第4話 青嵐高校映画研究部
俺は先程起こった出来事について思い返しながら、午後の授業を受ける。
彼女の名前は花園聖と言うらしい。あの後に自己紹介をしてくれた。
そしてさらに驚いたのがなんと彼女は2年生であり、俺の1つ年上だったのだ。
小学生みたいな見た目をしているくせに実は先輩でしたとか驚きを隠せない。
そんな聖先輩に伝えられたことが早速今日から活動するから部室に来てくれということだった。
部室の場所も伝えるだけ伝えてから彼女は昼休みもそろそろ終わるからと姿を消していった。
俺は憂鬱な気分になりながら大事な箇所だけ板書を写す。
俺の中学時代は地元に通っていた事から結構知名度もあり、友達と呼べる存在すら1人としていなかった。
だからこそ高校では正体を隠して平穏に過ごそうと思ったのだが、まさか初日から身バレするとは思わなかった。
これは頭を抱えたくもなるというもんだ。
俺は板書を写しているが授業の内容は頭に入ってこない。
「星宮、ここ和訳してみろ」
これからどうしたもんかと考えていると、唐突に教師に当てられてしまう。
「へ?」
いきなりの事で思わず気の抜けた返事を口にしてしまう。
今の時間は英語の授業で担当は気の強そうな女性教師だ。
俺はとりあえず急いで板書の内容を確認してから先生の指した文章を頭の中で和訳してから口に出す。
「部活動を通して、たくさんの友達ができました、です」
俺は授業初日だという事もあり少し緊張しながら答えるが、それに対して先生は笑みを浮かべて「正解だ」とだけ言ってまた皆に向けて解説を始めた。
俺はほっと一息ついてから窓の外を眺める。
先ほどの文章では部活を通す事によって友達ができるみたいな英文であったが、実際のところそれは期待できないだろう。
これから入部予定の映画研究部は今にも廃部しそうな部活だしな。
俺は少し憂鬱な気分に浸りながら残りの授業を受けるのであった。
⭐︎⭐︎⭐︎
終礼も終わりクラスメイトたちが各々帰る支度を始める。
友達と遊びに行く者や部活見学に行く者など様々なようだか俺は鞄を片付けてから誰にも話しかけられる事なく聖先輩に指定された部室へと向かう。
分かっていたことだが、友人ができないって思ったより寂しい事なんだな。
俺は鞄を肩にかけながら廊下を歩き続けておそらく映画研究部の部室だろうと思わしき教室を見つけた。
場所としては校舎の5階の空き教室であった。
ちなみに2階は1年生、3階は2年生、4階は3年生とそれぞれの学年の教室があり、5階と6階が今は空き教室となっている。
学校のパンフレットを見た時は数年前までは5階と6階も普通の教室として使われていたようだが、生徒の人数も少なくなった今では文化部の部室になっていたりするようだ。
俺はコンコンとノックをしてから教室の中へと入る。
するとそこには聖先輩が大きい教室の中、真ん中の椅子に座りながら本を読んでいた。
不覚にも本を読んでいる姿の先輩は絵になっており、美しいと思ってしまった。
俺は首を横に振ってからまだ気づいていない様子の先輩の肩を叩いて声をかける。
「先輩、お待たせしました」
「ん?あぁ、星宮君か。よく来てくれたね!もしかしたら来ないかもって心配してたからよかったよ!」
先輩の笑顔を前にしてから俺は近くの椅子に座り、先輩に話しかける。
「んで、これからどうするんですか?やっぱ部員集めですよね?流石に2人じゃ映画作れないですし」
「おぉ、星宮君が昼休みの時とは打って変わってやる気のようでちょっと私感動してるかも!でもね、ちょっと待ってて。もう少しで来ると思うから」
来るって何がだろう?
昼休みの言い回し的には他に部員がいたとは思えないんだが。
俺は頭にハテナを浮かべた状態でその来客が来るまでスマホを触りながら時間を潰す。
そして10分近く経った頃だろうか。
この広い教室中に満ちた静寂を破るように後ろのドアが開かれる。
そして冷めた声と明るい声が同時に飛び込んできた。
「こんにちは。映研部ってここであってる?」
「こんにちは、そしてよろしくお願いします。先輩」
俺は後ろを振り向いて驚く。
「え……七瀬と天童?」
そうそこには美少女モデルとして有名な七瀬彩葉と期待の若手俳優として名前が売れ始めている天童海斗の2人がいたのだった。
そして俺は先輩にジト目を向けながら振り向く。
「……どういう事っすか?」
それに対して先輩はニコリと笑顔を見せてから答える。
「ごめんごめん、昼に言えば良かったんだけど驚かせたくてさ。この2人も君と同じ新入部員だから1年生同士で仲良くしてね」
七瀬と天童も俺の方を見て目を見開きながら固まっている。
これが俺たち3人が映画研究部に集まった初めての瞬間なのであった。