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第56話 彩葉の人気

 勇者の旅立ちの場面の撮影も終わり、一旦10分の休憩が設けられた。


 3人娘が身を寄せて談笑している木陰から少し離れた場所で俺たち男子4人組も体を休ませながら言葉を交わしている。


「……にしてもあっちぃな」


「ホントホント、今日最近にしては結構暑いよな」


 そんな事を言い合う荒井と風間に対して俺も「そうだな」と同意しておく。


 海斗は本当に体を休ませるつもりのようで俺たちのすぐそばで横になって目を瞑っている。


 イケメンは何してもイケメンなのだという事が分かる図である。


 多分見た目から陰キャと判断されるであろう人種が同じ事をしてもキモがられるのが悲しき現実だ。


 そんな事を考えていたら遠目から3人娘、主に彩葉が男子生徒に話しかけられるのが見える。


 多分友達だろう、と思い俺も海斗の真似して寝転ぼうとするが風間に止められた。


「ちょっと行ったほうがよくないか?あれ」


「……面倒臭い。普通に友達だろ」


「それならそれでいいんだけど、俺の予想が当たってればあいつこの前七瀬に告白して振られた奴だと思うんだよな」


 そんな風に言葉にする風間の意図が見えず俺は聞き返す事にする。


「……それで?」


「俺の目には七瀬が少し迷惑しているように見える。だからお前が助けに行ってあげたらどうだ?」


「はぁ、面倒臭いな」


 俺はこの暑い中無駄に動きたくないのもあって怠そうに立ち上がってから彩葉の方は歩を進める。


「なんだかんだ言いながら友人を助けようとする星宮のそういうところ好きだぞ」


「頑張れよ!星宮!」


 後ろから風間と荒井が声援を俺に送り、下を見ると微かにサムズアップしている海斗が視界に入る。


 応援するだけじゃなくてお前らが助けにいけよと思ったが声に出す事はせず彩葉の方に突き進む。


「なぁ俺と付き合ってくれよ。これでもサッカー部でそれなりに期待されてんだぜ?顔もイケてる方だと思うしよ。何がダメなんだよ」


「え、えーとあたし他に好きな人いるから進藤(しんどう)とは付き合う気ないし……」


 その男は進藤っていうらしいがそいつがめちゃくちゃしつこく俺と付き合えって迫ってるからか彩葉の後ろにいる友里と陽毬はめちゃくちゃドン引きした目で進藤の事を見ている。


 進藤はまだ気づいていないが、友里と陽毬と彩葉は俺の存在に気づいたのか助かったという表情を浮かべてため息を吐く。


 俺はまだ俺の存在に気づいていない進藤の背後から肩に手を乗せてこちらを振り向かせる。


「あ?お前誰だ?」


 いやそれは俺も思っている。


 お前こそ誰だよ。


「俺が誰かだなんて今はどうでもいい。あまりうちの部員に絡まないでくれるか?彼女は重要な役者なんだ」


 俺は穏便に事を済ませたいという想いもあり、まずは柔らかい姿勢で接してみる。


 あまり目立ちすぎて校内で噂になろうものならたまったものではない。


 その瞬間俺の平和なスクールライフが崩れ去ってしまう。


 だからこそここは気にする必要もないヤツっていう印象を植え付けた上でこいつに引かせる事ができれば上々だ。


 ……てかやっぱりこの役目俺なんかよりあっちで傍観している3人の方が適任だっただろ。


 あの3人はいい意味で校内で目立っているし敵に回そうと思う人間の方が少なそうだ。


 何故俺はこんな役を買って出たのかを思いながら冷静に言葉を選びながら発する。


「今映画の撮影中でたまたま休憩時間に入っているだけだから彼女たちの休憩を邪魔しないでくれるか?」


 さてどうだろうか?この完璧な紳士対応は。


 俺はできるだけ落ち着き払った受け答えをしたはずだが、どうやら相手は思ったより子供だったようで眉間に皺を寄せながら睨みつけてきて拳を振り上げた。


「……ふっ、なるほどな。よく理解したぜ。お前も実は七瀬さんの事好きなんだろ?そんで俺に取られそうだったから適当な理由をつけて邪魔しに来た。そんなとこだろ?だけど甘かったな!テメェみてえな陰キャ七瀬さんが相手にするわけねえだろ!」


 ……これだから話の通じない猿は困る。


 そもそもこいつが何の話をしているのかさえ俺は理解できない。


 別に彩葉に好意を抱いている訳じゃないしただの部活仲間というだけだ。


 俺は飛んでくる拳を見ながら甘んじて受けるとするかと思い目をギュッと瞑ったがその拳が俺に触れる事はなかった。


「……おい、あんま調子乗ってんじゃねえぞ?てめぇ」


 少し低いドスの効いた声が聞こえてきて、目を開けるとそこには怒りの表情を滲ませた様子の荒井が進藤の腕を掴みながら威圧している。


「大丈夫か?星宮」


 荒井はこちらに振り向いて俺の安否を確認してくるので俺は大丈夫だという事を頷いて伝える。


「……そっか、ならよかった」


 荒井は安堵した表情を浮かべると進藤の腕を離して「二度と俺のダチに手出すんじゃねえぞ!」と声を張り上げると進藤は荒井にビビったのか逃げるようにサッカー部の練習へと戻っていった。


「あー格好悪いところ見せちまったな、彩葉」


「え、別にそんな事なくない?てか目立ちたくないから穏便に済ませようとしたんでしょ?本当の湊はもっと凄いもんね?それと助けてくれてありがと」


 どうやら4月に俺が彩葉を助けた時の事を言っているのだろう。


「……ああ」


 俺は彩葉の言葉に否定する事はせず彩葉の感謝を素直に受け入れる。


 後ろの2人は何やらサムズアップしていたので俺もサムズアップして返した。


「んじゃそろそろ行こうぜ。部長呼んでるし」


 もう休憩も終わりの時間なのだろう。


 荒井の言葉で部長の方を見ると部長が手招きして集合の合図をかけていた。


 海斗と風間はいつ移動したのか既に部長と先生の近くに立っており、俺と荒井は3人娘が立ち上がるのを待ってから皆の元へ移動するのだった。

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