第30話 赤羽友里と如月陽毬
無事にバイトの時間を終えて、俺は今彩葉の正面に着席している。
左前には如月さん、隣には赤羽さんが座っており目の前には自分で淹れたホットコーヒーが置いてある。
遠くからはまだ仕事中の紗希先輩と安城先輩がニヤニヤしながらこちらを伺っている様子が見える。
何故俺がこんなに居心地悪い思いをしなければならないのか訳が分からないまま静かに時間だけが過ぎていく。
誰も口を開かないまま5分ほどが過ぎるとようやく彩葉が静寂を破った。
「……それであの店員さんとはどういう関係なわけ?」
何故いきなりそんな事を聞くのかと疑問に思ったが、隠すような事では無いので正直に答える。
「別にただの先輩だけど」
「……それだけ?」
「ああ、それ以上でも以下でもない。そもそも俺はまだバイト始めて4日目だし、バイト内での関係を構築するのに苦労しているところだ」
「……ふーん、そうなんだ」
何故かは分からないが、少しだけ彩葉の機嫌が良くなったなら良かった。
彩葉の友人の2人もほっとため息を吐いている。
「それで本題は何だ?俺と先輩の関係を聞きたかっただけじゃないだろ?」
俺は流石に焦ったくなったのでこちらから確信をつく事にした。
正直俺と先輩について聞きたいだけならゴールデンウィーク明けてから学校でもできる事だ。
今日1時間弱待ってまで話す事ではない。
俺は確信を持った目で彩葉を見つめると彩葉は逆に呆れたような顔をする。
「……なんていうか湊って鋭いようで鈍感だよね。普通にあたしが湊と話したいだけとは考えないわけ?」
「……俺みたいな陰キャと話したいなんて思わないだろ普通」
俺は少し自虐気味に言う。
実際普段の俺は地味な眼鏡をかけていて髪の毛も適当で正直好かれる見た目をしているとは思えない。
彩葉は俺の正体を知ってるとは言えやはり今の見た目では抵抗感を覚えられても仕方がないと思っている。
しかし彩葉は首を横に振りながら何故か俺を擁護するような発言をする。
「まぁ湊が自分の事をどう思ってるかは分からないけどさ、少なくともあたしは湊の事好きだよ。それに演技してる時とかはめっちゃ格好いいし」
少し頬を赤めながら言う彩葉に俺も伝染したかのように顔が熱くなるのを感じる。
俺はこのままでは話が進まないと思い、話を逸らす意味も込めて本題を聞く。
「……それで本題は?」
「え?ああ、そのさ、友里と陽毬も映研に入る事になったから」
「……え?」
俺は彩葉の言葉の意味を一瞬理解できず、間の抜けたような声が出る。
「だから、この2人もゴールデンウィーク明けから映研の活動に参加する事になったから一応伝えとこうかなと思って。一応2人ともあたしと同じ事務所でモデル活動してるから撮影慣れはしてるよ。演技は分からないけど多分それなりにはできると思う」
なるほど。
俺としても部活のメンバーが増えるのは大歓迎だ。
そう思い2人に視線を向けると2人はニコッと可愛らしい笑顔を向けてきた。
「とりまそういうわけだからよろしく、湊」
「よろしくね!湊っち!」
「あ、ああ、よろしく、赤羽さん、如月さん」
俺はいきなりの名前呼びに戸惑ってしまう。
やはりギャルは距離を詰めるのが早いようだ。
俺には到底真似できないのでこちらは苗字で呼ばせてもらうとする。
しかしそれに対して納得いかなかったのか如月さんがチッチッチッと1本立てた指を振ってから指摘してくる。
「ウチらが名前で呼んでるんだから湊っちもウチらの事名前で呼ばないと!彩葉の事も名前で呼んでるみたいだしさ、そんな抵抗はないよね?」
「確かに陽毬の言う通りかも!湊もあたしらの事名前で呼んでみなよ」
いきなり無理難題を要求してくる。
普通名前呼びって結構親しくなってからするものなんじゃないのか?
彩葉もそうだったがギャルと一般人では価値観が若干異なるようだ。
俺は仕方なく思いながらギャル2人に押される形で2人の事を名前で呼んでみる事にする。
「……友里、それに陽毬、これでいいか?」
俺がそう言葉を発すると2人とも満足いったように頷く。
そして相変わらずの笑顔のままスマホを取り出す。
「とりまレイン交換しよ!湊」
「それ賛成!ウチとも交換しよ!」
その後は友里と陽毬に押されるままレインを交換し、すぐ解散する流れになった。
2人と会話をしている最中、彩葉からは同情するような視線をもらったがここまで気軽に話せる女子が今まで少なかったからか新鮮な感覚を味わう事ができた。
これで部員は6人、ゴールデンウィーク明けには早速顧問を見つけなきゃならない。
アテのある先生を1人だけ思い浮かべる事ができたが顧問を引き受けてくれるかは分からない。
できれば顧問を引き受けてほしい、そう思いながら俺は帰路につく事にしたのだった。




