第35話 大富豪
まず初めにダイヤの3を持っていた陽毬がダイヤの3とスペードの3の2枚を同時に出す。
「うげ、いきなり2枚出しかよ。私2枚持ってねえんだよな。パスしかねえか」
そう言いながら陽毬の隣に座っていた先生が項垂れながらパスをする。
「へー先生2枚持ってないんだ。それじゃあ今回はウチ勝っちゃうかもね」
そんな項垂れてる先生の様子を見ながらここぞとばかりに陽毬が煽っていく。
「何言ってんの陽毬。大富豪ではあたしが勝つから」
陽毬の発言に異を唱える為か彩葉が言わなくても良い事を言う。
それに対して陽毬は彩葉の方に振り向いてむぅと頬を膨らませて対抗し、彩葉も陽毬の方を向きながら睨みつけている。
お互いバチバチと視線がぶつかり合ってる様子に俺は呆れという感情しか出てこない。
隣の海斗も苦笑いしながら突っ込む事はせず落ち着いて6の2枚を3の2枚の上に静かに置く。
前のギャル2人と隣のイケメンでは今纏っている空気が完全に違う。
3人とも普段は陽キャとして明るい空気を纏っているが今は前の2人の周りにはドス黒い空気を感じる。心なしか2人の背後には龍と虎が見えるような気もする。
それに対して隣の海斗は光り輝いており周りの空気も澄んでいる。見せる笑顔には男である俺も惚れてしまいそうなくらいだ。
まぁそんな事は置いておいて今は俺の番なので落ち着いて9の2枚を繰り出す事にした。
次は先輩の番だが先輩も大きい数字の2枚は持ってないようでパスをして友里へと順番が回る。
友里はKの2枚を出して、その後の彩葉がパスをして1周目が終わった。
今1番上にあるカードはKの2枚なのでAか2かジョーカーの2枚しか出す事はできないし、そもそも7人でやった場合2枚揃ったカードが手札にある確率は低い。
その上どれも切り札になり得るカードな為初手で出せる勇気を持つ人間はそういないだろう。
なのでKの2枚を出した友里は全員パスして次自分が親でスタートできると確信しているのか少しニヤついている。
実際彩葉から始まり陽毬、先生、海斗は順にパスと言葉を口にしている。
そして順番通り俺の番がやってくるが俺はチラッと友里の顔を見てからAの2枚を出す。
そしてもう一度友里の顔を見ると口を開けたまま固まっていた。
「な、な、な、な……」
まるで壊れたロボットのようだ。
開いた方が塞がらないとはこの事を言うのだろう。
俺はまだ1回場が流れただけなのだが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「なんでAの2枚出せるわけ!?普通もっと取っておくもんでしょ!」
友里はバンッと立ち上がり抗議してくるが俺は全く気にせず飄々とした態度を取る。
「さぁなんでだろうな?」
「あ、まさか2とかジョーカーとかまだまだ強いカード持ってるんでしょ!?」
「さぁどうだろうな?」
「うっざ!」
俺ののらりくらりとした態度がムカついたのか友里は吐き捨てるだけ吐き捨てて再度着席する。
友里が席に座るのを見届けてから俺は場を流して5の1枚を手札から出すのだった。
それから10分ほど経った頃だろうか。
ようやく短くて長い戦いに決着がついた。
「やっと上がれた!」
最後の勝者と言ってもいいのかは怪しいが、とりあえず6位の彩葉が最後に上がって全員の決着がついた。
唯一の敗者となったのはまさかまさかの陽毬だった。
これには彩葉以外の全員が憐れみの目を向けるしかなかった。
今回大富豪を始めるきっかけになったのは確か陽毬だったはずだ。
結構大富豪の自信がありそうだったのにこんな惨敗した惨めな姿を見る事になると誰が予想できただろうか。
ちなみに大富豪になったのは俺だ。やはりジョーカーなかったにしてもそれなりに強い手札だった事から必然とも言える結果だ。
次に富豪の座についたのはまさかの友里だった。友里はそこまでゲームが苦手なわけでもないらしく彩葉と陽毬に比べて好成績を残した。
そして驚いたのが平民の3人に選ばれたのが二宮先生、聖先輩、海斗だった事だ。
さっきの神経衰弱ではトップ争いをしていた3人が全員平民になるとは思わなかった。
5位の海斗は相変わらず笑顔を向けているが、3位の二宮先生と4位の聖先輩は悔しそうな表情をしている。
「もっとカードさえ良ければ私が勝ってたのによ……」
先生に至っては何やら子供みたいな悪態をついている。
この人には教師としての自覚があるんだろうか?
「むぅ……今度は絶対勝つもん」
先輩は先輩で頬を膨らませながらこっちを睨んできている。
俺はそれに対して可愛いとでも言えば良いのだろうか?
まぁそんな事を思ってるうちに陽毬がトランプをシャッフルして配り始めている。
これが悲しい事に大貧民の義務というヤツなのだ。
なんかもう陽毬を見ていると可哀想に思えてくるが、この場に同情はいらない。
彼女はれっきとした敗者なのだ。
そして2ゲーム目が始まる。
今回は全員が座る位置を交換して大富豪、富豪、平民、貧民、大貧民の順に座り直した。
俺は左隣に移動して右隣には友里が座った。
なんかめっちゃこっちに視線向けてきてるけど無視するとしよう。
目の前にはやる気だけはある陽毬が座っている。
よく考えてみれば今俺は陽キャしているのではないだろうか。
映研のメンツは先輩以外陽キャだし、部室でトランプをする事になるなんて入学当初は考えもしなかった。
小学校と中学校でまともに友人を作れなかったからか今この瞬間がとても楽しいと感じている。
いつの間にか陽毬もトランプを配り終えたようで俺は手札を大きい数から小さい数を順になるように並べ替えて、いらないカード2枚を陽毬に渡す。
陽毬もちょうど同じタイミングで手札を並べ終えたようで泣く泣く2枚のカードを手渡してくる。
めちゃくちゃ惜しそうな表情をしてきたものだから何かと思って見てみれば2とジョーカーという強力なカードを渡してくれた。
俺は今日何度目かになる同情の視線を陽毬に向けながら貰ったカード2枚を1番右に加える。
そして誰の合図があることも無く大貧民である陽毬がカードを出した事によって大富豪2戦目が始まったのだった。




