第25話 2人きり
バイトで俺が部活を休んだ日から1日空いて休日前の金曜日。
今日は月曜日以来全員参加できるようで俺は早くも映画研究部の部室に来ていた。
火曜日は海斗と彩葉が仕事、水曜は俺がバイト、そして昨日は彩葉が仕事だった為この3日間映画制作が全く何も進んでいない。
来週の水曜日からゴールデンウィークに入るのでできれば今日中に完成させて来週の月曜日には映画を提出したい。
前に聖先輩に聞いた時、部活を廃部させる権限は生徒会が持っている為生徒会に納得してもらわなければいけない。
俺は改めて時間が少ない事を実感するが、まだ誰も来てないので小説を読みながら他の部員を待つ事にする。
しばらく1人で待っていると、まず最初に彩葉が部屋に入って来た。
「こんにちはー。あれ?湊1人?先輩いないなんて珍し」
彩葉は辺りをキョロキョロしながら先輩いない事に対して疑問を抱いている。
というのも今までは絶対にあの人が1番最初に部室に来ていたし、あの人がいない部室というのは少し違和感を感じる。
彩葉は先輩いない事を認識してから「ふーん」と少し嬉しそうに口角を上げる。
「じゃあ今は2人きりだよね?湊」
別段否定する必要もないので俺は彩葉に視線を向ける事なく肯定する。
「そうだな」
「むー、ちょっと、今2人なんだけど?こっち向いてよ湊」
俺の反応が冷たいからか彩葉は頬を膨らませながら腕を掴んでくる。
残念ながら陽キャ女子という生き物は人を揶揄う生き物なのだと紗希先輩で学んでしまった。
だから例え女子にこんなに触られたとしても俺の心が乱れる事は断じてない。
俺が腕を掴まれても全く意識を彩葉に向けないからか彩葉は強硬手段に出てきた。
俺は一瞬頭が追いつかない状態に陥る。
背中に当たる女子特有の柔らかい感触。
それと同時に微かに香ってくる香水の匂い。
何故か彩葉は俺を後ろからハグして来た。
何してるんだこいつは。
俺は流石にこれを無視するわけにいかず少し声を低くして問い詰める。
「……どういうつもりだ?彩葉」
その問いに対して彩葉は俺から離れようとはせずに答える。
「だって湊が無視するからじゃん」
まぁ彩葉の事を適当に扱ったのは事実だが、こんな手段に出られるとは思っていなかった。
俺は観念したように彩葉の方を振り返る。
「……分かった。これからはちゃんと相手をする。だからこういう事はやめろ。俺だから大丈夫だったものの他の男は多分勘違いするぞ」
「……別に誰にでもやるわけじゃないし。湊だからやったんだし」
なんか急に小声になったせいで彩葉の声が聞き取りにくい。
「なんて言った?」
俺は本当に聞こえなかったので彩葉にそう聞き返したのだが、彩葉はクスッと微笑みながら言葉を発する。
「んー湊のばーかって言ったんだよ」
さてはこいつ反省してないな。
俺は呆れた目線を彩葉に向けるが、そんな時だった。
部室の扉が開いて聖先輩と海斗が入って来たのは。
「えっと……たまたまそこで先輩と会ったから一緒に来たんだけど……」
「……え?なになに?どういう状況?」
そう、今の俺は彩葉に後ろから抱きしめられた状態でいる。
側から見ればそれは仲睦まじいカップルに見える事だろう。
俺はここはきっぱり否定しておかなければと思い、彩葉の腕を解いて立ち上がる。
「誤解ですから。俺と彩葉はそんな関係じゃありません」
俺はきちんと否定するつもりでそう言ったのだが、2人の反応は思ったのと違った。
「それは分かってるよ湊。でもニヤけずにはいられないかなこれは」
「いやー青春してるね君たち」
なんていうか海斗はニコニコしながら俺たち2人のことを見つめてきて、聖先輩からは暖かい視線を感じる。
「……そんな事よりもうそろそろ映画完成しないとヤバいですよ。残りのシーンの撮影始めましょ」
俺は何だか気恥ずかしくなり、バレバレだとは思うが無理やり話題を逸らした。
3人とも映画の撮影に関しては賛成なのかこれ以上先程の出来事には突っ込む事はせず、最後の映画の撮影が始まったのだった。




