第49話 大根役者
「皆の者、よく集まってくれた」
1番最初の場面の撮影が終わり、少し休憩を挟んでから次の場面の撮影へと移っていた。
勇者パーティ登場のシーンで、まずは国王役である二宮先生の台詞からスタートした。
玉座に座っている先生はなんていうか風格も出ており、まさに国王役がピッタリという感じだ。
「陛下、今日はどのようなご用件でしょうか?ここに呼ばれた者たちは皆、違う組織に所属する者。特別共通点があるとは思いません」
そう言葉にする海斗は普段と違う衣装を纏っているがイケメンのオーラが隠しきれていない。
クラスの女子たちが今の海斗を見たら黄色い歓声が上がるんだろうな。
そんなどうでもいい事を考えながら俺はカメラを構える。
「ソウデス、ヘイカ。ココニイルモノタチハナゼヨバレタノデスカ?」
「はいカット!カット!」
あまりにも荒井の演技が下手すぎるので、先輩もカットせざるを得ないって感じだ。
動きはぎこちないしセリフも棒読み。
一応プロの海斗や才能の原石である彩葉ほどとまではいかなくてももう少し何とかしたいところだ。
「うわー、めっちゃ下手じゃん荒井」
「流石に今のはないよ、荒井」
これに関しては仕方ないとも言えるが賢者役の友里と聖女役の陽毬からは散々な言われようである。
「うっせー!演技初めてやるんだから仕方ないだろ!」
荒井は何やら吠えているが、それで2人からの視線が変わる事はない。
一緒に演技していた海斗も苦笑いして誤魔化しているけど、内心荒井の演技は救いようがないと思っていそうだ。
それくらい荒井の演技は下手くそだった。
そこで俺は一旦時間を確認する。
1番最初の国王と王女のやり取りが思ったよりすぐ撮影が終わったので今はまだ17時半前だ。
遅くても18時半には学校を出ないとならないので残された時間はあと1時間くらいだ。
なので俺は18時までの30分間荒井に指導する事を決意する。
「先輩、荒井を俺に任せてもらえませんか?」
唐突に俺がそんな事を言ってきたからか、聖先輩は少し驚いてからすぐにその内容を聞いてくる。
「……というと?」
疑問を浮かべた先輩に対して俺は自分の思ってる事を全て伝えた。
「他に全員が集まれる日はそうないでしょうし、できれば今日中に勇者謁見の場面は撮影したいでしょう?でも今の荒井の演技では今日中に終わらせる事は不可能かと思います。だから俺に30分だけでいいんで演技指導させてください」
「でも30分ってなると18時になっちゃうわけだし
……」
俺の考えてる事自体は先輩に伝わったらしいが、やはり時間が心配なのだろう。
先輩も部長として少し許可するのに躊躇ってるようだ。
なので俺は先輩に対して自信溢れた表情ではっきりと言い切る。
「その間他の人には読み合わせ練習などをしていてもらいます。そして30分後に撮影開始しましょう。安心してください。撮影は一発撮りで終わらせればいいですから」
俺の自信に満ちた表情を見たからか、先輩ははふふっと笑ってから「分かった」とだけ言って部員たち全員に読み合わせの練習するよう指示を出した。
「さて荒井はこっち来てもらうぞ」
俺は荒井の許可を取る事なく教室の左後方の隅まで連行していき、早速指導を始める。
荒井はまだ状況を理解してない顔つきだったが、あまり反抗する気はないようで大人しく俺の指示に従ってくれた。
それから30分が経過しちょうど今18時になったところだ。
俺の目の前にはへばった様子の荒井が疲れ切った表情で膝をついて汗を流している。
「まぁ及第点ってとこか」
俺はそんな荒井を見下ろしてから聖先輩のところに駆け寄りとりあえず簡易的な指導が終わった事を伝えた。
「……なんていうかお疲れ様、健人」
「海斗……あいつは何なんだ。スパルタもいいところだろ。まさに鬼教官だな」
海斗と荒井が何やら話しているが俺はそれを気にせず再びカメラを持って元の定位置へと戻る。
「それじゃあ撮影開始しよう!皆元の位置に戻って!」
先輩が皆を見回しながら指示を出すと、皆それぞれ元の位置へと戻っていく。
そしてすぐに撮影が始まったが今度は1回も止まる事なく最後まで演技する事ができた。
撮影終わってから誰もリテイクを申し出なかったし、先輩からもOKが出たので今日の撮影は無事終了となった。
「やればできるじゃん、荒井」
「……いやてか荒井を30分でここまでにした湊っちってマジ何者って感じなんだけど」
荒井の大きな変化に素直に驚く友里と俺の手腕に驚きを隠せない様子の陽毬と反応は様々だったが皆荒井の演技の上達は認めているみたいだ。
時間も18時20分近くになっていて、帰らなければいけない時間が刻々と近づいていたので俺たちは道具や衣装を片付けてからそれぞれ家に帰る事になった。
帰り道隣にはこの後演技指導の約束がある彩葉が自然と並んできたが、それに対して俺は何も言う事はなく、朝とは違う暗くなった通学路を帰っていくのだった。




