は賢者役の友里か呆れたような声を出す。


「……もう少しで魔王城に着くんですから皆さん周りを警戒してくださいよ」


 そんなパーティメンバーのやり取りを側で見ながら聖女役の陽毬が気を引き締めるよう伝える。


 海斗は勿論のことだが、友里や陽毬、それに荒井の演技力が上昇している。


 荒井は初日の大根役者はまるで嘘かのように今では役を演じきれている。


 この成長に俺は嬉しく思う。


「……皆構えて!」


 そんな事を思いながら4人の演技を見ていると突然勇者役の海斗が焦ったように作り物の剣を抜き構える動作をする。


 それに合わせて各々作り物の武器を構える。


 それはつまり俺の登場シーンを合図する。


 俺はゆっくりと歩を進め4人の前に姿を現す。


「……キヒヒ、もしかしてお前らが勇者か?わりぃけど、この先は通行止めだ。魔王様の城に行きたければ俺を倒す事だな」


 まさに悪役らしい台詞と言えるだろう。


 俺史上悪役を演じた経験が少ないもので、最初は上手く演じ切れるか不安だったが杞憂だったようだ。


 俺はまさに悪役に相応しい笑みを浮かべながら4人に近づき悪役らしい言葉を次々と発する。


 よくこんだけの悪役らしい言葉を思いつくな、と脚本を書いた聖先輩に少し感心しながら演技を続ける。


 そして次々に戦闘シーンが移り変わり遂に四天王の1人である俺が地面に伏す。


「……中々やるな、てめぇら」


「……君も中々強かったよ」

 

 俺は最後に勇者の台詞を聞いてから目を瞑った。


 こうして勇者パーティVSサラマンダーの幕は閉じた。


「……はいカット!中々良かったよ、みんな!」


 先輩の声が耳に届いてきた事で俺は目を開き立ち上がる。


 俺も比較的今日の撮影には満足しており、これで今日の分は終わったからもう帰れると思いながら衣装についた汚れを払い落とす。


 荒井もいつもより嬉しそうな表情で後ろから俺の首に手を回してきた。


「よっ、星宮!今日は俺も結構やれたんじゃねえか!?」


「ああ、だいぶ成長したな、荒井」


「てか星宮も演技上手いんだろうなとは思ってたけど、なんつーか次元違いすぎだろ!」


「……それは褒めすぎだろ」


「そんな事ねぇって!」


 4月時点では信じられなかったが、ここまで荒井と軽口を叩き合える仲になるとは思っていなかった。


 少し離れた場所では3人娘が先程の撮影について会話していたり、聖先輩や二宮先生も満足したような表情で撮影した動画を見返している。


 皆の顔を見るにほとんど全員が今日の撮影について満足したと言ってもいいのだろう。


 ……ただ1人を除いて。


「すみません、リテイクお願いしてもいいですか?」


 たった1人のその言葉を先程まで騒がしかったこの場所が一瞬で静まり返る。


 その1人、海斗が真剣な表情でリテイクを申し出た事に対し先輩は諌めるように応える。


「え、えっと、別にリテイクする必要ないんじゃないかな?皆結構良かったと思うし……」


 先輩が言葉を発した後に続いて友里、陽毬、荒井も海斗に言葉を投げかける。


「そうだよ天童。さっきので結構良かったくない?」


「そうそう、別に直すとこなんかないって」


「そうだぜ海斗、何が不満なんだよ?」


 3人の言葉を聞き海斗は目を細めてキッと睨みつけてから言い返す。


「……何が不満?ほとんど全部だよ。僕はできるだけ完璧に役を演じ切りたいし、作品も完璧なものに仕上げたい。これが僕が思ってる事。だけどさっきの撮影は最初から最後まで湊の演技に食われてたんだよ。こんなんじゃ僕は満足できないし納得もできない。だから僕はリテイクを要求したいです」


 最後の一言で先輩に顔を向けて頭を下げた。


 今ここにいるほとんどの人間はそこまでこの映画に完璧を求めていない。


 せいぜい学生の部活として作る映画だし、という思いを持っている者がほとんどだろう。


 しかし彩葉だけは少し顔を俯かせながら海斗の援護に入った。

 

「……あたしは天童の言いたい事分かるかも。自分も最近演技について学び始めたから分かるんだよね。モブならまだしも、主役をやるからには1番目立ちたいって。さっきの撮影を見てて思ったけどよく見たら湊が目立ちすぎてて他の皆は少し影が薄かったんよね。だからさ、まだ時間ある事だし海斗の満足するとこまで皆でとことん手伝ってあげようよ」


 彩葉の明るい声音に説得されたのか聖先輩は頷き返し、全員に指示を飛ばした。


 俺たちは元の立ち位置へと戻り撮影が再スタートする。


 その後は数回撮影を繰り返して最後は海斗が渋々といった感じ納得し、今日の撮影は終了した。


 最後まで海斗は心の底から自分の演技に満足したような感じは出さなかったが、自分なりに最後の演技は許せる範囲だったのだろう。


 こうして俺たちは汗をかきながら部室へと戻り学校を後にするのだった。

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