第41話 配役決め
先輩が何となくという風に黒板にスラスラとおおよその配役の名前を書いていく。
勇者に始まり、聖女、戦士、賢者、魔王、魔王配下の四天王、国王、王女……。
まあ今人気の勇者パーティVS魔王軍の主な重要な役を書き出したという感じだ。
「とりあえずこんだけ書き出してみたんだけど、他に必要な役ってある?もし何かあるなら意見欲しいかも」
そう言って先輩はみんなを見回すがここにはあまり漫画を読む人間が少ない事もあり、これ以上意見が出る事はなかった。
「よし、それじゃあこの中から立候補という形で配役を決めてこっか。勿論推薦もオッケーだからね」
「先輩、配役決めもいいんですけどとりあえず先に物語の内容を整理しませんか?じゃないと皆配役に立候補しようがないと思うんですけど」
先輩がノリノリで配役決めを行おうとしていたところ水を差す形で申し訳なく思ったが、俺は先に話の構成を決めるよう提案する。
「あ、そうだね。ごめんごめん。先に私の意見を述べさせてもらうと、変に凝った物語じゃなくて世界に害を与える魔王を勇者が討伐して最後は王女様と結婚するという王道に沿った物語にしようと思うんだけどどうかな?」
「へー面白そうじゃん」
「んね、あたしも賛成」
「あんま異世界?とかいうのはよく分かんないけどなんか楽しそうだからウチも賛成!」
彩葉、友里、陽毬の3人娘は先輩の思い描く物語の構成に対して速攻賛成の意を示している。
まぁ3人ともあまり深くは考えず賛成しているようだが、逆にその方が気が楽かもしれない。
海斗は先ほどから我関せずを貫いてるし、風間も「まぁいいんじゃないかな」と否定的な様子は見られない。
荒井に至ってはあまり何も考えてないのか「皆が賛成ならいいんじゃないか?」と口に出している。
そんな映研の面々の様子に先輩は満足気に頷きながら、再度配役決めを行い始める。
「それじゃあ各自やりたい役があったら言ってね」
「俺は魔王の配下四天王希望です」
俺は真っ先に手を挙げて言葉を発した。
まるで考える時間など不要とは言わんばかりの速さに皆驚いている。
そして次の瞬間荒井以外の人間から呆れたような視線を送られる。
「えー、湊勇者やってよ」
「嫌だ」
彩葉が何やら不満そうな顔をしながら言ってくるが、俺はそれを即拒否する。
映画の主人公などやった暁には少なくとも生徒会の目に止まる事になるだろう。
そうしたら俺の思い描く普通とは程遠くなる。
だからここは魔王の配下四天王という比較的モブな役をやらせてもらうとする。
そして俺は黒板に書かれている配役と映研のメンツの顔を見比べ頭の中で最適解を生み出し、それを言葉にする。
「勇者に海斗、戦士に荒井、聖女に陽毬、賢者に友里、魔王に先生、四天王に俺、先輩、彩葉、風間、国王も先生で王女にも彩葉でどうですか?」
「おい待て、何故私が入っている?」
俺が一息で何となくの配役を言い終わると、今まで黙っていた先生がようやく声を発した。
それに対して俺は全く悪びれる事なく堂々と行ってのける。
「そこはやっぱり顧問だからと言ってやらない選択肢はないですよ?」
「じゃあ何で魔王と国王なんだ?」
「ほら、やっぱり先生って威厳ありますし」
先生は少し納得行かないような顔して俺の顔を見つめていたが、何言っても無駄だと思ったのか抗議する事をやめ配役を受け入れた。
「何で私も入ってるの?」
今度は前方に立っている先輩にそう言われる。
「先輩が裏方専門な事は知ってます。でも人数的にも必要だったので今回だけお願いできませんか?」
俺は申し訳なさそうな顔を作って先輩に頼み込むとあっさりと「しょうがないなぁ」という感じで受け入れられた。
我が先輩ながらチョロかった。
他のみんなも特に不満とかあるわけでもなさそうで俺の一存によって配役決めは思ったより早く終わった。
その後は先輩は脚本に取り掛かると言ってノートにスラスラとシャーペンを滑らせ、先生は教師としての仕事を片付けていたが、それ以外のみんなでトランプやUNOをしながら遊んで過ごした。
なんていうか人数がだいぶ増えたが、この場所が心地いい事に変わりはない。
そう思いながら俺は残りの部活の時間をみんなと過ごすのだった。




