第43話 歪
彩葉との特訓も終わり、20時半頃に家へと帰ると、いつも通りルナがテレビを食い入るように見つめていた。
今日はバラエティ番組ではなく、最近流行りのドラマを見ているようだ。
俺も少し気になり彩葉の隣に腰をかけて一緒に画面を見てみる。
母さんは俺が家に帰ってくると同時に俺の夕飯の用意を始めてくれていて感謝しかない。
それでドラマの内容なのだが、それは主に女子が好きそうな恋愛ドラマである。
「また勉強のために見てるのか?」
「……別に」
俺は気になってルナに言葉を投げかけてみたが、帰ってきたのはいつもと同じ素っ気ない態度だけ。
この態度にそろそろ慣れないととは思いつつも、毎度少し落胆してしまう自分がいる。
妹の態度にため息を吐きながら画面に向き直ると、そこには滅多にお目にかかれないレベルの美少女がいた。
見た目は長くも短くもないセミロングの髪にパーマをかけた美しい銀髪、そして優しく微笑みかけるような碧眼が印象的な美少女だ。身長はそこまで高くはないが、女性としての体つきがはっきりと分かる程度にはスタイルも良い。
クラスにいたら確実に目を惹かれるであろう容姿をしている。
そんな彼女の本名は白石麗華。今見ているドラマでは比較的モブだと思われる立ち位置の主人公とヒロインのクラスメイトという役を演じているが彼女が登場した瞬間勝手に目線が奪われてしまう。
これが白石麗華の演技力、主人公とヒロインさえ演技で食ってしまうのは不覚にも怪物だと思ってしまった。
俺の持論として一流はただただ演技が上手い役者、超一流はモブになっても主人公を立たせる事ができる役者だと思っている。
そう考えると主人公やヒロインより目立つ白石は超一流とは言えないのかもしれない。ただ彼女の場合は群を抜きすぎてており、周りの演技力も引き上げてるからそこまで彼女が目立っているという違和感を感じさせない。
なので彼女もまた超一流だと言ってもいいだろう。
ちなみに白石は今では日本では知らない人がいないくらいに有名な女優であり、去年は中学生ながら最優秀主演女優賞を受賞している。
また世界の美少女TOP100という海外の新聞社の企画でも毎年トップ10に入るくらい今の日本では群を抜いている。
「……凄いな」
思わず呟いてしまった一言だったが、隣にいたルナが俺の声を聞いて一瞬だけ目を見開いて驚いてきた。
「お兄ちゃんでもそんな事思うんだ」
「そりゃ思うだろ。実際今日本で白石麗華より演技上手い役者なんていないだろうし。天は二物どころか三物や四物与えるもんなんだな」
俺がそう白石麗華の事を褒めると、ルナは俺に対してムカついたような顔をして言葉を発した。
「……あたしはお兄ちゃんだって白石麗華と同じ側だと思ってるよ。顔もいいし、演技も上手い。その上勉強や運動だって人並み以上にできるじゃん。本当になんで芸能界辞めたわけ?もっかい戻ればいいじゃん!あたしはテレビの前で演技してるお兄ちゃんが好きだったし、憧れてた!いつか絶対並んでやるって目標だった!でも、お兄ちゃんは私にチャンスさえくれなかった!それどころか今では他の人の演技褒めるまで落ちぶれちゃった!こんなの私のお兄ちゃんじゃない!私のお兄ちゃんは絶対に人の演技を褒める事がないし、自分にもっと自信を持ってる!お兄ちゃんが芸能界を辞めた理由も分かるけど、そんなの納得できない!天国にいるパパだって絶対にお兄ちゃんに演技を続けて欲しいって思ってる!」
最初は落ち着いた様子で話し始めたルナだったが徐々にヒートアップしていき最後の方は目尻に涙を浮かべた状態で俺を責め続けた。
キッチンにいる母もそんな娘の様子を見て唇を噛んで目を俯かせている。
俺はルナに反論する事ができない。
父を理由に芸能界を辞めた、いや逃げたのは俺だ。それに関してルナにとやかく言われる筋合いはないと今までは思っていた。
でもいざ妹と向き合ってみると芸能界を辞める事が正解だったのか分からなくなる。
ルナは何も反論しない俺の様子に少し幻滅したような顔を見せてから「……ごめん、部屋戻る」とだけ言ってテレビを消してから階段を駆け上がっていった。
俺は妹に何も言えなかった事が兄として恥ずかしかった。
テーブルを見ると母さんが夕飯を運んでくれていたので俺は椅子に座り手を合わせてから食事を始める。
今日の夕飯は俺が好きなハンバーグだった。
箸で一口サイズに切り口に放り込むが、不思議と何の味も感じる事ができなかった。
その後は淡々と味の感じない食事を進め、食べ終わると「ごちそうさま」とだけ口にして自分の部屋へと上がった。
スマホでEMをやったり、ニュースを漁ったりして過ごしていたが結局何にも集中する事が出来ず2階に上がってきたばかりだがもう一度1階に降りて風呂に入りすぐ眠りにつく事にしたのだった。




