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第42話 台詞練習

 18時を回り部活が終わり、俺たちは校門の前で皆と別れると彩葉と2人で歩き始める。


 早速だが彩葉に頼まれていた演技指導を始めるつもりだ。


 その為とりあえず演技が出来そうな場所をスマートフォンの地図アプリで探してみると、近くに公園が見つかったのでそこに向かう事にする。


 時間で言えば5分の距離を歩くと人っ子1人いない静かな公園が現れた。


「へー、こんなとこに公園があったんだ」


 彩葉もこの公園に初めてくるみたいで物珍しそうに遊具を見渡している。


 俺たちはとりあえずベンチの方に移動してから2人で並んで腰をかける。


「それで何の演技を教えて欲しいんだ?」


 俺が一旦落ち着いてからそう聞くと、彩葉は学校の鞄の中から台本らしきものを取り出して渡してくる。


 俺はそれを受け取りペラペラ捲り始める。


 内容としては比較的王道の恋愛ドラマみたいだ。


「えっと、そのドラマのヒロインの友人役に立候補しようかなって思ってて……」


「なるほどな、名前は桜井美月(さくらいみつき)か。この台本見る限り主人公やヒロインほどではないけど、台詞数も多いしそれなりに重要な役っぽいな。結構倍率高いんじゃないか?」


「そ、そうだけど。でもやる前から諦めたくないし、あたしには湊がついてるでしょ?元天才子役様が演技指導してくれるなら行けるんじゃないかなって」


「まぁそうだな。普通であれば素人に毛が生えた程度の彩葉が受かる確率はほぼ0%に近いかもしれないがこの1ヶ月間俺の指導をみっちり受ければ楽に審査合格できるレベルになるだろうな」


「……相変わらず凄い自信」


「実際俺は自分より演技上手い人を見た事がないからな」


 俺は演技に関しては誰にも負けないという自負がある。


 だからこそここまでの自信を持つ事ができる。


 俺はベンチから立ち上がって彩葉の顔を覗き込む。


「最初に言っておく。俺の指導は厳しいぞ。ついてくる覚悟はできてるか?」


 少しだけ脅すような形で挑発すると、彩葉は覚悟を決めたような顔つきで「当たり前!」と元気よく返事を返した。


「よし、それじゃあ早速演技の練習始めてくか。今18時半くらいだから遅くても20時までだな。時間もあんまないけど、まずは発声練習からやるか」


 俺はスマホで時間を確認してからもう今日の時間があまり残されていない事を知るが、手抜きもしたくないので演技の基礎とも言える発声練習から始める。


「俺の後に続いて声を出して言ってみろ。あめんぼ赤いなあいうえお」


「あめんぼ赤いなあいうえお!」


 俺はその後も五十音の歌を順に言ってくのだが、思った以上に彩葉は声量があり驚いた。


 こんだけ滑舌が良くて、声量があるなら本当に演技指導だけで大丈夫そうだな。


「よし、発声練習はこんなもんでいいだろ。それじゃあ早速お前が立候補する予定の桜井美月の役の練習を始めるぞ。俺がそれ以外の役をやるからまずは声に感情を乗せる練習からしてみよう。声だけで感情を表されれば合格だ」


「ん、分かった。やってみる」


 彩葉はそう意気込む。


 その真剣な表情からはとても学校でギャルをしているようには見えず顔つきは立派な芸能人のそれだった。


 モデルをしているからかこういうことには一切手を抜こうとせず、真剣に取り組もうとする姿には好感が持てる。


 俺は彩葉の真剣な表情に笑みを浮かべてから、台本にある桜井美月以外の台詞を発する。


「やっほー、泰斗(たいと)くん。実はさ、泰斗くんに紹介したい子がいるんだよね」


 泰斗というのはこのドラマの主人公の名前だ。


 本名は皆川(みながわ)泰斗と言う。そして今俺が発した台詞はヒロインである槙野柚(まきのゆず)のものだ。


 この物語は最初は全然接点がなかった泰斗と柚がある日突然接点を持ってから徐々にお互い惹かれていくという話である。


 今練習しようとしているシーンは桜井美月の登場シーンであり、柚が泰斗に紹介する場面だ。


「へぇ、君が柚の話していた皆川泰斗くんか。あ、私桜井美月だよ、よろしくね」


「はいストップ」


「……?」


 彩葉が何故止められたのか分からないようで、頭をコテンと傾けている。


 俺はそんな彩葉にも分かりやすいように懇切丁寧に説明してやる。


「今のお前は確かに無難で良かったと思う。ただ無難すぎるんだよな。そんなんだと審査員の印象に残る事がない。だからこそオーディションで大事なのは印象付ける事だ。審査員をこの子は絶対取りたいと思わせれるようにしてようやく合格だ。試しに俺が声だけで演じてるみるから手本にしてみろ」


 俺の容赦ない言葉に対して彩葉は真剣な顔で頷き、食い入るように俺の顔を見つめる。


 その表情には鬼気迫るものを感じて俺から学べるものを全て学ぶという姿勢が見れる。


 学校での彩葉はみんなに人気者の陽キャって感じだが、こういう真面目なところを俺は好ましく思う。


 教える側としても不真面目な生徒より真面目な生徒の方が教えがいあるしな。


 俺は一旦息を吸って吐いてから台本に視線を落として桜井美月の台詞を発する。


「へぇ、君が柚の話していた皆川泰斗くんか!あ、私桜井美月だよ、よろしくね!」


 俺が普段は絶対出さないような軽快で弾むような声を出すと彩葉は目を見開いて驚いた様子を見せる。


「湊、すご!そんな声も出せるんだ!確かにあたしとは全然違うかも!よし、分かった!とりあえず湊の真似して練習してみる!」


 そう言ってから彩葉は最初の台詞だけを反復して練習し始める。


 別に俺の真似をする必要はないのだが、今の彩葉に水を差せる雰囲気ではない。


 最悪オーディションまでに彩葉だけの演技を身につければそれでいい。


 そう考えてベンチに腰をかけてから彩葉の演技に助言をするという行為を20時まで続けるのだった。

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