第39話 Eternal Mythology
放課後になり、俺は部室に向かうといつも通り聖先輩が早く来ており読書をしていた。
聖先輩曰く、良い脚本を書くには本を沢山読む必要があるらしい。
そして俺より何故か先にいる顧問の二宮先生も椅子に座って何やら作業をしていた。多分あっちは職員室にいたくないからこの部屋を利用しているのだろう。
俺は聖先輩には尊敬の視線を、先生には呆れの視線を送りながらいつもの席へと腰をかける。
もはや最近では部室に来る順番が大体決まっている。
先輩と先生が大体先にいて、その次に俺、そして3人娘が入ってきて最後に海斗という順番だ。
基本的に映研に活動日というものはないので最近ではいつも、参加できる人だけ来て遊んだり、駄弁ったりして過ごしている。
ちなみに3人娘も海斗も最近は映研に参加したいからという理由で平日の仕事量を減らしているらしい。
特に活動する事もないのに来てくれるというのはそれだけ4人にとっても居心地がいい場所なのだろう。
俺はそれが嬉しく思って少しだけ頬が緩んでしまう。
それだけに教室では風間以外と言葉を交わす事はないのが寂しく思う。
まぁ目立ちたくない俺にとってはその方がいいんだけど。
俺は他の皆を待っている間暇なのでスマートフォンを開き先週リリースしたばかりのオープンワールド系RPGであるEternal Mythology通称EMにログインする。
このゲームはざっくりと言うと異界に落ちた主人公が神々を仲間にして敵を倒したり探索したりするオープンワールドゲームだ。
キャクター育成にマップ探索、引き込まれるオリジナルストーリーなどやり込み要素は沢山ある。
またガチャから排出されるキャラクターが全部神話に登場する神様という事もあり名前から大体能力が分かりやすくなっている。
ちなみに今環境トップなのは水属性のポセイドン、闇属性のロキ、雷属性のトールだ。
俺は時間のかかるリセマラを行い、ポセイドンを手に入れる事ができた。
ガチャの確率が低い事もあり、何回もリセマラを行なってようやくゲットする事ができたのだ。
そんな久々にハマったソシャゲで敵を倒して主人公のレベルを上げていると外から元気のいい聞き覚えのある声が聞こえてくる。
どうやら3人娘がようやく来たようだ。
俺はゲームをやる手を緩めずに扉が開いた瞬間だけ目線をやってから、すぐにゲームへと視線を落とす。
どうやら6人でこの部室に来たようだ。
てか6人?
俺はもう一度視線を向けるとそこには3人娘に海斗、そして風間と荒井の6人が立っていた。
「あ、今日は沢山だね」
「……なんかガキが増えてんな」
また人数が増えたせいか先輩は目を丸くして驚き、先生は口を悪くしながら悪態をついている。
「あ、みな……」
「あれ星宮もう来てたんだ。隣借りるね」
彩葉が俺の存在に気づくと、すぐに駆け寄って来ようとしたが、それよりも早く風間が俺の隣を占領していた。
その様子に彩葉は少しむっとしながらも俺の反対側の隣に座る。
そしてその様子を二宮先生と荒井以外の4人が笑って見ている。
「あれ、星宮もEMやってるんだ。俺もこの前入れたよ」
俺のスマホを覗き込んできた風間はそう言ってスマホの画面を見せてくる。
「お、まじか。このゲーム面白いよな」
「めちゃ分かる!せっかくだしフレンドなろ」
そう言って俺と風間は手慣れた様子でフレンド登録を済ませる。
「にしても星宮ポセイドン持ってんの羨ましいな。俺1体も星5持ってないからさ」
「あーそりゃリセマラしたからな、俺。めっちゃ時間かかったぞ」
「だろうな。てかよくリセマラしたよな。あれ1回20分くらいでしょ」
俺のリセマラしたという言葉に対して風間は呆れたような目線を向けてくる。
まぁ普通の人はリセマラするメンタルないよな、と思いながら少しの間風間とEM談義で盛り上がる。
その様子を見ていたのか彩葉が何か面白くない表情をしながら俺の制服を引っ張ってきた。
「どうした?彩葉」
「……そのゲームって面白いの?」
「まぁ人によるかもしれないが俺は久しぶりにハマったゲームだな」
「ふーん、あたしもやってみようかな」
てっきり彩葉は興味本位で聞いてきたとばかり思っていたが、自分もプレイしてみると言い出すとは思わなかった。
てかギャルもソシャゲやるんだな。
「もしやるなら教えてくれ。このゲームはマルチ機能あるし俺も手を貸す事ができる。あ、もし1人でやりたいなら全然邪魔する気はないから」
俺がせっかくだし彩葉もやるなら一緒にやろうという意味で軽く口に出しただけなのだが、彩葉は思った以上に食いついてきた。
「え、マジ!?マルチあんの!?えーじゃああたしゲームとか全然分かんないし下手だから湊に手伝ってもらおっかな」
なんか急に顔が明るくなって調子に乗り始めた。
「風間もどうだ?今度3人でマルチしないか?」
俺はここで風間を誘わないのもなんだしと思って声をかけてみるが呆気なく断られてしまう。
「あー一緒にやりたいのは山々なんだけど俺は遠慮しとこかな」
風間が何故か俺の後方、彩葉の方に目を向けながら断ってきたが、彩葉の事が苦手なのだろうか?
俺は再度彩葉の方に振り向いて風間に振られた事を告げる。
「悪い、風間には断られたから俺と2人でもいいか?」
「えー全然いいよ!てか2人の方がいいし」
後半部分は聞き取れなかったが彩葉は凄く嬉しそうな表情をしながらそう言葉に出す。
なんか知らないけど彩葉と風間って仲悪かったりするのか?という邪推もしてしまうが、さっき部室に来た時はそこまでギクシャクしてなかったのでその線はないだろう。
俺はその後彩葉と一緒にEMする日だけ決めると、ようやくそこで先輩が口を開いた。
「はいはい、注目!えっと海斗くんから説明はしてもらったけど、とりあえず風間くんは正式入部、荒井くんはバスケ部との兼部って事でよかったよね?」
その言葉に対して風間と荒井の2人はコクッと頷く。
それを確認してから先輩は珍しく真剣な表情を作りながら言葉を発した。
「それじゃあ部員も増えたし、今日は全員いるという事で5月の短編制作映画の脚本と配役を決めたいと思います」
「5月の短編制作映画ってどういう事?」
先輩の言葉に疑問を持ったのか早速彩葉が質問を投げかけている。
「いい質問だね、七瀬ちゃん。実は生徒会に顧問報告した時に、廃部したくないのであれば定期的に活動報告する事って言われたんだよね。だからこれから月一で映画作る事になったからそういう事でみんなよろしくね」
俺たちは先輩のその言葉に頷き返し、その後すぐに話題は脚本と配役決めへと移っていく事になったのだった。




