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第18話 トラウマ

 俺はバイトからの帰り道を歩いていると偶然物陰に隠れている七瀬彩葉を見かけた。


 アイツは一体あんなところで何してるんだろうか?

 

 まぁモデルとしてそれなりに有名な為黒い帽子にグラサンを掛けて変装はしているようだ。


 一瞬声をかけようが迷ったが知らない顔ではないし声をかけてみる事にする。


「よ、七瀬」


「ひゃあ!」


 俺は結構軽い感じで後ろから肩をポンッと叩いただけなのだが、思った以上に彩葉に驚かれてしまう。


「あ、湊か。ビックリしたぁ。驚かさないでよ」


 彩葉はこっちに振り向いてから文句を垂れる。


「勝手に驚いたのはそっちだろ。こんな所で何やってんだ?」


「あ、別に。何でもないから気にしないで!じゃあね!また学校で!」


 そう言って彩葉は手を振りまた元の方向へ向き直り、全くその場から動く気配がない。


 俺は仕方なしと思いその場で彩葉に並び彩葉の視線の先を追ってみる。


「あの女子3人組となんかあるのか?」


 彩葉の視線の先にいたのはいかにも遊んでそうな派手な見た目をしたギャル3人組だった。


 なんていうか彩葉くらいのギャルなら全然いいのだが、あそこまで派手だと逆に下品で俺は苦手なタイプだ。


 彩葉は俺に対して話そうかどうか少し逡巡していたが、決心がついたのかこっちを振り向いて口を開いた。


「ま、湊にならいっか。あたしの過去も話したわけだし。それで実はね、この前話した過去と関係あるんだけど、あの3人ってあたしと同中なんだよね。元からあたしの事嫌いだったみたいでさ、あたしが文化祭で劇失敗させてから露骨に当たってくるようになったし。まぁあたしにも仲良かった子が沢山いたから中学時代は何とかなったけど、1人だったらあの3人にいいようにイジメられて病んでいたかも。そんだけの話」


 なるほど、この前は省略していた内容か。


 コイツのクラスでの姿を見ていれば人生勝ち組で悩みなんかなさそうなイメージがあるが、コイツも結構沢山悩みを持っているんだな。


 そこで俺は彩葉の背後に件の3人組が距離を詰めている事に気づき目を細める。


 彩葉はその存在にまだ気づいていないようだ。


「つまんない話聞かせてごめんね!すぐ忘れていいから!」


 彩葉は俺を気遣ってかそう言葉をかけてくれるが、俺は我慢ならず言葉を発する事にした。


「……おい彩葉、後ろを向いてみろ」


「え?」


 彩葉は何の疑問も持たずに俺に言われるがまま後ろを振り向く。


 そしてその存在を認識し数秒間固まっていたが、状況に頭が追いつくと今日二度目となる「ひゃあ!」という悲鳴を発した。


「随分なご挨拶じゃん、七瀬ちゃん?」


 3人の中でリーダー格と思わしきギャルが口を開く。


「え、三輪さん、いつの間に……」


「はぁ?んなのどうでもいいじゃん。てかさ、そっちは彼氏?」


 三輪とかいうリーダー格のギャルは気怠そうに髪を指でクルクル巻きながら俺の事を顎で指してくる。


「え、それは違うけど……」


「ふーん、まぁどうでもいいけど。じゃああんたは知ってるわけ?七瀬ちゃんが中学2年の時の文化祭で大失敗した事。なんかさ、顔がちょった良いからって普段調子乗ってたくせに全員で作った演劇を台無しにしたとかありえんくない?あんたさえいなければ成功してたのにね。あんたもそう思わん?それに普段からだって……」


 こいつはよく喋る女だな。聞いてもない事をペラペラと。


 正直不快以外の何物でもないし、俺に向かって彩葉の悪口を言って何をしたいのか理解ができない。


 それに三輪以外の2人もたまに三輪の話に相槌を打って賛同を示している。


 ……本当にこいつらは何したいんだ?


 それに何よりたかがそんな事程度で俺が彩葉から離れるわけはない。


 三輪とかいうよく喋る女の話を半分無視しながらチラッと彩葉の方を見てみるともう完全に目を伏せていた。


 今彩葉はトラウマそのものと向き合っている状態なのだ。


 というよりこれは完全にこいつらのせいでトラウマ植え付けられたようなものだな。


「……って事もあったんよね。こいつ普通にヤバない?」


 しばらくすると三輪とかいう女もようやく落ち着いてくれて、俺に共感を求めてきた。


 だから俺はそれに対して彩葉を守るためにも一歩前に出て少し怒りを滲ませたような声を発する。


「……で?」


「え?だからそいつとは仲良くしない方がいいって教えてあげてんだけど?まぁ確かに見た目はいいから騙されやすいかもしれないけど性格クソ悪いから付き合う相手を選んだ方がいいよ」


「へぇ、俺からしたらお前らの方が性格クソ最悪に見えるけどな」


 俺が何も取り繕う事なくただ思った事を吐くと三輪の顔が歪んできた。


「はぁ?あんたさ、あーしらが有難い助言あげてんのにそれ無視するわけ?絶対後悔するよ」


「俺は残念ながら自分の目で判断するタイプなんだ。正直他人の持っている情報なんてどうでもいい。お前らこそこんな所で無駄に時間使ってないでもっと有意義に過ごしたらどうだ?」


 俺は少しだけ馬鹿にしたように鼻で笑いながら三輪たちの事を煽る。


 三輪たちは顔に怒りを滲ませながら俺の事を睨んでくる。


「性格クソな奴は付き合う奴も性格クソなんね!マジで無駄な時間過ごしたわ!もう行こ!」


 そう言い残して三輪たち3人はこの場を去っていった。


 俺は後ろを振り向き彩葉と向き直る。


「彩葉、大丈夫だったか?」


 そう声をかけてみるが彩葉はどこかボーッとした状態で目に焦点があってない。


「どうした?彩葉」


 俺は彩葉と目を合わせるように顔を近づけると彩葉はハッとしてから顔を赤面して慌て出した。


「ち、近い!」


 本当なんだったんだ?一体。


 俺は彩葉から離れると微笑んでから安心させる為に頭に手を乗せる。


「もう大丈夫だ、彩葉。まぁまたアイツらに絡まれたら俺に連絡しろ。分かったな?」


「う、うん、ありがと。あ、あのさ!そう言えばまだ連絡先交換してなかったよね?映研のグルレイはあるけど」


「あー確かに交換してなかったかもな」


「グルレイから勝手に追加しといていい!?」


「あ、ああ全然構わないけど」


 どうしたんだろうか?さっきから彩葉の様子が少しおかしい。


 それからすぐにピコンッとズボンのポケットから音が鳴り、スマホを取り出して開くとレインで彩葉から『よろしく』と文字が入った可愛らしいアライグマのスタンプが送られてきた。


 俺はそれを見てふっと微笑んでからスマホをポケットに戻す。


「それじゃあまた学校でな、彩葉」


「うん、じゃあね湊」


 俺がそろそろ帰るかと彩葉に別れの挨拶だけしてこの場を後にしようとしたが、彩葉が少しだけ名残惜しそうに挨拶を返してくる。


 その彩葉の様子に少し疑問が生まれるが俺はあまり気にしない事にして結局すぐにその場を後にするのだった。

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