第36話 家族の形
結局あのあとは彩葉と陽毬が貧民の座を巡る最下位争いを繰り広げ、他の5人が大富豪を狙うというなんとも奇妙な構図が描かれていた。
彩葉と陽毬は途中から平民にすらなれない事に気づき貧民の座を争ってる姿はなんとも滑稽という他ない。
3人娘の中でも友里だけは頭が回るようで2回も大富豪になっていた。
ちなみに俺は最初2回だけ大富豪の席を楽しんでいたが、3回目以降は唐突に勝てなくなり富豪と平民を行ったり来たりするばかりだった。
そんな楽しかった時は一瞬で過ぎ、俺たちはそれぞれ帰路に着く事になった。
家に帰るといつも通りルナがソファを陣取ってテレビを見ており、俺に一瞥するだけですぐテレビに向き直る。
相変わらずの嫌われようだ。
俺は少し気になったのでルナが興味深そうに視線を向けているテレビを見てみるとそこには彩葉と友里と陽毬の3人の特集がやっていた。
俺にとっての3人は最近仲良くなった部活仲間だが、やはり世間的にはモデルとして認知されているという事がよく分かる。
ルナは最近人気が出てきた女子中学生モデルだが、同じモデルとして彩葉たちが気になるのだろうか?
「……七瀬彩葉たちが気になるのか?」
俺はルナの隣に腰をかけて彩葉たちと知り合いという事はバレないように久しぶりに話しかけてみる。
それに対してルナはこっちに全く視線を向ける事なく答える。
「……別に。ただ七瀬さん達は今人気急上昇中のモデルだからチェックしてるだけ」
こういうところは昔からマメなヤツだ。
こいつは自分の為になる事ならば一切手を抜かないところは我が妹ながら尊敬できる部分である。
しかしそれよりも俺はルナに話しかけて無視されなかった事に驚いた。
最近のルナとはずっと険悪な関係が続いていたのでこれは改善するチャンスかもしれない。
「そう言えばルナ、映画出るんだってな。撮影はいつから始まるんだ?」
「はぁ?別にお兄ちゃんに関係ないでしょ。あんま私に気安く話しかけないで」
相変わらずの冷たい対応だ。
ルナとの関係を改善できると思ったのは錯覚だったかもしれない。
言葉で一刀両断された俺は仕方なくスマホを取り出して夕飯までの時間を潰す事にした。
しばらくして夕飯ができたのか母さんがテーブルに食器を運んでいるのが見えたので俺は立ち上がりそれを手伝う。
全ての食器を運び終え全員がテーブルに着席してからいつも通りの静寂な食事が始まる。
俺とルナは無言で箸を進めるが、その様子を眺めながら一切食事に手をつけようとしない母さんが口を開いた。
「ねぇ、ルナちゃん。もうそろそろ湊くんの事許してあげたら?」
やはり母さん的には俺と妹には仲良くしていて欲しいのだろう。
俺は望まれれば全然仲良くするつもりだが、ルナは俺に対して怒っているのでそれはとても難しい事だと思う。
「……別に許す許さない以前に私は怒ってないから」
ルナは箸を止めて母さんの目を見つめ返しながらはっきりと口に出す。
「でも……」
「……この話はおしまい。さっさとご飯食べよ」
母さんは何か言いたそうな顔をしていたが、妹が無理やり話を終わらせて再度静寂がこの場を支配する。
聞こえるのはそれぞれの食事をする音だけ。
俺はルナに一瞬視線を向けてからすぐに食事へと向き直った。
食事が終わり俺がソファで寛いでいると隣にルナが座ってきた。
俺が隣に座る事があってもルナがわざわざ俺の隣に座ってくるとは思わなかったので俺は驚きと疑問が混じった目線を向ける。
「……なに?」
ルナが俺の視線を受けて鬱陶しそうに見返してきたので俺は平静を装いながら答える。
「別にお前が俺の隣に座るなんて意外だなって思っただけだ」
「……あっそ」
そしてルナはまたもやすぐに興味を失ったように視線を逸らす。
昔、俺やルナが小学生の頃はこの家にももっと活気があった。
母さんはいつも笑顔で、父さんも遊び相手をしてくれて、兄妹仲も良くてまさに理想の家族とでも言うべき姿がそこにはあった。
しかし父さんの事故死から全てが変わってしまった。
母さんからは笑顔の数が減り、俺は芸能界から逃げるように一般人を目指し、ルナはそんな俺を嫌うようになった。
ルナは演技をしている俺が好きだった。
俺に憧れを抱いていた事も知っている。
それなのに俺は演技を辞めた。
そしてそんな俺に失望し会話する機会も徐々に減っていった。
今モデルを本気で取り組んでいるのは俺を見返す為なのだろう。また芸能界に引き戻す為にルナなりにアピールしているのだろう。
そんな事は兄妹だから分かる。
しかし俺は今はまだ芸能界に戻る気はない。
勿論ルナとの仲をやり直す方法として俺が芸能界に戻るというのが1番簡単だという事は分かる。
それでも俺は芸能界に戻る勇気が出ないのだ。
一旦頭の中を落ち着かせてから外へと目をやる。
窓の外には綺麗な夜空が広がっている。
絶対に手の届かない場所には三日月が佇んでいる。
そして一筋の光が横に空に流れる。
俺は目を閉じてその流れ星に向かって心の中で祈る。
いつか妹との関係が良くなりますように、と。
そうして夜も更けていくのだった。




