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第26話 映画完成

 場所は変わらず映研の部室。


 俺、海斗、彩葉の3人はそれぞれ衣装に着替えてから再度部室に集まった。


 結局前回はヘンゼルが牢に入れられ、グレーテルが働かされるシーンまで撮影した。


 なので今日はその続きである魔女がヘンゼルを食べようとしてグレーテルに(かまど)に入れられるシーンの撮影をする。


「ちょっとカメラの準備するから待っててね」


 俺達は各自スタート位置について先輩の合図があるまで待機する。


「……よし。それじゃあ撮影開始するね!アクション!!」


 今まで先輩はカットの掛け声は使っていてもアクションの掛け声は使っていなかった。


 何の心境の変化があったのかは知らないが、もしかしたら俺たちの事を役者として認めてくれたのかもしれない。


 そうであるならば少し嬉しい限りである。


 俺はそう思う事にしてとりあえず目の前の演技に集中する。


 目の前ではグレーテルが竈に火を起こしてるようなフリをする。


 実際には竈も段ボールによる作り物で、火なんかも全く出てないのだが彩葉の演技は本当にそこで火を起こしているのかと思うほどに自然であった。


 あんなに演技をする事にトラウマがあった彩葉だったが、やはり演技の才能があったのか相当な上達を見せている。


 彩葉のこの成長に嬉しさを感じざるを得ない。


 俺はその近くにゆっくりと歩み寄り決められた台詞を言葉にする。


「そうそう、ご馳走を料理する前に、パンを焼かなくちゃ。パン焼き窯はあっためてあるし、粉もこねてあるし……」


 そしてチラッと横のグレーテルに目をやる。


「さあ、竈の中へお入り。もうパンを焼くのにいいかどうか、試すんだから」


 そう言いながらグレーテルを竈の前へと突き出す。


 演技とは言え彩葉の首根っこを掴む事に少し抵抗あったが、これは演技と割り切って思いっきり前に突き出した。


「どうやって竈の中へ入ればいいのでしょう。教えていただけるでしょうか?」


 グレーテルはそう申し訳なさそうに目を伏せる。


 俺は少し間を空けてから、手本を見せるように四つん這いになり竈の中へと頭を突っ込むフリをする。


「馬鹿な子だね。竈の口は、こんなに大きいじゃないの。ほら、私だってちゃんと入れる」


 俺が台詞を言い終わると同時に結構容赦ない1発が俺の尻に叩き込まれる。


 つまるところ彩葉によって尻を蹴られたのだ。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!」


 俺は悲鳴を上げながらこの場を退場する。


 この辺は聖先輩の編集で上手く竈の中へと俺が姿を消したように見せてくれるはずだ。


 そして主役の2人の掛け合いが始まる。


「ヘンゼル!助かったのよ私たち!あの魔法使いのおばあさん、死んじゃったわ!」


 ヘンゼルは囚われていた牢からグレーテルの手によって解放されてお互い喜びを分かち合う。


 それからは2人してそこら辺にある宝物を詰め込めるだけ鞄に詰め込んでから魔女の家を後にする。


 ちなみに宝物とは全て小物であり、おそらく過去の映研部の人たちが制作したであろう物を貸してもらったのだ。


 この映画は2人が魔女の家を後にするシーンで終わる為ここで終了だ。


「はいカット!!」


 先輩がようやく終わりを告げる事によってこの映画の撮影が終了した。


 俺が2人に視線を送ってみると海斗は結構納得行ってる様子だったが、彩葉の方がどうも自分の演技に納得行ってない様子だったので俺はさりげなくフォローしておく。


「そんな顔しなくても俺は良かったと思うぞ、彩葉の演技」


「ありがと湊。でもやっぱり湊や天童くんほど演技上手い自信ないしやら直した方が……」


「いや俺は結構好きだけどな、彩葉の演技。彩葉には彩葉の良さがあるんだから他人と比べる必要ないんじゃないか?」


 このままだとまたリテイクしそうな流れだったので俺は彩葉の事を出来るだけ褒めて一発で終わらせるよう誘導する。


 カメラ付近にいる先輩なんかは彩葉の一言一句に対して少し体をビクビクしながら気にしてるし。


 まぁこの映画制作中のリテイク数は凄かったからな。


 それに付き合わされた先輩からしたら相当疲れたのだろう。


 俺は先輩に同情の視線だけ向けてから再度彩葉へと視線を戻す。


「……そっか。湊はあたしの演技が好きなんだ」


 少し頬を染めた様子の彩葉はどこかニヤニヤした表情でこちらを見てくる。


 俺はそれに対して自信持って頷く。


「ああ、彩葉の演技は魅力的だと思うぞ俺は」


「……ふーん、そっか……えへへ」


 まぁどうやら彩葉も嬉しそうなので良いのだろう。


 これで最後の撮影も無事終了した。


 俺が先輩に視線を向けると先輩は大きく頷いてから言葉を発する。


「うん、これで全ての撮影は無事終了したね。週末前に終わったからこの土日の間で私が編集して週明けに生徒会に見てもらうつもり」


 先輩が少し不安そうに顔を伏せたので俺は、いや()()()はそれぞれの言葉で声をかける。


「俺も少しこの部室に愛着湧いて来たんでそう簡単に部活潰させませんよ」


「あたしだって最初は嫌々だったけど、今ではちょっと無くなっちゃ困る居場所だしきっと大丈夫だって!聖先輩!」


「僕もこの場所は結構心地よく思っています。なのでたとえ何言われても生徒会に直接文句言ってやりますよ」


 俺たち3人の言葉を聞いて聖先輩は少し目を潤ませている。


「みんな……まだ3週間も経ってないけどこの部活の事をそんな風に思ってくれて嬉しいよ、ありがとう。絶対に最高の映画に編集してくるから生徒会の連中を黙らせよう!」


 俺たち3人は先輩のその言葉に笑顔で応える。


「「「はい!」」」


 そうして俺たちは元気よくハイタッチを交わすのだった。

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