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元天才子役だった俺は平穏な高校生活を謳歌したい  作者: 86
第1章

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第53話 空オーケストラ

 次の日の放課後、俺は映画研究部の同級生6人とカラオケに来ていた。


 というのも今日は聖先輩が映研に参加する事ができないという事だったのでせっかくだし皆で親睦深める目的でカラオケ行こうという話になったのだ。


 勿論発案者は我が部が誇る美少女3人娘である。


 俺も含めて7人なのでそれなりに大きな部屋に通してもらい、今ちょうど寛いでいるところである。


 実を言うと歌を歌うのなんて久しぶりだし、カラオケに友人と来る事なんて初である。


 小学生時代はカラオケに行くほど暇ではなかったし、中学ではそこまで仲の良い友人がいなかった。


 だから誘ってもらえた時少しだけ感動したのは内緒である。


 席の配置としては俺の右隣に彩葉、左隣に風間、その隣に荒井、そして彩葉の向かいに友里、俺の向かいに陽毬、その隣に海斗という形である。


 最初3人娘が並んで座るかと思いきや別れて座ったのでどちらに座ろうかと悩んだ時、彩葉が笑顔で隣をポンポン叩いていたのでそちらを選択した。


 最近仲良くなったとは言えまだ彩葉の方が友里や陽毬よりかは接しやすいしな。


「はい、湊も曲入れてね」


 そんな事を考えていたら、もう曲を入れ終わったのか彩葉にデンモクを渡されたので俺は今流行りの有名な曲を入れておく。


 変な曲を入れて場が白けるのだけは避けなければならないので無難な曲を選択しておいた。


 そして隣の風間にデンモクを渡すと慣れた手つきでデンモクを操作してすぐに隣の荒井に渡していた。


 早速室内にメロディが流れ始めて、1番手の友里が楽しそうに歌い出す。


 普通がどれくらいかはあまり分からないが、友里の歌は相当上手い方なんじゃないだろうか?


 そんな事を思ったからか、思考の中を見透かしたように右隣の彩葉が顔を覗き込んできた。


「ねぇ、友里上手いでしょ?」


「ああ、相当上手いな。素人目に見ても上手だというのが伝わってくる」


「……うん、だよね。でもさ、友里でもその道のプロにはなれなかったんだよ」


 俺はその言葉の意味を理解できなかったので首を傾げる。


 その反応を見た彩葉は目線を友里から動かす事なくゆっくりと話し出した。


「今ではモデルとして活動している友里だけど元はアイドル志望だったんだよね。キラキラしているアイドルに憧れて子供の頃にも歌の練習とかしててさ。それをあたしや陽毬も応援してたんだけどさ、中1になってすぐに受けたアイドルのオーディションで落とされちゃってそれ以来アイドルを目指すの辞めたんだって」


 そう語る彩葉の顔はどこか寂しげな表情をしていた。


 彼女的にはやはり友里にも好きな事を続けて欲しかったのだろう。


「あたしや陽毬は諦める必要ないって言ったんだけど、いつも元気な友里はその時泣きながら努力は才能に勝てないって何度も何度も言ってたんだよね。だからこそあたしは友里に努力すれば良い結果を得れる事もあるって伝えたい。だから今度のドラマのオーディションに絶対受かって友里に言ってやりたいんだ。友里もまだ諦めるには早いよって」


 そしてニカッと彩葉は笑顔を見せる。


 なんて眩しい笑顔なのだろうと思ってしまうくらい今の彼女は輝いて見えた。


「ちゃんとあたしの歌聞いてた?どうしたん?そんな辛気臭い顔して」


 いつの間にか友里の歌も終わっていたようで友里が俺と彩葉を訝しむような顔をして見ていた。


「え、なんでもないよ!」


「……ホント?」


 彩葉はそれは分かりやすいくらいに慌てふためいていたので仕方なく俺は援護する。


「いや本当に大したことではない。カラオケの正式名称が実は空オーケストラだという話をしていただけだ」


 俺は全く動揺するそぶりを見せずそう応えたからか友里は「ふーん」とだけ言って着席する。


「へぇ、正式名称空オーケストラって言うんだ。それはウチも初めて知ったかも。てか本当に何もしてないの?なんかやましい事してたんじゃないの?」


 友里はすぐ引いてくれた為助かったがもう1人ただの興味本位でこの話を続けようとする奴がいた。


 そのニヤニヤした顔つきから変な事を考えているのが容易に想像できるがここはキッパリと否定しておく。


「何もやましい事はしていない。というか俺と彩葉はそんな関係じゃないし、そんな関係になる予定もない。勝手な憶測で話をするな」


 ちょっとキツく言いすぎたか?と思い陽毬の顔を見てみると陽毬は少し青ざめた顔をしながら俺の隣、つまり彩葉の方を見ていた。


 俺も陽毬の視線の先に目をやると、そこには少し黒いオーラを纏った彩葉がなにやらふ何やらぶつぶつ呟いていた。


「……そっか、湊はあたしとそんな関係になる予定もないんだ。ふーん、そっか、別にいいもん」.


 その言葉は俺に聞こえる事はなかったが、何かフォローをしといた方がいいと思い、咄嗟に言葉を発する。


「あー、彩葉、大丈夫か?」


 俺はフォローのつもりでそう声をかけたのだが、彩葉は俺の事をキッと睨みつけて小さい声で言葉を放った。


「……湊のバカ」


 俺が一体何したというのだろうか?


 よく分からないがとりあえず右からの視線をスルーする事に決めた。


 そしていつの間にか陽毬は席を立ってノリノリで歌い出しているし、気づいたら彩葉の機嫌も直っていて合いの手を入れたりして楽しそうに時を過ごしていた。

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