表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/132

第16話 歓迎会

 ファミレスに到着すると、店員さんにすぐに奥の4人席へと案内される。


 一応夕飯時のはずなのだがあまり混んではいないようだ。


 先輩が早くも窓側の席に座りメニューを広げる。


 俺も続くように先輩の向かい側に着席すると、即座に彩葉が「じゃ、あたしもこっち座る」と俺の隣に腰掛ける。


 その様子を見て一瞬目を見開いた海斗だったが、すぐに自分で納得した答えを出せたようで何故だか暖かい表情へと変わる。


 正面に座っている先輩もメニューから顔を上げて少しニヤけている。


 隣の彩葉は少し頬が火照っているようだが、俺はこの奇妙な光景に疑問を抱かざるを得ない。


 俺は気にしないようにしてもう1つあるメニューを広げる。


 ここはイタリアンのファミレスのようで、パスタを始めとしたピザやドリアなど思ったより品数が多い。


 俺はメニューと睨めっこしながら何頼もうか考えていると隣から彩葉が顔を近づけてきた。


「あたしにも見せてよ。湊は何頼むの?」


 俺は女子、それもとびきりの美少女の顔がすぐ近くにあるからか少し自分の顔が赤くなっていくのを実感する。


 しかしそれが彩葉にバレないように少し顔を逸らしながら彩葉の問いに応える。


「……俺はナポリタンかカルボナーラで迷ってる」


 俺はなんとか応える事ができたが前の2人のニヤけ(づら)に少しムカついてくる。


「ふーん、あたしはミートソースドリアにしよっかな。あ、でもあたし全部食べれないかもしれないから余ったら食べてくれる?」


「あぁ、それくらいなら全然構わないぞ」


 この時は女子にとってはこれくらいも食べ切れないのか程度の軽い気持ちで頷いてしまった。


 それから先輩と海斗も注文内容が決まったようでピンポンを押して店員さんを呼び、1人ずつ料理名を告げる。


 ちなみに全員セットドリンクバーをつけている。


 店員さんが去った後全員飲み物を取りに行くために立ち上がる。


 俺はドリンクバーにつくと迷わずコーヒーマシンのところに行き、カップにコーヒーを淹れる。


 勿論ブラックだ。


 ブラック以外のコーヒーは邪道である。


 他のみんなを見てみると、先輩はオレンジジュース、海斗は緑茶、そして彩葉はメロンソーダをコップに入れていた。


 なんていうか全員が想像通りの飲み物を入れていて安心する。


 俺たちは席に戻ってから料理が来るまでの時間を過ごすのだが、悲しい事に誰1人口を開かない。


 まぁ全員が別のタイプの人間な為話が合わないのは仕方ないのだがそれにしても海斗や彩葉まで口を噤むとは思わなかった。


 先輩はちょっと困った顔してるし。


 俺は少し様子見していたが、このままだとただ気まずいだけなので空気を変える為に口を開く。


「そう言えば俺たちってあまりお互いの事知らないよな。てか俺も名前以外あんま知らないし。だからこの機会に関係を深めるのはどうだ?せっかく同じ部活の仲間になったんだ。仲良くならないなんて損だろ?」


「賛成!せっかくだしさ、お互いについての理解をもっと深めよ!」


 先輩が乗ってくれて良かった。


 俺は残りの2人を見渡すと2人とも賛成のようで触っていたスマホを裏向きにしてテーブルに置いた。


「それじゃトップバッターは言い出しっぺの湊くんよろしく!」


 先輩にトップバッターを任されたので俺は少し考えてから言葉を発する。


「そうだな、まず俺は演技する事が好きだ。演技では誰にも負けないほどの自信を持っている」


「へぇ、凄いね。でもあれだけ演技上手かったし納得かも」


「うわ、相変わらずの自信。……でもそこが格好良かったりするんだよね」


 海斗は感心したような俺の事を見てくる。


 彩葉は最後の方あまり聞こえなかったが、俺の自信に対してある意味尊敬の念を抱かれてる気がする。


「他だと小説読んだり、休日には少しだけ筋トレして過ごしてるな」


 俺がそう続けて言うと、先輩は俺の体をジロジロ見ながら「確かに湊くんの体引き締まってるよね」とぼそっと呟いていた。


 俺はそれを聞こえないふりしてもう自分の時間は終わりとばかりにコーヒーを飲み海斗に目を向ける。


 その視線に気付いたのか海斗は一瞬笑顔を見せてから話し始める。


「僕は基本事務所にいる事が多いし1人の時ってあんまり多くないんだよね。だから1人で過ごす時間ができれば、友達とゲームしたりスポーツしたりして遊んでるかな。なんかつまんなくてごめんね?」


 いやつまらないとかいうより陽キャすぎないか?


 彩葉は興味なさそうにふーんとだけ頷いているが俺と先輩は比較的陰キャよりな為海斗の眩しいオーラに目を瞑らざるを得ない。


 海斗は誰もあまり反応を示さないからか少し寂しそうな目をしたので俺はなんとか声をかける。


「友達とゲームやスポーツなんて羨ましいな。俺にはそんな経験ないから……」


 俺はそう素直な感想を言っただけなのだが、海斗は少し慌て始めて「じゃあ今度一緒に遊びに行こうか?」と誘ってくれた。


 持つべきものは陽キャの友人である。


 そして視界の端で憐れみの視線を向けてくる先輩には言いたい。


 あんたも同類だろ、と。


 なんか隣で彩葉がソワソワし始めたので俺は仕方なく声をかけてみる。


「彩葉も一緒に遊びに行くか?」


「え!?うん、絶対行く!……ヤバ、湊と遊びに行くとかもはやデートじゃん。まぁ2人きりではないけどお洒落頑張ろ」


 最後の方は何か独り言をぶつぶつ言っていたが、とりあえずこれで遊ぶ予定ができた。


 もしかしたら人生で初めて友人と遊ぶかもしれない。


 決して今までに遊びに誘われた事がなかったわけではない。


 ただ俺は元々天才子役として有名だった為誘ってくる人間は皆星宮湊というブランドと仲良くなりたい人間がほとんどだった。


 それに対してこの2人は俺の事を友人として接してくれる為ありがたい。


 海斗は正体を知らないからかもしれないが、彩葉に至っては正体を知っていてもなお俺を元天才子役の星宮湊ではなく、普通の高校生の星宮湊として見てくれるから嬉しい限りだ。


 そして次は彩葉や先輩が話す番かとも思ったんだが、いつの間にかみんな打ち解けたようで堅苦しい雰囲氣は消え去り各々が話したい事を話す普通の雑談へと移って行った。


 俺はその様子を見守りながら経験した事のない幸福感を味わっていた。


 雑談タイムは料理が来たタイミングで終了したが、今日この時間を設けられた事は絶対プラスに働いた事だろう。


 その後は全員が料理を完食して支払いを済まし店を出たタイミングで解散する流れになった。


 俺は今日という特別な1日を忘れる事は決してないのだろう。


 もしこの特別な1日を忘れる時が来るのならばそれはこういう日が特別ではなく日常へと変わった時だと俺は思っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ