第28話 生徒会
「ヤバ、めっちゃ緊張するんだけど」
「……大丈夫だよ、きっと大丈夫」
「そうだな、もうあとは構えてるだけだ」
俺たち映画研究部は今生徒会室の扉の前にいる。
中から生徒会と思わしき人間の声がするためこの扉を開ければ即相対する事は間違いないだらう。
「……よし、皆行くよ?」
先輩が緊張した面持ちで皆に問いかけて俺たちはそれに頷いて答える。
そしてついに生徒会室の扉を奥に押して開いた。
「たのもー!!!!」
聖先輩の掛け声に合わせて俺たち3人は生徒会室に押し入る。
生徒会室に足を踏み入れるとそこには4人の生徒が座っていた。
おそらく会長、副会長、書紀、会計の4人だろう。
「お、中々面白い子たち来たじゃん」
まず初めに眼鏡を掛けた見た目がチャラそうな男子が声を上げる。
「え、何の用っすか?面白い事なら大歓迎っす!」
次に茶色のショートヘアをした活発そうで小柄な女子がニヤニヤしながらこちらを見る。
「はぁ、一体何なんだい?君たちは。用件があるなら早急に済ませ給え。僕たちの時間は有限だからね」
それからいかにも王子様然とした顔立ちのイケメン男子が鬱陶しそうに視線を向けてくる。
これが生徒会か。
なんかキャラ濃そうなのがいっぱいだな。
そして1番奥にいるのが生徒会長様か。
水色の髪の毛を靡かせ、少しキツイ印象のある顔立ち。なんていうか真正面から対峙したらこちらの全てを見透かされてるように思えて少し恐怖を感じた。
これが青嵐高等学校生徒会長、西園寺有栖。
学業運動共に学年1位であり1年生時に生徒会長に選ばれ、2年生でありながら生徒会長を務める秀才。
先日聖先輩に軽く生徒会長の様子を教えてもらったが、これは確かに他の人とは違う雰囲気を纏っている。
「そろそろ来る頃だと思っていました。映画研究部部長、花園聖さん?」
直接声をかけられた先輩は少し後退りし始めていてまさしく頼りない。
俺は聖先輩の様子にため息をついてから前に歩み出て机にドンと手を置く。
それを見ていた生徒会全員がピクっと肩を動かす。
ここは完全にアウェイの敵地だ。
気持ちの面でやられていては話にすらならない。
だから俺は先輩の代わりに口を開くことにした。
「生徒会長、あんたが要求してきた映研存続の為の映画を完成してきた。だからさ、映研を潰すかどうかはそれを見てから決めてくれ。まだ人数も全然だし顧問もいないしでクオリティとしてはそんなに高いとは言えない。でも今できる限りの力を持って取り組んだつもりだ。だからどうか見てから判断してくれ」
俺はそう言って頭を下げる。
廃部にしようと思えば生徒会はいつでも部活を廃部にする事ができるくらいの権限を持っている。
なのであくまで俺たちは頼む立場だ。
隣で先輩も俺に合わせる形で慌てて頭を下げ、後ろでは海斗と彩葉も続く形で頭を下げる。
俺たち映研の様子に生徒会長西園寺有栖は少し驚いた様子を見せてからゆっくりと視線を動かし眼鏡の男子へと指示を飛ばす。
「……秋山さん、スクリーンの準備を」
秋山と呼ばれた男は少し目を見開いてから笑みを浮かべて「はいはーい」と適当に返事を返して大画面が映るスクリーンを出す。
そして聖先輩がその秋山という生徒の近くに駆け寄ってからPCを繋げる操作を始める。
「……菊池さん、椅子を出してあげて」
「了解!会長!」
菊池と呼ばれた活発な女子生徒は西園寺生徒会長の指示を受けて端に積んである椅子を4つだけ持ち扉付近に並べる。
俺たちは各自感謝を口にしてから腰をかける。
しばらく静寂が生徒会室を支配していたが準備ができたのか先輩が生徒会の面々に向けて軽く頭を下げてから俺の隣の椅子に腰をかける。
それと同時に秋山が生徒会室の電源を消して上映が始まる。
俺たち映研の部員も先輩以外は完成品を知らない。
チラッと横を見ると先輩は緊張した面持ちでスクリーンを見つめている。
生徒会の面々に目を向けると皆見入ったように画面を見つめていて思ったより手応えはいいかもしれない。
俺も思ったより先輩の編集技術に驚かされた。
もう今にでもプロになれるのではないかと思うほどに卓越した物であった。
そして短くて長い時が終わる。
映画の上映が終了し、秋山が電気を点ける。
誰も何も話さない。
この時間が1番怖い。
俺たち映研部の部員たちは全員で生徒会長の方を見る。
生徒会長は目を開き生徒会役員全員を見回す。
「皆さんにお聞きします。映画研究部の存続について。この映画を見て映画研究部が廃部する事に賛成の人」
シーン。
誰も手を挙げない。
つまりはもうほぼ廃部を回避できたという事だ。
俺たちの表情は明るくなる。
「……では反対の人」
生徒会長の次の言葉に生徒会全員が手を挙げる。
「いやぁ、驚いたよね。まさか映研があそこまでの作品を作れるとは。編集技術も凄いけど3人の演技にも目を見張る物があったよね」
「うんうんうんうん。なんていうかたった4人であれだけの物作れるんだからもっと人数集まったらさらに凄そうっすよね。文化祭の時とか楽しみにしてるっすよ」
「……最初はただ無駄に時間をしているだけの部活だと思っていだけど、中々にやるじゃないか。見直したよ」
生徒会の面々の言葉に俺たちは嬉しさが込み上げてくる。
聖先輩と彩葉は喜びを分かち合ってお互いに抱きついたりしている。
俺と海斗は拳を突き合わせてお互い笑みを向ける。
そんな俺たちの様子を途中まで傍観していた生徒会長が口を挟む。
「今回の映画には私も驚かされました。短編と言えどこれほどの映画をあなた達に作れるのだと。ですが、慢心はしないでください。あなた達を一旦は認めますが、そもそも顧問がいない部活なんて話になりません。早急に顧問の先生を見つけてください。そうじゃないとすぐ廃部にします」
生徒会長の冷徹な視線が俺たちに突き刺さる。
俺たちはコクコクと頭を上下にしながら頷く。
次の問題は顧問探しか。
でも今日に限っては部活を存続できるこの喜びを噛み締めてもいいのではないだろうか。
そうして俺たちは生徒会の面々にお礼を言ってから生徒会室を後にするのだった。




